鈴木惠子の「教師として大切にしたいこと」―連載第4回「授業観・子供観を見直そう」

連載
鈴木惠子の「教師として大切にしたいこと」

温かく、生き生きと学ぶ子供たちの姿に魅了され、かつてその後姿を追い求めた先生方が全国にいた鈴木惠子先生。子供が伸び伸びと自分を開示、表現していくその授業は、授業名人と称された故・有田和正先生から「日本一の授業」と評されました。変革期の現場で、大切なことについて再確認するための連載、第4回をお届けします。

鈴木惠子(すずき・けいこ) 静岡県藤枝市の元公立小学校教諭。教育委員会指導主事、管理主事、小学校校長等を経て退職。好きなものは花と自然。

第4回 「授業観・子供観を見直そう」

第1回から第3回までは、(1)「共感力」の大切さについてお話ししてきました。
今回からは、(2)「子供ファースト」の授業づくりについてのお話です。

■ 第1回「わからなさがわかるかな?」
■ 第2回「し~っ! 先生には聞こえるよ!」
■ 第3回「答えは目の前の子供の中にあります」

(2)子供ファースト ~子供が主役の授業を実践すること~

まずは授業観・子供観の見直しから

「教師として大切にしたいこと」の二つ目に挙げたいのは、「子供ファースト」です。
どんな時にも子供を第一に考えること。子供が主役の自律的な授業を実践することです。

ここ数年の間に、異常気象はますます進み、コロナが吹き荒れ、戦争が勃発し、世界は手探りで暗中模索する時代に翻弄されています。
異常気象もコロナも戦争も、問題はグローバルで、これまでの経験や常識は全く通用しない……何が正しいのか? どんな選択をすべきか? ……世界中の英知を集めても容易に解決の糸口を見出せない状況が続いています。

そして科学技術の進展の、すさまじいスピード!

激変し続ける時代を生き抜かなければならない子供たちに、どんな力をつけなければならないかは自明です。
それは、どんなに想定外の状況に直面しても怯むことなく、見えない正解を求めて「自分の頭で考える力」、相手にとっても自分にとっても最善の道を、「力を合わせて切り拓いていける力」です。

そんな力を育むために、学校は一体、どんな授業を目指したらいいのでしょう?

今までもずっと申し上げてきたことですが、私は、

「子供たちが教師の手から離れ、主体的に物事を考えたり、能動的に行動を起こしたりする場面」「心を開き合って仲間と深く関わり合う場面」を、授業の中で実現していかなければならないと考えます。

どんな教科でも、授業ではいつも「教師が問い、子供が答える」という授業パターンをまず打ち破ることです。
目指すべきキーワードは「子供自らが問い、みんなで追究する」授業です。

それはまさに、文部科学省が求める「学びに向かう力・人間性」を育て、「主体的・対話的で深い学び」を具現する授業と重なります。

そのためにまずは、子供たちに「授業は自分たちのものであること」を自覚させ、自律的に学びを進める力を育てなければなりません。
日々の「授業」において、子供たち一人一人を、主役にしていかなければなりません。

よく「うちのクラスの子供たちはみんな指示待ちで……」と嘆かれる先生がいます。

指導案の「子供の実態」の欄にも、「言われたことは真面目にやるが、自ら動こうとしない指示待ちの子供が多い。」などと書かれているのを目にすることがあります。

本当に子供って、みんな指示待ち人間なのでしょうか?

指示待ち人間にしてしまっている原因は、大人の側にあるのではないでしょうか?

私ごとですが、今3歳になったばかりの孫と一緒に暮らしています。
毎日一緒にいて思うことは、子供って、生まれながらにして「見たがり、知りたがり、やりたがり、しゃべりたがり」だということです。

朝起きた瞬間から眠る直前まで、一時たりともじっとすることなく動き回り、喋り続けている……大人が手を貸そうとしても「自分でやる!」とはねのけます。
自分が着るシャツやソックスだって、毎朝、自分で選ぶ!と主張して譲りません。

小さな体のどこからそんなエネルギーが溢れてくるんだろう! と感嘆するほどに、子供って、元来、主体的、積極的な存在なのです。

学校においても、「子供はもともと、自ら学びたがる存在(アクティブラーナー)である」という子供観をもたないと、教育の方向を見誤ってしまいます。
その子供観に立てば、教師からの過剰な指示の言葉はなくなるはずです。
子供自身の学びの道筋を楽しめるようになるはずです。

ちょっと振り返ってみましょう。
普段の授業の中で、教師から指示する言葉がどんなに多いことか!

「はい、では教科書の◯ページを開きましょう。」から始まって、

「〇行目をみんなで読みましょう。」

「隣の子と話し合ってみましょう。」

「この道具を使って実験してみましょう。調べてみましょう。」

「前へ出てやってみましょう。」

「書いてみましょう」

「ここで振り返りをしましょう。」……

……挙げたらきりがないほど授業は先生からの指示や投げかけで進行し、子供にとっては受け身で他律的に流れていきます。
先生の質問に対し子供が答えるという一問一答式に終始し、子供たちの視線は教室の前に陣取る先生に注がれています。

タブレットを使う授業に置き換わっても、教師主導の授業風景は変わりません。
子供は先生が誘導してくれる通りに歩けばいいので、道に迷うことも水たまりにはまることもなく、安全にゴールにたどり着けます。

でも、それって子供は楽しいでしょうか?

子供は挑戦や冒険が大好きですよね。
迷路みたいな所を歩くことも、水たまりにはまって泥んこになることも、高い所に登ることもそこから飛び降りることも、大好きなんです。

イラスト

それなのに、授業では先生が安全なルートを用意して、丁寧に誘導してくれちゃうから、子供は、自分で道を選び取る必要も、危険を回避する必要もなく、ラクチンだけど、ワクワクもしなけりゃヒヤリともしない。……そんな中で、子供の「学びに向かう力」が育つはずがありません。

「教科書の〇ページを開きましょう」なんて先生が言わなくても、授業のはじめには今から学ぶページが開かれていたいし、黒板には子供の手によって本時の学習問題が書かれていてほしいですよね。前時の流れの中で次時にやることが子供にわかっていれば、それは可能です。

「この文章を読もう」「隣の子と話し合いたい」と判断すべきは子供です。
「〇〇がわからないから、〇○を確かめたいから、実験してみたい!調べてみたい!」と思うのは子供でなければなりません。
子供自身に問題意識や必要感があるから、読んだり話し合ったり、検索したり実験したりするのです。

「先生、ちょっと混乱してきちゃったので、3分でいいから隣の子と話し合う時間を下さい。」と先生に催促できる子供を育てたいです。
授業中、わからない言葉が出てきたら、自由に辞書を取りに行って主体的に調べ始める子供たちを育てたいです。

教師が子供観、授業観を転換し、指示語をできるだけ減らして、子供たちにもっともっと自由を与えることによって、子供ファーストの授業が実現します。

次回は、「子供ファーストの授業」の具体を覗いてみたいと思います。

イラスト/岡本かな子

※この連載は隔週月曜日に公開します。どうぞお楽しみに。


■ ー 連載 鈴木惠子の「教師として大切にしたいこと」 ー 過去の回はこちら(↓)へ■

■ 第1回「わからなさがわかるかな?」
■ 第2回「し~っ! 先生には聞こえるよ!」
■ 第3回「答えは目の前の子供の中にあります」


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