菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #17 コミュニケーション力が育つ授業レポート③ ~愛知県豊橋市立松山小学校2年ろ組 <前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

菊池実践の最新深化形を紹介する隔週連載第17回。今回は、愛知県豊橋市立松山小学校の2年生に対する飛び込み授業の様子をポイント解説付きでレポートします。菊池先生の低学年児童向けの授業は、どんな空気感なのでしょうか。

発表したくなる言葉かけで、やる気がみなぎる

「みなさん、こんにちは」
菊池先生が廊下から声をかけると、子供たちの視線がさっと廊下に向かった。
「こんにちは!」
「元気がいいですねえ。みなさんは2年生でしょう?」
子供たちが大きくうなずくと、
「3年生ぐらいの声の大きさで聞こえました。じゃあもう一度、4年生の声でいきますか? いい?」
と菊池先生があおると、子供たちは割れんばかりの元気な声で、
「こんにちはっ!!」
菊池先生が笑顔で教室に入った。

最初はあえて廊下から語りかけることで、子供たちの注目を一気に集める。
「大きな声で」「元気よく」と抽象的に説明するよりも、具体的に「1~2学年上」を目標にしてあおることで、子供たちのやる気に火をつける。

「今日は二人の動物の話をしようと思います。一人は大きい動物です。どんな動物だと思うか、近くの人と3秒間話しましょう」
話し合いの後、縦列で指名された子供たちが口々に、ゾウ、イルカ、カバ、クジラと答えていった。
「先生が考えてきた動物は、最初に発表してくれた人が言った動物なんだけど、聞いていて覚えている人はいますか?
菊池先生の問いかけに大勢が手を挙げた。
「ゾウです」
一人が発表すると、大きな拍手が起こった。

「人の発表をちゃんと聞きましょう」と指導するより、「友達の発表を覚えている人は?」と尋ねることで、その後、子供たちは他の子の発表を真剣に聞くようになる。
発表した子も聞いていた子も、全員をほめる姿勢が、子供たちのやる気を引き出していく。

「もう一人は、小さい動物です」
菊池先生が続けて問いかけると、縦列で指名された子供たちがリス、ネズミ、アリ……と発表。
「2番目の友だちが言ったことを聞いて覚えている人?」
さっきより、大勢の子が手を挙げた。
一番後ろの子が答えを発表しようと席を立つと、菊池先生がその子のところに行き、
人の話を聞くときは、(自分の)心臓を向けてあげるんだよ」と声をかけた。全員が注目して発表を聞いた。
「ネズミだと思います」
再び大きな拍手が起こった。

ここでも、「人の話を聞くときは、相手をちゃんと見ましょう」と指示するのではなく、「相手に心臓を向けよう」という具体的かつ印象的な表現で伝えることで、子供たちは発表者にサッと体を向けることができるようになる。
みんなで話し合う・聞き合う姿勢が整ってくると、拍手にもより力がこもってくる。

○か×か、自分の立場を決めてから話し合う

「今日はゾウさんとネズミさんの話をします。1回しか言わないから聞いてね」
と菊池先生が話し始めた。

あるところに、ゾウとネズミがいました。二人はとても仲良しで、毎日毎日楽しく遊んでいました。
ところが、ある日ちょっとしたことでケンカをしてしまいました。
ケンカでは勝てっこないネズミは、ゾウが寝ている間に傷つけてやろうと、ゾウの脚を蹴ったり噛んだりひっかいたりしました。
でも、ゾウはびくともせず、けがもしませんでした。

「ネズミがゾウにしたことを、いいことだと思う人は○、よくないと思う人は×、紙に書きましょう」
と菊池先生が問いかけると、みんながサッと鉛筆を動かした。

〇 2人
× 25人

続けて、理由を考える。
菊池先生が、書けていない子を見つけると、みんなに話しかけた。
「自分で考えて答えを書こうとしても、悩んで鉛筆が動かないときがあります。そういうときに、先生が『書けた人?』と聞いても、手は挙がらないよね?
でも、自分一人では悩んで書けなくても、友達と教え合ったり、写したり、ひらめいたら書き加えたりして、その後先生から『書けた人?』と聞かれたら、安心して手が挙がるよね?」
みんながうなずいた。
「それが教室ですね。よし、途中でもかまわないので、今から紙と鉛筆を持って、いろんな友達と写し合いましょう
子供たちは席を立ち、いろいろな友達と意見を交換し合った。

自分一人で答えが出てこないときは、友達と意見を交換し合いながら、自分の意見をつくっていくよう促す。
友達の意見を写すことは、自分の意見をつくるためで、ちっとも悪いことではない、意見を交わす中で、最初に考えていた意見と逆になることもある、と伝える。

意見交換の後、子供たちからは次のような理由が発表された。

ネズミがゾウより大きかったら、ゾウは怪我をしたかもしれないから
友達を傷つけてはいけない
ケンカをしても、相手を傷つけると、自分も悪くなってしまう
ケンカは暴力だと思う。ケンカするほど仲がいいっていうけど……。

そのとき、発表している子の後ろの席の子が、「ひらめいた!」という表情で言った。
「ケンカするほど仲がいいと言うけど、悪口も暴力かもしれないのでは?」
それを受けた菊池先生は、
「人の発表を真剣に聞いていたから、『ひらめいた!』『付け加えたい』と思えるんだよね。すごいなあ。みんな、ここで大きな拍手!」とほめた。

イレギュラーな発言を、すべて“余計な一言”とひとくくりにしてはいけない。
話し合いの質を高める “つぶやき” ならば、あえて拾い上げることも大切だ。

発表が終わると、菊池先生が全員に尋ねた。
「じつはこの話には続きがあります。…続きを話していい?」
全員が「はいっ!」と大きな声で返した。

※この授業レポートの続きは、第18回をお読みください。

菊池先生は、教室を縦横無尽に歩き回る。
発表する子の傍へ歩み寄ったり、写真を見せたり…。授業の間、菊池先生は教室中を縦横無尽に動き回る。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
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第6回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <後編> ──高知県佐川町立黒岩小学校での授業より
第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>
第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
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