菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #40 菊池省三解説付き授業レポート⑨ ~山梨県甲斐市立敷島中学校 生徒会による出前授業 <前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

今回から3回にわたり、菊池先生が飛び込みで参観し、アドバイスを行った授業をレポートする特別編をお届けします。今回は敷島南小学校の6年生に対し、敷島中学校の生徒たちが行った特別授業を、菊池先生が解説します。

中学生による敷島南小学校6年生への出前授業

<授業の概要>

敷島中学校では、中学生が小学生に向けて「中学校生活」を紹介する出前授業を行った。
先生役を務めるのは、生徒会役員3年生。2人1組になり、母校の3つの小学校に出向き、6年生全員に中学校生活を紹介した。
生徒たちが考えた「敷島中○×クイズ」を出して小学生の緊張を和らげた後、「小学校にはなくて中学校にあるものはなんだろう」と6年生に尋ねた。

教科ごとの先生
部活

生徒は6年生の答えにうなずきつつ、最も大きな違いは「卒業後の進路」と説明。自分で選択し、自分の足で歩いていくための力を身につけるのが中学校生活であることを話すと、6年生は大きくうなずいた。
中学校での授業や部活、行事などスライドショーを見せながら学校生活を紹介し、「自分が成長するには、友達や仲間の存在が大きい」と生徒が語った。
相手を知り、かかわり合いながら信頼関係をつくるため、同中では帰りの会にフリートークに取り組んでいる。そこで、「中学校生活で楽しみなこと」をテーマに、6年生が近くの3~4人でグループになって意見交換し、数人が発表した。
「初めは不安があっても、いろいろな人と話すうちに仲良くなれる。新しい出会いを楽しみにしていてください」
と生徒が25分間の授業を締めくくり、残りの20分を菊池先生にバトンタッチした。

菊池先生のワンポイント授業

“指の骨が折れるくらい” 大きな拍手に迎えられた菊池先生が小学生に話しかけた。
「中学校の先生は、怖いか優しいか。隣の人と相談しましょう」
ほとんどの6年生が「怖い」と答えた。
「今の質問の答えは、自分で思ったことが正解だし、自分と違う意見も正解です。自分で考えて意見を作る質問だから、不正解はありません。人と違うだけです。中学校では、そういう問いも多くなります」
そう話し、「で、中学校の先生は怖い? それとも優しい?」と、授業者の石川君と水谷さんに話を振った。

石川君……優しい。話しかけるとすぐに対応してくれる
水谷さん……優しい。いろんな先生と交流できるし、気さくな先生が多い

生徒たちが発表する途中で、菊池先生が「例えば?」「気さくって、どんなとき?」とさらに問いを挟むと、2人の答えがどんどん具体的になっていく。


この授業の教師役は中学生です。私は、小学生への質問の答えを中学生に振ったり、詳しく話を聞き出したりするつなぎ役として、場を盛り上げるようにしました。

「仲間という話が出てきたけれど、部活や学級で仲間を実感したエピソードを話してくれるかな」
菊池先生の問いかけに、二人が答えた。

石川君(ソフトテニス部)……試合ではペアを組むので、お互いコミュニケーションが必要になる。部活では、学年の枠を超えて仲良くなれた
水谷さん(美術部)……普段は1人で作品を作るけれど、学園祭など全員で制作することもある。仕上げる途中で、ぶつかり合うこともあるけれど、できあがったときにみんなが通じ合うことがわかった

「中学生になると、今よりもっと自分らしさが出てきて、お互いにぶつかり合うこともある。でも対立するのではなく、意見を出し合ってつくっていく。成長のために、仲間がいるんですね」
菊池先生が話すと、2人が大きくうなずいた。


私が話すというよりは、質問する形で中学生に語らせ、
子供同士
発言内容
をつなぐようにしました。

中学生と小学生のつなぎ役として

「最後に先輩として、中学校生活で成長したと思うことを話してください。この問いは、生徒たちと事前に打ち合わせをしたわけではありません。さっきみんなでフリートークをしたように、書いたことしか言わない・言えないのではなく、突然振られても自分のことを自分の言葉で話せる、そういうコミュニケーション力を敷島中学校は大切にしているんですね。じゃあ、どんなことを話してくれるのか、『今から聞くぞ!』という最高の姿勢になってください」
菊池先生が6年生に話しかけると、みんなの背筋がピンと伸びた。中学生に、もっと前に出るように促し、6年生のすぐそばまで来たところで、菊池先生が「あとは拍手を送るだけ!」と発破をかけた。6年生が大きな拍手を送った。

石川君……中学生になったとき、怖い先輩や友達できるか不安があったけれど、クラスの人と話したら、すぐに不安が消えた。授業でも部活でも友達とつながれる場面がたくさんあるので、いい中学校生活を送ってほしい
水谷さん……人前で話すのは苦手だったけれど、中学校に入ってから、視野が広がったし、いろんな人を知り、自分のことも理解できるようになった。思った以上に3年間はあっという間だった。不安が楽しさに変わればいいなと思う

「中学校に行くまで、あと5か月近くあります。次のステージに向かって羽ばたいてください。2人に対し、指の骨を折って、感謝の気持ちを伝えましょう」
大きな拍手をしながら、さらに子供たちをあおり、スタンディングオベーションで授業を締めくくった。

授業後の中学生の感想

石川君……緊張して飛ばしたけれど、部活、楽しいこと、伝えたいことを伝えて、中学校に対するいい印象を持ってもらうことができたと思う(自己採点/70点)
水谷さん……慌ててしまって完璧な説明ができなかったけれど、(中学生は)堅苦しくて自分より上、というのではなく、親近感を持ってもらえたかも(自己採点/80点)

菊池省三先生による第40回解説

体育館で3クラス一緒に授業が行われたため、立ったままマイクで説明する中学生と、体育座りをしている小学生の間に、空間的な距離ができていました。
また、1時間目の授業ということもあり、中学生も小学生も緊張していました。

固い空気を柔らかくするため、まずはカラダほぐしから。授業を引き継ぐやいなや、私は体育館の左端から右端へ、後方から前方へと動きながら話して、小学生が上半身全体を使って私に注目するように仕向けました。ユーモアを交えながら中学生に話を振り、拍手を促すことで、カラダ、表情、心をほぐしていきます。会場が広いので、声を大きめにし、身振り手振りをよりダイナミックにしました。
中学生による出前授業は、小学生にとって特別なライブです。私は、中学生と小学生が双方向でやりとりできる「つなぎ役」としてかかわりました。

「どうして握手していると思う?」「今の発言、すごくないですか?」「ここで……拍手だよね?」
などと子供たちに考えさせることで、子供同士がフォローし合う関係になっていきます。
このような言葉かけは、教師が見つけようと意識し、場面に応じて取り上げていかなければ成立しません。

中学生と小学生それぞれに話を振りながら、菊池先生が子供たちの緊張を解いていく。

※次回は、2024年1月2日(火)AM6時に公開予定です。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
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