話を聞ける子どもが育つ「教師の上手な話し方」5つのポイント

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関西学院初等部教諭

森川正樹

教室の中のコミュニケーションのほとんどが「話す」ことで行われます。教師が話し方を意識するという日々の積み重ねで、話を聞ける子どもが育つかどうかが大きく変わります。

執筆/関西学院初等部教諭・森川正樹

話し方を意識して教師力を底上げする メイン

①環境づくり~聞く構えをつくらせる~

「話す」ためにはまず「聞く」の意識を変えていくことが大切です。そのために基本となるのは教師が「話すときに話させない」というルール。ここを最初に徹底します。

少しでも子どもが話しているときに教師が話し出してしまうと、「それでいい」となってしまいます。このことは、「人が話していても少しくらいなら話してもいい」という裏ルールに結び付いていきます。

そうなれば大切な仲間の話を聞くときにもそれが出てきます。よって、まずは教師自身が話そうとするときに話す子を見逃さず、止めさせ、話を聞かせるのです。これが「聞く構え」の基本です。

次に仲間同士の「聞く構え」について。

仲間に伝えたい。

仲間から受け取りたい。

子どもたちにこの二つの意識がきちんと機能していることが「話をする」「話を聞く」の出発点です。そこで、話し出すときに次のように声をかけます。

「こだわりなさい」

子どもたちは話し出すときに、こちらが意識しなければ誰かが話していても話したり、ゴソゴソしたりしてしまいます。それをスルーさせてはいけません。「言ってもいいですか」とか、「言います」と言って話し出させる場面はよくありますが、あの言葉が形式だけのものになっていることが多いのです。

そこで、聞いていない子がいるときは、「〇〇くん、いいですか」まで言わせます。「まだ少しザワザワしています」と言わせるのです。それを促す、「全員が聞いているか確認するための『こだわりなさい』」なのです。

逆に、全員が聞いているときはいちいち「言ってもいいですか」は言わなくてよいのです。

これらは細かいことですが、後にクラス全体で話合いをさせたり、高めあう授業をしたりするためには大切な環境づくりなのです。

②授業場面~思考させるための話し方~

まず最初にイメージしてください。

授業場面。あなたはどのくらい話しているでしょうか。どのような話し方をしているでしょうか。

まずは授業場面での教師の話し方。

以下のことをしていませんか。

子どもが話した後にオウム返しをする

子どもが話した後にすぐに発言をオウム返ししていませんか。全国の教室で何気なく繰り返されている光景だと思いますが、ここに危険な要素が潜んでいるのです。

まず、毎回毎回教師が子どもの発言を復唱していると、子どもは、子どもの発言、つまり友達の発言を聞かなくなります。聞かなくても教師がきちんと言ってくれるから。友達の意見を聞かずに、聞き取りやすい教師の言葉を聞けばよい、となるのは自然なことです。

しかし、そうなると子どもたち同士の話合いなど、一生かかってもできません。子どもたちが友達の発言を必死に聞こうとする姿が重要なのです。

さらに恐ろしいのは、教師が都合よく解釈して子どもの話をうまくまとめて話したり、板書したりしてしまうことです。これを続けていると、子どもたちは話さなくなります。なぜなら、自分の発言が微妙に変えられて場に再登場するのですから、口には出さないにしても、何だかむなしく感じてしまうのです。

もちろん分かりにくい発言をした子に対して、意を汲んで言い直してあげることも大切です。しかしそれは、話し方の指導であり、表現技法の指導です。

読みとりなどのためにクラス全員で話し合い、試行錯誤していく高まりの中では、教師は子どもの発言を言い換えて場に出すべきではありません。もし言い換えるならば、本人に聞きながらか、もしくは別の子に言わせます。

弊害はまだあります。教師がいちいちオウム返しをすることで、時間が倍かかります。

子どもだけでどんどん発言していく場合、

思考させるための話し方1

となります。

しかし、教師がそこにいちいち入った場合、

思考させるための話し方2

となります。こうして視覚化してみると、一目瞭然ですね。同じ4人の子が話すのに、教師がいちいち取り上げることで倍かかるのです。

もし子どもたちにたくさんの気付きを出させ、情報をたくさん授業の場に出させたい、という時なら、教師の発言はいりません。相づちはいりません。子どもたちにどんどん連続で言わせればよいのです。挙手指名方式もいりません。教師が歩きながら順番にあてていくだけでよいのです。余計な言葉はいりません。

例えば、社会科の「資料の読み取り」の授業。

教師が言葉をいちいち挟む教室の1時間の子どもの発言数が20、教師が受け取らない教室の発言数が40だとしたら、この20の差は1年間で大きく膨れ上がります。どちらの教室が子どもに力が付くかは、想像に難くありません。

では、子どもたちの発言があった後は、教師はどうすればよいでしょう。

受け取ってそのまま板書したり、その子に問い返したりすることはあります。しかしそれが全てではいけません。

まずは「沈黙」をつくります。

すると、周りで聞いていた子たちの反応を感じることができます。

教師がいちいち返していると、そもそもこの〈周りの子のわずかな反応〉が拾えません。気付かないのです。

発言の後、聞いている子どもたちは「ん?」とか「そうか」という反応をします。それは首を傾げたり、ピクッと手を挙げようとしたり、「確かに!」といったつぶやきであったりします。それを拾っていくのが教師の仕事です。

さらに沈黙は、子どもの思考を促します。先生がすぐに反応して復唱すれば、子どもは思考できません。

①友達の話を聞く 

② 一旦受け取って考える(理解する・理解できないなら聞き返す)

③自分の考えをつくる(再構成する)

といった一連の思考の流れの中、①の後に教師の「声」が入ることになります。そうすると、①で話を聞いた直後の反応が濁ります。教師の話で直前の子どもの〈生の声〉が飛んでしまう可能性があるのです。

「子ども」→「子ども」の反応が続いてこそ、話合いにもつながります。教師の親切は子どものリアルタイムの思考に水を差す、いらぬお節介なのです。

「話し方」を意識することは、子どもを大事にすることです。「話し方」を意識することは、授業を大事にするということです。話し方を考えるなら、まずは「沈黙」をこそ考えるべきなのです。

③生徒指導場面~子どもと信頼関係を結ぶ話し方~

子どもとの信頼関係、親との信頼関係を結ぶための話し方です。最初に大切なのは「納得させて帰す」ということです。

問題行動があり、指導をしたとします。しかし、その日の夕方や後日、保護者の方から問い合わせや質問がくることがあります。それは、どのケースもとどのつまり、「本人が納得していない」という場合が多いのです。

だから、帰す前にそれをきちんと意識して指導しなければなりません。そのためにつかっている言葉を思い出してみると、例えば以下のような言葉になります。

・先生は平等に考えたい
・思いこみで注意したくない
・(知らなくても)知っています
・先生は君のために話をする
・ここで話さなければ後悔すると思うから

私は直接「納得している?」と問うこともあります。このような言葉をつかうからうまくいく、ということではなく、このような意識でもって子どもと接する、ということ。納得して帰すための布石です。

子どもたちに、「あなたのことをただ怒りにまかせて怒るわけではない」ということをきちんと表明しながら語る、というイメージでしょうか。

子どもたちは、「きちんと理解してくれた上で叱られた」と感じた状態の時は納得して帰ります。そこの部分をきちんと意識的に保証していくことも大切です。

④大勢に話す場面~子どもたちが自分事として聞く話し方~

大勢に話すときには、子どもたち全員が自分事として最後まで話を聞けるかどうかが大切です。そのために、まず基本となるのは「フレーズを短く切る」ということです。センテンスが長いと、子どもたちは的を絞って聞くことができません。

例えば、運動会の練習などでの二学年合同体育。ここでは人数が多いので、最初に気を遣うのは視線を送る、ということです。端から端まで視線を巡らせて話します。

その上でセンテンスを短くしながら、称賛と次への課題を交互に話すイメージで話を進めていきます。時折ユーモアを入れると、さらに効果的です。なぜなら、子どもたちは練習でどんどん疲れていくからです。そんな時にユーモアは、ちょっとしたカンフル剤になります。

例えば水泳指導。

プールの中に入っているテンションの上がっている子どもたちに対して、だらだらしゃべっても誰も聞いてはいません。しかしそれで事故に繋がったら大変です。プール指導は指示は短ければ短いほどよいのです。

「はい、では静かにしなさい。1列目、特にうるさいですよ。1列目が騒がしいので順番を入れ替えます。2列目からプールに入ります。先生が笛を吹いたら入ります。いいですか…」

とやっていても、ほぼ意味がありません。

「2列目、入ります。ピッ!」

でよいのです。その時は、ハンドサインも忘れないようにします。2列目を表すピースを指でつくり、提示しながら笛を吹きます。もしザワザワしていたら、話を始めません。2列目が入ってから、「騒がしい列は後回しにします」と言います。

子どもたちとはハンドサインを決めておきます。笛とハンドサインでほぼ全てをまかなっていくイメージで指導を組み立てます。

ピッ!(笛)と同時に「プールへ入る」の合図。

ピッ!(笛)と同時に「鼻までつかる」の合図。

という具合にシンプルに組み立てれば、授業もリズムよく進み、子どもたちも集中していなければ次の行動が分からないので、聴覚と視覚の両方を研ぎ澄まして次の指示を待つようになります。

言葉や笛だけだと聴覚だけを働かせることになり、先生の方を見ません。ハンドサインを入れていくことで、子どもたちは先生の方を常に確認するよになります。そうすれば、話を聞く態勢にもすぐに入れます。

プール指導は、いかにして言葉を減らして全員に指示を通すか、安全を確保するかなど、いろいろなことを考えさせられるのでとても勉強になりますね。話し方の修行になります。

しかし「話し方」を意識せずに取り組むと、ただの叱責の場になってしまいます。

⑤学級づくり場面~子どもが先生を大好きになる話し方~

最後は、何気ないおしゃべりや楽しい話をするケースです。

子どもたちにとっての教師の魅力は、その先生のする授業でつくられる…のは大前提として、もう一つ。子どもたちが先生との距離を縮めるのが、何気ないおしゃべりや相づち、先生の話してくれるエピソードです。

まず、私が原則としているのは、話しかけてきた子全員に必ず返事を返すということです。

当たり前のことですが、例えば休み時間に子どもたちが一斉にどっと集まってきて、「先生、さっき○○君に~」「先生、○○を忘れて~」「先生、お母さんが~」と口々に話し出すシーンがあります。

そこでは順番に話をすることや、マナーのことも教えますが、まず大切なのは話しかけたけれど先生の反応が無かった、という状態の子をつくらないということです。

きちんとした対応ができないときは、

「ちょっと待っててな」

「聞いてるよ」

「給食の時にもう一回それ持ってきて」

「後で二人で先生に話しかけてきて! 先生、忘れちゃうかも」

と、まずはその瞬間の対応をきちんとこなし、そしてその後、順に1ケースずつ対応していくということです。

ここで取りこぼす子をつくり、それを何度も繰り返していると、子どもたちは先生に話しかけに来なくなります。そして信用が失われていきます。

逆に、「先生、ちゃんと聞いてくれた」「先生、ちゃんと覚えていてくれた」「先生、ちゃんと渡してくれた」といった感想を子どもが抱き続けると、そこには信用が生まれてきます。

子どもからの信用は大きな場面で生まれるのではなく、小さな日常場面の中でコツコツと蓄積されていくものなのです。

次に、先生が楽しいエピソードを語る場面。

担任の先生が口を開けば、いつもいつも小言や叱責、注意、ではあまりにも寂しい。このような人は、子どもたちの中で「話しかけたくない先生」にカテゴライズされてしまうでしょう。

朝の会や学活、終わりの会などで時々は先生の小さい頃のエピソードや、旅行に行った時のエピソード、好きなことなどの話をしましょう。

子どもたちは先生の「素」が見える瞬間が大好きなのです。

私の場合は、小学校時代のエピソードから現在に至るまで、あらゆるエピソードを教室で子どもたちに披露しています。子どもたちは「エピソードを話します!」というと、歓声を上げて喜んでくれます。

中でも人気なのは、私が小学校の時に結成していた「妖怪探偵団」の話。子どもたちに刺さるのは、やはり同じような子どもたちの話です。個性的な仲間と一緒に遊んでいた小学生時代の話を、実話を元にして語っています。

ここで楽しくエピソードを語る上での小さなコツを紹介しましょう。

語るときは固有名詞を入れてリアルに話す

友達の名前や地名、商品名などできるだけ細かく再現します。その方がリアリティが増し、子どもたちは惹きつけられます。

視線をうまくつかって奥行きを出す

視線は、教室を舞台に変える力をもちます。遠い目をして奥行きを出し、視線を右や左に変えることで、横に別の人物がいる設定にできます。

クイズ形式で進めて話に引き込む

「何て言ったと思う?」「何が出てきたでしょうか」「もう一つ先生がもらったものは何でしょうか」という風に簡単なクイズにしたり、問いかけ形式にしたりして、巻き込んでいきます。

前提を話して本編を話す

「とんでもないものが見つかったんです」「こういう時はうまくいくものでね…」「こういう時に限って出てくるのよ。先生が…」「成功すると思っていたから思いっきり跳んだのよ! そしたら…」という風に、その先を予感させる前提を示しておいて、本編の話に戻ります。子どもたちは「うわ~」とか、「ああ~」とか言いながら話に熱中して聞いています。

一緒に笑う

結構これがききます。先生が思いっきり一緒に笑うことで、クラス全体の一体感が生まれ、子どもたちも安心します。

学級づくりの場面

話し方は教師の生き方が露呈される

「話し方」ほど教師の生き方が出る場面はありません。「全員に聞かせよう」「納得させて返そう」「ここでユーモアでちょっと楽にさせるか」「全員で楽しく笑おう」「端まで話が届いているかな…」。話す時には様々に考えを巡らせましょう。

「話し方」は様々な要素ででき上がっています。何も意識しないで話せば、意識しない子が育ちます。意識して話せば、答えは子どもの姿となって返ってきます。

意識は生き方。教師として、意識して話していきましょう。

※「話し方」については拙著『教師人生を変える! 話し方の技術』(学陽書房)をご覧ください。

イラスト/本山浩子

『小四教育技術』2018年2/3月号より

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