菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #11 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか<前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

菊池省三実践の最新深化形を紹介する連載第11回。いわゆる「11月の荒れ」を「学級集団づくりにおける混乱期」と捉え、その時期を乗り越え子供たちを成長させるための指導について考えます。

表面的な関係から、本音のかかわり合いに

「11月は学級が荒れやすい」という声をよく聞きます。2学期に入った途端、行事が目白押し。特に今年度は、これまでコロナ禍で中止や延期、縮小されていた行事が復活した学校も多いでしょう。
通常の授業に加え、行事(とその練習)が入り、子供たちも教師も時間に追われ、いっぱいいっぱいの毎日が続きます。お互いに溜まったストレスが「学級の荒れ」という形で出てくるのではないか、と考えている先生方は多いようです。

私は、この時期は、学級が「混乱期」に入ることも大きな要因ではないか、と考えています。

心理学者のタックマンが、チームビルディング形成について提唱した「タックマンモデル」を、私なりに学級の成長段階に当てはめた図を、この連載の第2回で紹介しました(下図参照)。

新しい学級で出会った子供たちがお互いを知る「形成期」を経て、ぶつかり合う「混乱期」に入っていきます。「混乱期」は、子供たちの本音が表れ、これまでの表面的なかかわり合いが変化する時期です。目標に対する意識の相違や対立などが生まれやすいのが「混乱期」の特徴です。

個人対個人、ときには個人対多数の衝突が起こります。この中には、もちろん教師も含まれます。

「新しい学級になって半年も経ったのだから、人間関係ができていて当たり前」という先入観と根拠のない自信は捨てましょう。これまでうまくいっているように感じたのは、子供たち同士の信頼感が浅く、ぶつかり合うほどの関係性が築けていなかったからにすぎません。

教師はまず、「今までの表面的な関係から、いよいよ本当の信頼関係を築く時期に入ったのだな」と肯定的に受け止める姿勢が大切です。

そして、下降線を描く学級を、自分の力でどうにかしようと、教師主導で無理矢理引き上げるのではなく、子供たち自らが上昇する流れをつくることが大切です。

“本当の学力” を育てるのは対話力

「混乱期」をどう乗り越えるか。
私は「対話力」こそが必須であると考えています。

子供たちがぶつかり合ったとき、教師は「よい・悪い」「正しい・間違っている」と裁くのではなく、子供たちに話し合いを通して、合意形成を図る力をつける指導をすべきです。「ぶつかり合うのは悪いことではなく、ただ意見が違うだけのこと。どのように次に行くか見つけることが大切」と子供たちに考えさせることが必要なのです。

そのためには、まず教師自身が「成長させたい学級のゴールイメージ」を強く明確に抱くこと。
子供たちに付けたい力は、教科書一辺倒の“学力”ではありません。
一人でじっくりと考え、友達と意見を交わし、いろいろな考えを認めながら、どうすればいいか自分で答えを見つけ出す。学校で学んだことをその場限りで終わらせるのではなく、自ら考え続けていく。そういうことを学ぶのが、“本当の学力”なのです。

教室の “当たり前” を見直す

そのためにはどんな場面でどんな指導をすればいいのか、教師自身が常に考え続けていかなければいけません。

例えば、発表の場面を見てみましょう。
多くの教室では、教師の発問に対して、わかった子供が挙手し、教師に指名されて発表します。
活発な話し合いを行うためには、このような挙手・指名から脱却し、指名なしの自由発表が不可欠である」という私の話を聞き、自由発表に取り組む先生方も増えました。とても嬉しいことですが、様子を見ると、「指名なしの自由発表ができる」ことが最終的な目標になっているように感じられることがあります。指名なしの自由発表は、あくまでも活発な話し合いを成立させるための手段であり、目標ではありません。

休み時間の場面で、子供たちは挙手・指名でしゃべっているでしょうか? 
班ごとに考えを出し合う場面で、子供たちは挙手・指名で話し合っているでしょうか? 
子供たちは自然に、自由に話しているはずです。つまり、挙手・指名は、“学校の授業”という限られた場面で行われている特異な活動に過ぎません。

自由に発表をすることは当たり前であって、目指すべき目標ではないのです。
このように、教室で“当たり前”に行われている指導を見つめ直すことから始めることが必須です。

自由発表は、活発な話し合い活動の基本。

※このテーマは、次回第12回に続きます。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 ほかの回もチェック⇒
第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
第5回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <前編>
第6回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <後編> ──高知県佐川町立黒岩小学校での授業より
第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>
第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
第9回 「コミュニケーション力が育つ」授業レポート① ~高知県高知市立三里小学校6年1組 <前編>
第10回 「コミュニケーション力が育つ」授業レポート① ~高知県高知市立三里小学校6年1組 <後編>

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