菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #13 コミュニケーション力が育つ授業レポート② ~岡山県浅口市立鴨方中学校2年2組<前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

岡山県浅口市立鴨方中学校の2年生に対する飛び込み授業を、ポイント解説付きでレポートします。4コママンガを教材化した道徳授業。話し合いを経て、子供たちの思考をどう深みへと導いていくのか。今回も学びのポイントを満載してお届けします。

4コママンガを使った話し合い

「今日はマンガを使った授業をしたいと思います。隣の人に『あんた、マンガ好きか?』と聞きましょう」
菊池先生が話すと、生徒たちは大爆笑。一瞬で教室の空気が温まった。

導入において、笑える内容をお互いに言い合うことで、子供たちの緊張がほどけていく。

すかさず、菊池先生が1枚の絵をみんなに見せた。北海道の新聞に掲載された4コママンガの1コマ目だ。
「これはどんなシーンでしょうか? 隣の人と5秒だけ話し合いましょう」。
生徒たちは笑顔で話し合い、その後、縦の1列6人が発表した。
発表の前に、菊池先生が「このクラスには、『(前の人の意見と)同じです』と答える人はいないよね? たとえ1文字だとしても違うはずだよね?」と一人の生徒に話しかけ、その生徒が「そう思います」とうなずいた。

ボールがガラスに当たって割れた
運動していて、ボールを打って当たった
ボールが跳ね返って、窓ガラスに当たった
ボールが壁に当たった ・窓ガラスに当たった

5人が発表したところで、
「さあ、空気を読んでくださいね。もうみんな拍手の準備をして待っているぞ」
と笑いながら、最後の一人に “プレッシャー” をかけた。生徒が「いたずらでガラスを割った」と発表すると、みんなから大きな拍手が起こった。

最初に、一人一人が自分の言葉で発表するよう誘導し、最後の子供を牽制することで、子供たちは一層頭をひねって答えようとする。同時に、頑張った人に対しては、みんなで拍手をして讃える、という温かいルールを自然に身に付けさせる。

続いて、菊池先生が2枚目の絵をみんなに見せた。
「さっき『5秒では短い』という声が上がったので、6秒にしましょう。これがどういうシーンか、隣の人と相談しましょう」
次は、意表を突いて、違う縦列の後方の生徒から発表するように指示。身構えていた最前列の生徒がずっこけ、みんなが大爆笑する。

列指名の発表の順番は<最前列の子から>と決めず、時に<最後列の子から>という “変化球” も投げることで、子供たちの集中力がより高まる。

おじさんに怒られている
窓ガラスを割った子がおじさんに殴られた
窓ガラスを割った子が殴られた
1枚目と2枚目の絵の間で、子供が嘘をついたから殴られたのではないか

発表が終わると、生徒たちが大きな拍手をした。
「今、発表してくれた人もいますが、マンガの出し方がちょっとおかしいですよね。気付いた人は手を挙げましょう」
ほぼ全員が手を挙げた。
「2コマ目を飛ばして3コマ目を出したと思う」
とある生徒が答えると、菊池先生が、
「正解! では、2コマ目はどんなシーンなのか、紙に予想を書いてみましょう。その後、席を立って自由に友達と話し合い、話し合った内容を紙に書き加えましょう」と指示を出す。
それを受けて生徒たちが席を立ち上がろうとしたタイミングで、菊池先生は、一人の生徒に声をかけた。
「一人ぼっちをつくらない。男女関係なく会話する。このクラスでは当たり前だよね?」。
その生徒がうなずくと、
「先生もそう思います。だから、このクラスはいい空気になるんだね」
と伝え、その生徒と握手した。

特に中学生は同性同士で固まることが多いので、話し合いの前に牽制しておく。

意見交換では、男女混合グループがいくつもできた。友達の意見を聞いて笑い合ったり、紙に写したりする姿が見られた。
生徒たちからは、次のような予想が出た。

窓ガラスを割った子が、勝手におじさんの家に入った 
ガラスを割って、「どうしよう」と悩んでいる
ガラスを割ったところをおじさんに見つかった
謝りながらボールを取りに行った

どちらの味方か、自分の立場を決める

発表後、菊池先生が、「おじさんにいきなりお金を払おうとしている子供」が描かれた2コマ目の場面を見せた。その上で、
「この3コマのマンガを見て、みんなは子供とおじさん、どちらの味方をしますか?」
と尋ねた。さらに黒板に、(仮)と書きながら、
「今の段階での意見なので、(仮)です。(仮)だから、話し合う中で考えが変わってもかまいません」
と付け加え、決を採った。

話し合いのスタート時に大切なことは、自分の考え(立場)を明確にすること。
「○か×か」「1か2か」などと、あえて二択で問うことで、自分の考え(立場)をはっきりと示させる。さらに、「友達と意見を交わす中で、意見を変えてもいい、それは潔いことだ」と指導することも重要。


結果は、次の通り。

子供 9人
おじさん 24人

結果を見ながら、菊池先生が、
「おじさんの味方が多いので、子供のほうに散歩に行ってもいい人、いませんか?」と尋ねると、二人が手を挙げた。

二択の発問で答えが偏った場合、もう一方の意見の側に「散歩する」(立場を変える)よう促す。
一つの正解を求めるのではなく、一人一人考え方が異なって当たり前の問いの場合、あえて異なる立場に移って考える柔軟さも大切。

その結果、最終的に、
子供 11人、おじさん 22人
になった。
「それでは、選んだ理由を書きましょう」。
生徒たちが書く間、菊池先生が机間巡視しながら、
「一つ書き終えたらおしまいではなく、二つめ、三つめを考えている人がいますねえ」
とつぶやくと、生徒たちの手の動きが忙しくなった

「いくつも書きましょう」と指示するのではなく、書いている人を取り上げてほめる、あるいはあたかも書いている人がいるように話すことで、他の生徒たちももっと書くようになる。
一つの正解を求める問いではないので、理由はいくつあってもいい。一つ書いて終了ではなく、考え続ける習慣付けになる。

理由を書いたところで、同じ意見同士の生徒同士で自由に4、5人のチームを作り、意見交換をした。

「暴力はダメだけど、お金で解決するっていうのもねえ…」
「そもそも1000円では足りないでしょ」……

あちこちで賑やかな声が響く。
あるチームから拍手が聞こえると、
「あのチームは盛り上がっているなあ。他の班も盛り上がれよー」と菊池先生が煽る。
あちこちからさらに大きな拍手が起きた。

二択の問いを投げかけ、一人一人の意見(立場)を明確にすることで、話し合いが活発になる。

※このレポートは次回の「授業レポート後半編」へ続きます。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
第5回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <前編>
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第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>
第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
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