菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #36 菊池省三解説付き授業レポート⑦ ~大分県玖珠町立くす星翔中学校2年3組 <後編>

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菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

全国各地での飛び込み授業を、菊池先生ご自身の解説付きでレポートする好評シリーズ。
大分県玖珠町立くす星翔中学校の2年生に対する授業レポートの完結編をお届けします。
菊池省三の「子供を見る目」を学びたい方にとって、必読の連載です。

子供たちの対話のサイクルが動き出す

さかなクンのお母さんの子育てについて、

①一番よい
②一番とは言えない

どちらだと感じるか、生徒たちは、まず同じ意見の生徒同士で話し合った。
生徒たちの身振り手振りをまじえた発表をニコニコしながら聞いていた菊池先生が、黒板に下のような図を書きながら言葉をかけた。
「今みたいに笑顔の人はよくしゃべれる。笑顔の人の話を聞くと『うんうん』とうなずく。そして『なるほどねえ』と相づちを打つようになる。相づちが出てくると、会話・対話が動き始めてくるから、質問や感想が出てくる。すると、また笑顔になる。これが会話・対話のサイクルになるんですね」

黒板に書かれた対話のサイクルを見ながら、生徒たちがうなずいた。
「では、次は違う意見の人たちと対話をしましょう」
と菊池先生が言うと、生徒たちはさっと動いて、意見を交換。じっくり話したり、なるべく多くの人と意見を交換したり、男女の区別なく対話を楽しむ姿があちこちで見られた。
話し合いの後、菊池先生が尋ねる。
「話し合って、意見が変わった人はいますか?」
②から①へ変わった生徒二人が挙手した。

自分の好きなことを伸ばして大学に行くとか、もっと先に行けば、いじめもなくなるかもしれない
野球で基礎を習うけど、それを特化させるには、個性が必要になると思う。だから元の才能を伸ばしたほうがいい


進学や部活など、自分事として捉えて発言しているのがとてもいいですね。
話し合いでは、自分事として意見をつくり出していく視点を子供たちに持たせることが大切です。
例えば、道徳の授業では、「これが望ましい」という方向性を示す内容が多いと思います。このとき、「こうするべきだ」と頭では分かっていても、「でも、その場にいたら自分はできないかもしれない」と、自分事として捉えられるか。これこそが、道徳の “キモ” です。
第三者としての “正しさ”(客観性)と、「自分ならどうするか、何ができるか」(主観性)というジレンマの中から納得解を見つけていくことで、本物の “自分の意見” が生まれるのです。

加速していく話し合いを楽しむ

再び意見を発表した後、生徒たちは席に戻った。
「お母さんはさかなクンに、『勉強ができなくても個性を伸ばせばいい。けれど、『人として は大切にしなさい』と常々言っていたそうです。
何と言ったか、ずばっと一言書きましょう。悩んでもいい。あとで友達と相談してもいいから、安心して書きましょう」
菊池先生が話すと、生徒たちはさっと鉛筆を持って自分のシートに向かった。
1分ほどして、菊池先生が、
「鉛筆を置きましょう。話し合いをします。2年3組は、いつも同じ人と話し合う情けないクラスじゃないよね。内容によっては、相手を決めて、自分からその人のところに意見を聞きに行くよね?」
とあおると、生徒たちは、
「はいっ!」
と力強く答えた。 さらに2分ほど意見を交換したあと、その位置のままで発表。

・自分の意見
・自分の気持ち
・思いやり
・礼儀
・モラル

全部○です。さかなクンのお母さんの言葉に近かったのは、4番目の人が言った言葉です。聞いていて、覚えていて、言える人?」
菊池先生が問いかけると、みんなが大きな声で「礼儀」と答えた。
「そうですね。お母さんは“礼節”と言ったんですね」


学びの形態と考え方の自由度をどんどん上げています。
「自分の意見をつくる場面」「話し合う場面」「発表する場面」「人の意見を聞く場面」と、いくつもの場面を素早く切り替え、スピードを上げて取り組ませています。
それに子供たちはしっかりついてきています。前半に比べて、格段とメリハリのある授業になっていることが分かります。
なにより子供たち自身が、自由に意見を述べ合うことや友達の意見を聞くことを、「楽しい!」と感じたことで、教室の空気がどんどん盛り上がっていきました。

最後に菊池先生が、水槽に群れをなす魚の絵を見せながら、自分の道を歩んださかなクンが、いじめられている人たちに向けて書いた手紙を紹介した。

<狭いところに閉じ込めると、必ず誰かがいじめられる。それを取り除いても、また次の人がいじめられ、ずっと繰り返す。
いじめている魚を取り除いても、次のいじめっ子が生まれる。 広い世界ではそういうことは起こらない。広い世界を見ることが大切>

「だから、さかなクンは『自分の好き』を貫いて、広い世界に行ったんですね。
みなさんも毎日の中で好きなことがあるし、これから見つかるでしょう。その『好き』を貫いてください。そして広い世界に羽ばたいて、自分の色を輝かせてください
菊池先生がそう締めくくると、生徒たちは大きくうなずいた。


さかなクンの手紙は、道徳の教科書にも掲載されていますが、この話は子供たちに強い印象を与えるようです。せっかくなので、この話がより生きるように、今回の授業を組み立てました。
そして、授業の最後に「自分の色」について触れ、非日常の授業から、再び2年3組の日常に戻しています。

菊池省三先生による第36回解説

話し合い活動をさせるとき、子供たちがどれだけ自分事として考えられるように仕組めるかがポイントになります。
さらに、問いかけをした後に10~15分は話し続けられるよう、子供たちに情報や資料を提示することが大切です。
こうした準備なしに、ただ子供たちに話し合いをさせても、活発なものにはなりません。

資料の提示→スパッと短く意見を考える→話し合い→発表→資料の提示……

という流れで授業を展開し、どんどんそのスピードを上げていきます。
最初の15分と最後の15分とでは、全く速度が違うのです。このスピード感が、子供たちの集中力と思考力を深めていきます。

話し合いを重ねるごとに、子供たちの学びのスピードが加速していく

※次回は、11月7日(火)AM6時に公開予定です。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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