菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #26 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <後編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

全国各地での飛び込み授業を、菊池先生ご自身の解説付きでレポートする新シリーズ。
味生第二小学校の3年生に対する飛び込み授業から、コミュニケーション力を育てるアプローチについて考えていきます。菊池省三の「子供を見る目」を学びたい方、必読の連載です。

2つの立場に分かれて話し合う

<朝ごはんは パンがいいか、ごはんがいいか>
菊池先生が黒板に「ひとりひとりちがっていい」と黒板に書きながら、
「紙にどっちがいいか、自分の考えを書きましょう」
と話すと、子供たちがサッと鉛筆を握った。
パン派……18人
ごはん派……7人
「次に、先生は何と聞くでしょう?」
菊池先生がさっきと同じ質問をすると、何人かの子が手を挙げ、
「なぜ、選んだのか、理由を聞くと思います」と答えた。


このような場面で、たくさん手が挙がったほうがいいと判断し、「まだ他に誰かいませんか?」と促す教師がいます。
しかし、授業後半であれば、挙手の人数にこだわる必要はありません。単なる現象の1つとして考えてよい場面です。
「手を挙げることが大切」と考えるのか、「今は聞いているとき、考えているときだな」と判断するのか、教師の価値観によって対応が異なります。教師という“職業の直感”で、教室の空気を見切る力が必要です。

一人一人が理由を紙に書き、ごはん派とパン派、それぞれ4~5人ずつのグループに分かれて、作戦会議の話し合いが始まった。
「うちはいつもパンだし」
「起きてすぐだとパンの方が食べやすいよね」
あちこちで、楽しそうに話し合う姿が見られた。
2分ほど話し合った後、そのままの位置で、両派がお互いの意見を出し合った。


話し合いの空気を壊さないよう、そのままの位置で発表し合います。話し合った後自分の席に戻り、挙手して発表、という形を取ると、どうしても活動が分断され、せっかくの話し合いの熱が冷めてしまうからです。
また、そのままの位置で話し合うほうが、同じ立場同士の子が固まっているので、意見や反論も出やすくなります。この形は、ディベート的な活動のスタイルを取り入れています。

ごはん派
いつもお母さんがつくってくれるので、気持ちが伝わってくるから
タンパク質とか栄養が取れる
ごはんの方が味がある
小麦粉が合わない

パン派
いつもお母さんが出してくれる
ごはんだとあまり量が食べられない
早く食べられる
牛乳と合うから
食べやすい

「ピザはパンだから。僕の父ちゃんがつくるピザは美味しいけん、ピザが好きです」
と力説する男子をにっこり眺めながら、菊池先生は、黒板に書かれた「ひとりひとりがちがっていい」を指さした。

めあてを最後に出す “スリルとサスペンス” の授業

双方の意見が出そろったところで、次は、ごはん派・パン派が一緒に混じり合って、再び意見交換。
話し合っては、すぐに他の子のところに言って意見を交換し合う子供たち。話し合いが加速していく。
「それでは席に戻って、やる気の姿勢を見せましょう」
菊池先生がそう声をかけると、子供たちがサッと席に着いた。
菊池先生が黒板に書いた「えがお」という言葉に、さらに書き加えた(第24回参照)。
<えがお あふれる 学び合いができる教室をつくろう>
「こういう教室を、みなさんが先生と一緒に1年かけてつくっていくんですね。今日一緒に勉強して、みなさんならきっとできると感じました」と菊池先生が話すと、子供たちがにっこりうなずいた。


めあてを最後に持っていくことで、子供たちは「そういうことだったのか!」と感じます。自ら学んだ経験があるからこそ腑に落ちるのです。
いわゆる “○○版スタンダード” では、最初にめあてを黒板に書きますが、それだけではつまらない。
「どんなことを学ぶのかな」「核心はいったい何だろう」とわくわくする“スリルとサスペンス”のある授業が、話し合いの授業の醍醐味です。

菊池省三先生による第26回解説

話し合いの授業はライブであり、子供の活動そのものが教材です。
授業中、子供たちの発言や動き、表情、周りとのかかわり、または授業後の感想などから、学習者の意欲がどれだけ高まったかを評価していく視点が必要です。
コミュニケーションの学びは、すべての学習活動のインフラです。なくてはならないものですが、すぐにできるわけではありません。
1年間かけて取り組み続けていく覚悟と行動が問われるのです。

話し合いの空気を壊さないよう、同じ立場同士で話し合ったままの位置で、それぞれの意見を出し合う。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
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第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
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第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>
第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
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第21回 第5段階「解散期」と学びの「社会化」
第22回 教師と子供の“縦のつながり”で、安心できる教室づくりを
第23回 子供の呼吸に合わせるペーシングで、一人ひとりとつながる
第24回 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート④ ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <前編>
第25回 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート④ ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <中編>

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