菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #8 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>

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菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

菊池省三実践の最新深化形を紹介する連載第8回。今回は、子供たちが発する「つぶやき」と「雑音」への具体的対応について考えます。教師のフォローのしかた次第で、教室の学びの空気は大きく変わっていきます。

“つぶやき” は価値付けてほめる

子供の “つぶやき” と “雑音” に、教師はどのように対応していけばいいのでしょうか。
具体例を挙げながら、お話ししたいと思います。

“つぶやき” は、子供の素が出た場面です。

友達や教師の発言を聞き、「すっげー」「やったあ」「ヒュー」など、感情が昂ぶってつい声が出てしまったら、「静かにしなさい」と押さえつけるのではなく、

「今の『すっげー』は友達の意見を聞いていたからこそ出た声だよね。えらいぞ!」
「君のノリ、いいねえ。みんなも○○君ぐらいノってくれたらうれしいなあ」
と価値付けをしてほめましょう。このようなつぶやきは、学び合う教室の空気を温める起爆剤になるのです。

また、「もしかしたら△△かなあ?」「そう考えればいいのか」など、考えている最中や自信がなかったときにふともらした一言は、とても価値がある “つぶやき” です。

「今、○○さんがいいことをつぶやきましたね。聞いていた人いますか?」
「友達の意見をヒントにできるのはすごいことです」
と価値付けます。

このような“つぶやき”が学級全体に広がるのはとても好ましいことです。

“雑音” はプラスの方向に持って行く

一方、相手を貶めたり自分のことしか考えない身勝手な “雑音” に引っぱられると、学級がマイナスの空気に流されてしまいます。

こうした “雑音” は、ただ押さえつけるのではなく、次のようにプラスの方向に持っていくように対応することが大切です。

① 「同じでーす」
発表するのが面倒くさいからと、すぐに「同じです」で逃げようとする子に対しては、「似ている意見でも、一字一句全く同じということはありません。少しでもいいから、違う言葉で発表してみよう」と話しかけます。
また、こうした発言が出る前に先制攻撃。一人の子に小声で、「これから何人かに発表してもらうけれど、似たような意見だからといって『同じです』と逃げるような人は、このクラスにはいないよね!?」と挑発し、「同じです」と答えられない雰囲気にします。

② (他の子の発言に対し)「聞こえませーん」
ピシッとやめさせる必要があります。「音を消しましょう」と静かに促し、教室全体がシーンとなるまで待ちます。
静かになったところでゆっくりと、「○○さん、聞こえなかった人のために、もう一回発表してくれますか?」と話します。「人の発表を聞かないのはよくないこと」を自覚させるのです。

③ (他の子の発言に対し)「いいでーす」
安易に同意されたり、周囲の子が何のリアクションもなく静まりかえっていると、発表している子が苦痛を感じてしまいます。
だからといって他の子たちに「拍手は?」と強制するのではなく、教師が率先して大きな拍手を送るようにします。「先生が一番の応援者」であることを示します。

“雑音” はつまらない授業へのイエローカード

そもそも、子供たちはなぜ“雑音”を出すのでしょうか。

前回、「もっとわかるように勉強を教えて」という気持ちの裏返しではないかと述べました。

教科書をなぞるだけの授業や「○○スタンダード」のようなワンパターンの授業、正解を求めるだけの授業……目先の進度にとらわれた授業ばかり続けば、おもしろいわけがありません。

子供たちの “雑音” は、“つまらない授業”、“つまらない教師” への不満の表れです。

本来、授業が充実していれば “雑音” が出ることはありません。自分でじっくり考えたり、自由に立ち歩いて友達と意見交換したり、ときにはグループになって意見を戦わせたり……。頭をフル回転させる授業に、“雑音”が出る幕はないのです。

教師が一方的に「静かにしなさい!」「ちゃんと発表しなさい!」と注意する一方で、場当たり的に「子供たちをほめることが大切」だと思い出し、「拍手は?」と拍手を強制する。子供たちはその不自然さを敏感に感じ取っています。

教師がどんな学びをつくりたいのか、どんな授業をつくりたいのかというビジョンがないまま、自転車操業で進めていく授業がおもしろいわけがありません。

子供たちの “雑音” は、ゴールイメージを持たない教師のつまらない授業に掲げられたイエローカードなのです。

“雑音” は、押さえつけるのではなく、プラスの方向に持っていくことが大切。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
第5回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <前編>
第6回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <後編> ──高知県佐川町立黒岩小学校での授業より
第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>

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