菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #42 菊池省三解説付き授業レポート⑨ ~山梨県甲斐市立敷島中学校 生徒会による出前授業 <後編>
今回は特別編の最終回。中学生が敷島小学校の6年生に対して行った授業と、その後の菊地先生によるワンポイント授業を解説します。目の前の子供の姿に応じ臨機応変に対応する、菊池先生の「授業ライブ力」に学びましょう。
目次
中学生による6年生への授業
敷島中の生徒会による出前授業は、前々回の#40とほぼ同じ展開で行われたため、詳細は割愛する。
敷島小学校の6年生2クラスに向け、クイズを交えながら「中学校生活」について紹介し、「自分が成長するためには、友達や仲間の存在が大きい」というメッセージを伝える、25分間の授業だ。
前回、前々回同様、残りの20分が菊池先生にバトンタッチされた。
菊池先生によるワンポイント授業
6年生から大きな拍手で迎えられた菊池先生。菊池先生が一人の男子と握手しながら、
「君は、中学生の話をずっとうなずいたり、前屈みになったりして聞いていたよね。これってすごいことだと思わないか?……ここで拍手だな!」
と話すと、6年生が大きな拍手をした。
菊池先生が握手をした男子に小声で、
「あんまり聞かれたくないなあ。敷島小の6年生は……(コソコソ)」
菊池先生の言葉を必死に聞こうとする他の6年生たちに、菊池先生が「聞かないで!」と話すと、みんな大爆笑した。
私が握手する子を選ぶ基準は2つあります。
1つは、いいところを見つけて価値付けてシェアすること。
もう1つは、マイナスの行為をリフレーミングし、価値付けてほめること。
授業序盤でのこうしたかかわりの目的は、全体の空気を温め、盛り上げることです。
「2人の先輩たち(中学生)は、台本にないことをその場に合わせて話していました。全国の小、中学校に行くと、書いたことしか言わない、言えない子が多い中、これはすごいことです。皆さんも、きっと自分の言葉でしゃべれるはずだよね」
と菊池先生が中学生をほめながら、話を続けた。
「さっき部活の話が出ました。隣の人と3秒だけ『何の部活に入りたい?』と相談しましょう」
話し合いの後、発表。
バレー部、英語部、アーチェリー部、テニス部、野球部……。指名された6人が発表した。
挙手した子を指名して発表させることの繰り返しでは、教師と発表する子の間だけの、単線のやりとりになります。
まず子供同士で相談させ、いろいろな位置の子を指名し、発表させてみんなで拍手することで、やりとりが複線化します。
子供たちの動きの自由度を高めていけば、学びのステージが教室いっぱいに広がり、授業そのものが広がっていきます。
教師が自ら動き回ったり、拍手や身振り手振りのリアクションを入れていくことで、子供たちのリアクションもダイナミックになっていきます。
ノイズも当然出てきますが、そうしたノイズもユーモアを交えてリフレーミングしていくことによって、子供たちのリアクションを豊かにしていきましょう。
コミュニケーションできるカラダと心をつくっていく、という意識を持つことが大切です。
「2人の先輩の部活を想像してみましょう。部活名だけでなく、どんな成長をしたかをきっと話してくれるよね?」
と菊池先生が6年生に話しかけると、みんながうなずいた。 その後、中学生の2人(井口さんと照屋さん)が自分たちの部活について説明した。
井口さん……吹奏楽部。仲間と一緒に1つの目標に向かって頑張ることの大切さを学んだ
照屋さん……剣道部。礼に始まって礼に終わるという言葉があるくらい、礼儀を大切にする。仲間と頑張る大切さを学ぶこともできた
6年生が大きな拍手を送った。
「さっき、敷島南小と敷島北小でも話したんだけど、中学校の先生は怖いか優しいか、気になるよね? 先輩に聞いてみましょう」
菊池先生が振ると、中学生が発表した。
井口さん……はっきり言って怖いです。でも、それは自分が悪いことをしたときだけで、普段は優しいです。怖いを上回るおもしろい先生がたくさんいます
照屋さん……見た目が怖そうな先生はいます。でも大丈夫、話せばすげえ優しく話しかけてくれます
「今、6年生にあわせようと “すげえ” という言葉を選び、さりげなく使っていました。すごくないですか?」
と、菊池先生が照屋さんを “フォロー” すると、6年生が大笑いしながら拍手を送った。
中学生と6年生のつなぎ役として
「みなさんは、小学校卒業、中学校入学のときに、何色の自分になっていたいですか?」
と、菊池先生が6年生に問いかけた。
「同じ色になるかもしれないけれど、理由は1人ひとり違うはずだよね? 楽しみだなあ」
と言葉をかけ、縦2列の子供たちを立たせた。
●白……心を入れ替える
●白……心をきれいにしたい
●青……自分の名前に「青」が入っているから、自分の色で卒業したい
●黄……穏やかなイメージだから
●白……優しいイメージ
●紫……好きなアニメの登場人物の色だから
●緑……(理由を説明できず)
菊地先生は、「紫」という個性的な答えに対しては、
「なるほどー。聖徳太子が高い位を紫にしたからだね」
とあえて “誤訳” したり、緑色とした理由が答えられなかった子に対しては、
「新緑の緑、草木の緑、成長の緑だね……。こういうときは『うん』って言うんだよ」
と無茶振りをしたり…。みんな大爆笑した。
マニアックすぎてみんなが理解しにくい理由を発表した子、即興で理由を発表できない子に対して、あえて全く違う解釈で説明し直したり、無理矢理頷かせたりしながら、ユーモアを交えて話すことで、子供たちの緊張感を解くようにしました。
「井口さん、今の話を聞いてどう思った?」
と中学生に尋ねると、井口さんが、
「しっかりした自分の意見を持っていると思った。小学校、中学校と階段を上るにつれ、大変なこともいっぱいあるけれど、その先に明るい道がどんどん切り開けるので、自分の目標に向かって頑張ることが大切だと思う」と答えた。
「今の自分が将来を決めていく。2人の説明の中で、“仲間” という言葉が出てきました。小学校では “友達” という言葉はよく使うけれど、“仲間” ってあまり言わないよね? 仲間について、話してください」
菊池先生の問いかけに、中学生が答えた。
照屋さん……自分が成長するときにとても大切な存在。相手に優しくすることで自分も成長するし、困ったときに助けてくれる
井口さん……吹奏楽部に所属していたとき、とても辛い練習だったけれど、注意したりアドバイスしたり、仲間と励まし合うことで、全国大会まで行けた。3年間を通して仲間の大切さを知った
「誰かが何かをしてくれることを待つんじゃなくて、まずは自分からアプローチすることが大切なんだね。中学校生活は教室、学校だけじゃなくてどんどん広がっていくんですね。そういう未知の世界に行って、『もっと頑張ろう、こういう自分でいいんだ』と思えるんだね。みなさんも素敵な色をつくって、仲間と過ごす日を作ってほしいと思います」
と菊池先生が感想を述べ、中学生たちに、「最後に一言」を促した。
井口さん……今、中学校生活に対して不安を持っている人もいると思うが、3年間はあっという間だと感じるほど短かった。みんなも大切な仲間と過ごす日を大切にしてほしい
照屋さん……私も不安を持っていたけれど、入学したらあっという間に不安は消えた。大丈夫。中学校はとても楽しいところ。人よりやる気があれば、勉強も部活も、より上に行くことができる。だからやる気と期待を持って中学校に来てほしい
2人の言葉に、6年生が大きな拍手を送った。
授業後の中学生の感想
井口さん……シナリオ以上の説明ができた。小学生からの拍手やリアクションがとてもうれしかった(自己採点/100点)
照屋さん……緊張して、つい「すげえ」と言ってしまったアクシデントを菊池先生が笑いに変えながら切り返してくれて、みんなが笑顔で対応してくれたのでうれしかった(自己採点/85点)
菊池省三先生による第42回解説
2クラス一緒の授業でしたが、みんな意欲的で、切り替えもリアクションも豊かでした。
音楽室にぎゅうぎゅう詰めになっていましたが、むしろそれがメリットになり、6年生と中学生とが近い距離で語り合うことができました。
3時間目で中学生たちも授業に慣れてきたこともあり、教師の話だけではなく、中学生と6年生のトークを多く取り入れることにしました。
中学生の2人をフォローしつつ、6年生を中学生に近づけるかかわり方を意識し、より多くの子をつなぐように意識しました。
中学生たちも前の2時間を見て、身振り手振りをまじえたり、親しみのある言葉かけをしたりと、場の盛り上げ方を意識し、自然に気持ちを通わせようとする言葉かけをしていました。
※次回は、1月30日(火)AM6時に公開予定です。
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取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。
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https://www.shogakukan.co.jp/books/09840207
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