菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #25 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート④ ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <中編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

全国各地での飛び込み授業を、菊池先生ご自身の解説付きでレポートする新シリーズ第2弾。
味生第二小学校の3年生に対する飛び込み授業から、「子供同士をつなぐ」ための具体的なアプローチを分析していきます。菊池省三の「子供を見る目」を学びたい方、必読の連載です。

“能動的に聞く姿勢” を育てる

菊池先生が黒板に自分の名前を書きながら、左側にふりがなを振った。
「先生のかなの振り方、普通とちょっと違うんだけど、気付いた人はいますか?」
菊池先生の問いかけに、数人が手を挙げた。
「読み仮名は普通は右側に書くのに、左側に書いている」
さっきから、はりきって菊池先生の全ての問いかけに挙手している男子が答えた。
「『菊』という字を初めて知った」
と、別の子が発表すると、その意見を聞いた子が「あー!」と言いながら、手を挙げた。
「『三』を『ゾウ』と読むのは、学校で習っていない読み方だと思った」
菊池先生は、<気づき合う><あ!!思いついた>と黒板に書き加える。さらに、
「何か見たり読んだり聞いたりしたら、思いつく。これが教室だよね」
と言い、最初に答えた子と握手しながら、
「彼が言ったことを言える人は立ちましょう」と問いかけた。
半数が立ったところで、すかさず菊池先生が、
「もう一回言ってもらいたい人はいますか?」
と尋ねると、みんなの手が挙がった。
「ではもう一回言ってもらっていい?」
男子がもう一度発表し直した。


「聞く」姿勢は目に見えないため、子供たちが本当に聞いているかどうかは把握しにくいものです。
そこで、「今、○○さんが言ったことを聞いていた人?」と尋ねれば、その後、子供たちは自然に他者の発表に耳を傾けるようになります。
聞いていない子が多いかな、と感じたときは、「もう一回言ってもらいたい人?」と尋ねることで、「次はちゃんと聞くぞ!」と子供たちが考えるようになります。
「ちゃんと聞きましょう」と指導しても、子供たちはその場限りの受け身になります。自分から聞こうとする、“能動的に聞く姿勢” を育てる視点を持ちましょう。

「では、さっき何と言っていたか、聞いていた人?」
菊池先生が問いかけると、全員の手が挙がった。菊池先生は、前の場面で手を挙げたものの発表できなかった子のところに向かい、その子と握手しながら、
「さっきは言えなくて後ろの子に助けてもらったけれど、今度は堂々と手を挙げる。かっこいいですね」
と話しかける。みんなから大きな拍手が起こった。
「そうですね。みんなが気付いたように、ふりがなを左側に書きました。右側に書くとみんなふりがなしか見ないけれど、左側に書くと、漢字とふりがなの両方を見てくれるからです」
菊池先生が説明すると、「なるほどー」「へえ」と子供たちから感嘆の声が上がった。


周りの雰囲気に呑まれてつい手を挙げてしまったものの、指名されても答えられない子がいます。
そういう場合は、「まだ考えている途中だったかな? じゃあ、次でもいいよ」「○○さんが言おうとしていたことを代わりに言える人?」と助け船を出す声かけをします。失敗感を与えないようにすることで、子供はその後も手を挙げられるからです。
そして再び手を挙げたら、挽回のチャンス。その子を指名し、ほめるのです。
「さっき『次でもいいよ』と言ったことを、先生は忘れていなかったんだな」と、自分を認めてくれていたことに安心感をもち、子供たちは積極的に手を挙げるようになります。
「指名しても答えられない」「他の子を遮るように手を挙げる」という一見マイナスに見える行為はさらっと流し、挽回できる場面でほめる。ほめる行為はその場だけでなく、連続した時間の中で、見つけていけばいいのです。
「10割ほめる」という姿勢を持ち続けて子供たちを見ていけば、ほめる場面はいくらでも見つけられます。

話し合いで多様な質問項目が生まれる

自己紹介の後、菊池先生への質問タイム。
「隣同士で質問を考え合いましょう。1分くらい時間を取るけれど、いくつぐらい質問を考えられそうですか?」
菊池先生が問いかけると、「3つ」「10個」「100個!」と声が上がった。


質問を考える活動は、少人数での話し合いにぴったりです。一人で考えるより多様な意見が出てくるし、発表の際にも手を挙げやすくなるからです。
ポイントは、具体的な数値を示すこと。
時間や項目数を挙げることで、子供たちの競争心に火をつけます。
「どれくらい時間が必要?」と尋ね、子供たちが「3分」と答えたら、「じゃあ2分59秒だ」と返し、「いくつ考えられる?」と尋ねて「10個」と答えたら、「じゃあ、隣の君は?」「他の学校の子供たちは、30個と答えました」などとあおる。
数値の努力目標を立てることで、子供たちは競って考えるようになります。
タイマーは必要ありません。タイマーを押して、「まだ考えていない? じゃあ、あと2分追加ね」と声をかける場面をよく目にします。一見子供の様子を見ているようで、実際は子供たちの学びのリズム、テンポを壊しているのです。
子供たちの様子を見ながら、適度に「あと1分」「あと5秒」と声をかけていくことで、子供たちの話し合いのスピードが上がっていきます。

「趣味は何ですか?」
「小学生のとき、好きだった教科は?」
「自己紹介で、子供の頃はいたずらをしたと話していたけれど、どんないたずらをしたんですか?」
「一番幸せな時間はいつですか?」

子供たちは、次々と菊池先生に質問した。3択問題にしたり、クイズ形式にしたりしながら、菊池先生が答えていった。
当てられたと間違えて立ち上がった男子に、周りの子が「○○君じゃないよー」。
ずっと手を挙げ続けてきた男子のフライングを周りが止めようとしたとき、菊池先生が、
「やる気があるという表れだよね」
とほめると、一人の子が「おおーっ」と言いながら拍手。すると、菊池先生は、
「今のリアクション、いいねえ。ちょっと時間を巻き戻すから、もう一回やってくれる?『やる気の表れ』ですね」
と言うと、他の子たちからも「おおーっ」と大きな拍手が起こった。

菊池省三先生による第25回解説

聞いていないときには、「もう一回言ってほしいと思う人?」と問いかける。
一度失敗しても、再び手を挙げたら、挽回のチャンスを与える。
指名されていないのに、フライング気味に発表した子には、「やる気の表れ」だとほめる。

今回紹介したような話し合い活動における教師の役目は、「つなぐ」ことです。
拍手を促したり、“時” を戻して全員が答えられるようにしたり。一見、マイナスに見える行為もプラスに価値づけてひっくり返し、みんなとシェアして認め合うことで、教室に “健全な共犯関係” ができあがっていきます。その連続が、学級文化を培っていくのです。

話し合うことで、一人で考えるより多様な質問項目が出てくる。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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