菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #5 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

社会生活において必要不可欠な「コミュニケーション力」の育成を重視する菊池省三実践。その最新進化形を紹介し、教師と子供たちとが共に成長する教室づくりについて提案する連載第5回。今回は、授業動画のストップモーション分析による研修の形を紹介します。

この時期こそ、仲間と学び合おう

新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続き、まだまだ先が見えません。それでも3年目を迎えた今夏は行動制限が緩和され、感染対策に気を付けながら、全国で多くの学びの場が設けられました。私が主宰している「菊池道場」の全国大会も、東京で10周年大会を迎えることができました。
全国から訪れた参加者は「学ぶ意欲」にあふれ、9月に再び会う子供たちとコミュニケーション豊かな教室をつくり、共に成長することを目指している様子を感じました。

普段は一人で教材研究をしている人も、この時期は研究会やサークル等、仲間と学び合うことが多いでしょう。
そこで今回は、授業動画を使った研修のあり方について提案したいと思います。

非言語のアプローチに目を向けて

授業動画を使った授業検討は、「ストップモーション方式」という名称で1980年代後半から注目を浴びました。その頃20代だった私も、ストップモーション方式に関心を持ち、様々な研究会に参加しました。しかし、教師主導の一斉指導が主軸だった当時、ストップモーションで扱う動画は、優れた “リーダー格” の先生の授業動画で、動画を見ながらその教師の教授行為について学ぶものがほとんどでした。発問や指示など、教師が発信する場面にストップをかけ、その先生から説明を受けるというもので、どちらかと言えば、一方的にアドバイスをもらう、という形です。これでは、従来の“昭和”時代の研修と何ら結果は変わりません。

対話や話し合いをベースにした温かい教室・人間関係づくりを目指すのであれば、教師の「伝達言葉」だけを取り上げるのではなく、教師が子供たちをほめて・認めて・励ます「感情表現言葉」にも目を向けなければなりません。
また、言葉だけではなく、表情や受け答え、うなずき、立ち位置など、身体表現である「非言語のアプローチ」にも目を向ける視点が必要です。私はむしろ、非言語の対応にこそ、重点を置くべきだと考えています。 

私たち菊池道場の研修では、そうした「感情表現言葉」や「非言語のアプローチ」を含めた視点で動画を視聴していきます。
こうした研修会は、進行役、授業者、参加者の三者で行います。実際の授業を参観できなかった参加者には、研修の前にあらかじめ動画を見ておいてもらうといいでしょう。

全員参加で様々な視点を出し合うことが大切

45分間の授業すべてを1回の研修で行うのは時間的に難しいので、<導入の3分間><子供の話し合い場面>など、進行役があらかじめポイントを決めておきます。
ストップモーション分析においては、参加者全員が気付きや疑問(質問)、感想を自由に出し合うことが大切です。進行役は、参加者たちがベテランや一部の教師の意見に左右されないように気を配ります。
最初の発言がなかなか出ない場合は、例えば進行役から授業者に向けて「まず教室全体を見渡してから中に入ったのには、どういう意図があったのですか?」などと質問し、授業者に答えてもらいます。サンプルを出すことで、参加者もその後の質問や意見を出しやすくなるはずです。
サンプルを示す際のポイントは、「教室に入ってすぐ、窓側の最後列の子のところに向かったのはなぜ?」など、非言語の部分について触れることです。
「発問や指示以外に触れてもいいんだ」「こんな細かいところを聞いてもいいんだ」と感じてもらうためであり、次に動画を見るとき、もっと広い視野で授業を捉えてもらうためでもあります。

子供たちの主体的な学びを育てる土壌となる、活発な意見を交わす場をつくるために、どうやって空気を醸し出していくか。
繰り返しになりますが、教師の発問や指示だけでなく、パフォーマンス力にも目を向けることが必要です。非言語のアプローチは、指導案や文字資料からは見えにくいのですが、授業動画であればつかみやすいはずです。
同じ動画を見ても、一人一人視点が異なります。それらを出し合うことが大切であり、そのためにも全員が参加できるように進行役は気を配ります。
時間の節約のため、3~4人位のグループに分けてフリートークにするケースもよく見られますが、フリートークにしてしまうと、ベテランや意見を言いたがる人、「やってる感」を出したい人が主導権を握ってしまいます。十分な人間関係が築けていない学級でグループトークを行う子供たちと同様、「強い人」に押されてしまうのです。このため、最初の頃はできるだけ全員に発言の機会を保障するようにした方がいいでしょう。

こうしたストップモーションの学びを繰り返していくうちに、「授業を見る目」が共有され、視野も広がっていきます。具体的な対応策も出るようになり、やがて1年間を見通した指導が見えてくるようになります。授業者はもちろん、参加者にとっても大きな学びになるのです。

「客観的な事実」が詰まった授業動画をもとにみんなで学び合ううちに、ストップモーション分析自体の質も高まっていく。

※このテーマは、次回に続きます。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 ほかの回もチェック⇒
第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>

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