在宅環境ならではの学びの実践──宝仙学園小学校のオンライン授業

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コロナ休業期間中、多くの小学校がオンライン授業に取り組みました。そして対面授業に戻った今、オンライン授業での経験や成果を新しい学びにつなげていく動きも見られます。

宝仙学園小学校(東京・中野区)は、休業が決定してすぐ「オンライン学校」をスタート。試行錯誤で授業を行うなかで、先生たちは「在宅環境であるからこそ効果を発揮する学習がある」ことに気づいてさまざまな取り組みを始めました。その実践と現在の状況、そしてコロナ後の学びについて、同校の加藤朋生先生に詳しくうかがいました。

加藤朋生先生

加藤朋生(かとう・ともお) 宝仙学園小学校研究主任。2011年から宝仙学園小学校教諭。熱海ライフセービングクラブの理事やキャンプリーダーを務める。自転車で日本縦断・アジアの旅を敢行中。社会とつながる学びのデザインとチームでの共同研究に努める。IntelMasterTeacher。Microsoft Innovative Educator Experts。ロイロ認定Teacher。日本親子コーチング協会認定コーチ。ピットインカードインストラクター。日本即興コメディ協会認定心理的安全性アンバサダー。HSPカウンセラー。メンタルトレーナー。

1年生が取り組んだ「わくわくチャレンジ学習」

コロナ休業中のオンライン学習は、毎日走りながら考え、実行し、修正しながら進めました。いろいろトライするなかで、私たちは、在宅環境でしかできないこと、在宅でこそ効果が上がる学びがあることに気づきます。入学当初からオンライン授業だった1年生が取り組んだ「わくわくチャレンジ学習」もその一つでした。

「オンライン学校」の期間中、宝仙学園小学校では子どもたちのオンライン疲れを考慮して、授業は午前中に集中させていました。そして各家庭に、授業以外の時間に子どもたちが「何かに取り組む」ようにアドバイスしました。1年生は「わくわくチャレンジ学習」として毎日何か新しいことに挑戦し、その様子をクラスの仲間と共有することにしました。

テーマはもちろん自由です。発表も、文字を書いたり写真や絵を使ったり、好きな方法で行います。保護者を対象にZoomでロイロノート研修会を行い、提出箱を毎日作ってそこにアップロードしてもらいました。

1年生「わくわくチャレンジ学習」

当初は、子どもたちの多くは、掃除や料理といったお手伝いにチャレンジしました。生活体験の少ない1年生は、家庭でお手伝いをすることも新しい体験で、いろいろな効果を生みます。そのうち、すごいチャレンジも出てくるようになりました。例えば、行きつけのパン屋さんに行って店員さんにインタビューしたり、マインクラフトで作った世界を体験したりするなどです。発表方法も、スライドを使ってストーリー仕立てにしたり、動画を投稿したりと、いろいろな工夫をするようになりました。

「わくわくチャレンジ学習」例
「わくわくチャレンジ学習」例

それぞれのチャレンジの発表は、クラス内だけでなく、学年全体で共有し、特にすてきな作品は、私がオンライン朝の会で紹介しました。

共有することで仲間を知り、他者意識が生まれる

1年生はまだお互いの顔もよく知らない状況だったので、チャレンジを共有することは、友だちを知るための貴重なリソースになったと感じています。また、他の子どもたちの作品から学んでもらうことも狙いでした。実際、作品を見合っているうちに、子どもたちはどんどんクオリティの高い作品を作るようになりました。

印象的だったのは「他者意識」が芽生えたことです。発表するとき画面の向こうの聞き手に語りかけるYouTuberのような口調やアングルを使う子どもたちが現れました。課題を自分の中で完結させるのではなく、他の人に「伝える」ことを意識して作るようになったのです。

例えば「作文の書き方」を発表した投稿。1年生はまだ作文の書き方を習っていませんが、それをみんなに向けて自分なりに説明していました。また、折り紙でバラを折る方法を動画で投稿した女の子がいて、その作品があまりにも見事だったので、自分でもそれを作って発表した男の子がいました。発表の最後には「◯◯さんありがとー」と女の子へのお礼のメッセージがあり、子どもたち同士のコミュニケーションも生まれました。

それぞれの環境が違うからこそ生まれる新たな学びの形

1年生の学科の授業で、在宅環境を生かした学びができたのは、国語の「濁点・半濁点の勉強」です。家にある「 ゛」「 ゜」がつく名前のものを探し、写真を撮って、その名前を書いて提出しました。

写真をみんなで共有するので、子どもたちはお互いの家にあるものを見ることができます。濁点では、例えば「こくごじてん」「ちきゅうぎ」「ばいく」「にんてんどーすいっち」など、学校にあるものもないものもたくさん集まりました。

私が担当する授業以外でも、さまざまな教科で、在宅環境ならではの学びが生まれました。

例えば、図画工作。担当教員は、作品づくりは本来、子どもたち一人ひとりが素材を選ぶところから始めるのが望ましいといいます。とはいえ、学校の授業で子どもたちが自由に材料を持ってくるようにすると家庭の状況によって差が生じたりします。そのため、学校では共通の素材を用意してそれを使って作品を作ってもらうことが普通でした。

ところが今回の在宅学習では、1年生は最初の登校日に画用紙を10枚渡された以外には、素材はすべて自分たちが用意することになりました。その結果、より自由で個性的な表現が実現しました。

また、子どもたちにさまざまな種子を送り、それを育てるというミッションを課した理科の授業もあります。子どもたちは自分に届いたものが何の種子か知りません。クラスの何人かずつに同じ種子が配られました。

子どもたちは、種子の状態から、発芽し、育っていく様子をじっくり観察して、オンライン上でその様子を発表して交流します。すると、自分と同じ植物を育てているのが誰かだんだんわかってきます。その仲間同士で情報を共有して、自分たちが何を育てたかをみんなで導き出す、そんな実践が行われました。

教室という同じ空間で同じものを育てるのではなく、違う空間で同じものや違うものをそれぞれの方法で育てることで、新しい形の学びが生まれた例だと思います。

同期的な学びと非同期的な学びのミックスが実現

仙学園小学校のプログラミング授業の様子
ICTを活用した宝仙学園小学校のプログラミング授業の様子。viscuitというプログラミングアプリを使って、ハロウィンのカボチャやおばけのアニメーションを制作した。

現在は、宝仙学園小学校でも基本的に対面授業が中心です。しかし、オンライン授業を経たことで、学びの形は進化しました。

私たちは、学校でみんなが時間と場所を共有して一斉に学ぶことを同期的な学び、一人ひとりが異なる内容をそれぞれのペースでそれぞれの場所で学ぶことを非同期的な学び、と呼んでいます。今はさまざまな場面で、同期と非同期のミックスが実現しています。

例えば、1年生の算数の「かたち」の勉強では、家にあるいろいろな形を写真に撮ってきて、学校で友だちと資料をシェアしあいました。すると子どもたちは一人では到底集められなかったさまざまな「かたち」を手に入れることができます。

学校では、その「かたち」を比較したり、分類したり、またどうしてそのように分類したのかを話し合いました。教科書で学ぶと、丸、三角、四角といった分類になりがちですが、子どもたちは全く違う視点で分類することもできます。

例えば、「よく転がるかたち」「積み上げられるかたち」「立たない(自立しない)かたち」「薄い・分厚い」「やわらかそう」「かたそう」など。これは「かたち」の分類の域をこえているかもしれませんが、子どもたちからさまざまな考えが出てきたことがとても有意義でした。

子どもたち同士、保護者と教員のコミュニケーションにも変化が

在宅学習で、保護者と学校のコミュニケーションも変わりました。私は連絡事項の伝達にGoogle Classroomで作成した掲示板を使い始めてから、連絡帳を書くことがなくなりました。書かなくても保護者と直接やりとりができるからです。

私のクラスでは、学級通信の発行もしていません。代わりに、Google Classroomでその日にあったことを動画付きで配信しています。学級通信を作って印刷するのに、今までかなりの時間を使っていました。でも、オンライン配信ならTwitterでつぶやくような感覚で頻繁に動画や写真を共有できます。さらに、保護者からのコメントももらうことができるようになり、双方向の関係づくりが実現しました。

子どもたち同士のコミュニケーションも進化しています。毎年夏休み期間中、2年生は毎日「一言日記」を書いていましたが、今年はこれをGoogle Classroomに書くことにしました。以前は夏休みが終わってからまとめて提出していた日記を、リアルタイムで毎日友だちと共有できるようになりました。お互いにコメントしあったりして、休み中も子ども同士の交流が続きました。

「学びを止めない」──コロナ終息後にも続く挑戦

宝仙学園小学校では、現在も自宅からオンラインでの授業参加を認めています。体調が優れないけれど授業には参加したいというときは、Zoomでつないだり、ロイロノートで課題をやりとりするなどして、学習できるようになっています。

オンラインで授業を受ける子どもが2人以上いれば、授業を受けながら参加者同士で相談したり協力したりすることもできています。「オンライン学校」を実現したことで、世界中のどこからでも授業を受けられるシステムが整いました。

私たちは、「いかなる時代であっても、主体的に考え、他者と協働し、自己実現を目指し行動できる人物」を育てるというディプロマ・ポリシー(卒業指針)を掲げています。そして、その実現は、学校のスタッフの力だけではなく、保護者や学外のさまざまな人たちの協力を得る必要があると考えています。

「オンライン学校」期間中に午後の授業として始まった「HosenTV」では、保護者や卒業生、著名人を招き「今だから伝えたいこと」を全校児童に向けて発信してきました。この取り組みはこれからも続けていく予定です。

2020年の「ICT夢コンテスト2020」(主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会)で、宝仙学園小学校の「アクティブ修学旅行」の取り組みが、NHK賞を受賞しました。2年前から行っているICTを活用した校外学習の実践です(iTeachersTV『地球はまるごと学びの場〜コミット・ラーニングのすすめ〜』)。コロナ終息後の校外学習は、こんな形がスタンダードになっていくと思っています。

コロナ前から続けてきたICT活用、そして休校期間中のオンライン授業で生まれた学びの形をこれからさらに発展させて、子どもたちと教員、保護者や学外のさまざまな人たちと共に、新しい教育を作っていきたいと考えています。

※iTeachersTV『宝仙オンライン学校のあしあと』(後編)/加藤朋生先生(宝仙学園小学校)

取材・文/石田早苗

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