小6国語「『鳥獣戯画』を読む」ICT活用の授業アイデア後編|樋口綾香のGIGAスクールICT活用術㉒

連載
板書や指導のコツを伝授!樋口綾香の「すてきやん通信」
特集
備えあれば憂いなし!オンライン授業・ICT活用術

大阪府公立小学校教諭

樋口綾香

Instagramでは1万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載! 今回は、小6国語「『鳥獣戯画』を読む」の授業実践の紹介の後編です。

執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香

GIGAスクールのICT活用㉑~小6国語「『鳥獣戯画』を読む」②~
イラストAC

使用タブレット:iPad
使用アプリ:ロイロノート

単元名:表現の工夫をとらえて読み、それを生かして書こう
教材:「『鳥獣戯画』を読む」「[情報]調べた情報の用い方」「日本文化を発信しよう」

GIGAスクールのICT活用㉑~小6国語「『鳥獣戯画』を読む」①~

単元について

今回紹介する実践の単元では、「『鳥獣戯画』を読む」、「[情報]調べた情報の用い方」、「日本文化を発信しよう」の3つの教材を取り扱います。

日本文化を発信するパンフレットを書くために、視点や表現の工夫について「『鳥獣戯画』を読む」を読んで学び、「[情報]調べた情報の用い方」では、調べたことをパンフレットに用いる場合の正しい方法や注意点についても学びます。

前回に引き続き、ここでは、「『鳥獣戯画』を読む」の後半の実践についてお伝えします。

4時間目: 8段落を読み、筆者の意図を捉える

4時間目: 8段落を読み、筆者の意図を捉える 板書

学習の流れ

①めあてを提示し、学習のゴールを明確にする。

②8段落をペアで音読し、何について書かれているかを捉え、考えを出し合う。

③児童の考えを「鳥獣戯画ができた時代」「絵巻からの発展」という「歴史的視点」に基づいたものの見方であることを押さえ、上段に「筆者の意図」と書いたピラミッドチャートを配付し、8段落の文章をさらに詳しく読み取る。

ピラミッドチャート

④ペアで8段落の読み取りを確認できたところから、黒板のピラミッドチャートを埋める。

⑤ピラミッドチャートの下段と中段の内容について交流した後、「筆者はなぜ『鳥獣戯画ができた時代』や『絵巻からの発展』について述べたのだろう」という発問から、8段落を書いた筆者の意図について、叙述を根拠として自分の考えを記述する。

ピラミッドチャートに自分の考えを記述したもの
ピラミッドチャートに自分の考えを記述したもの
ピラミッドチャートに自分の考えを記述したもの

⑥筆者の意図について考え、交流する。

⑦日本四大絵巻を比較した資料をもとに、「なぜ、『鳥獣戯画』は国宝になり得たのか」に対する自分の考えを書き、交流する。

「なぜ、『鳥獣戯画』は国宝になり得たのか」に対する自分の考え
『鳥獣戯画』子供のまとめ

授業を振り返って

本文の情報を分類整理したり、ペアで話し合ったりする活動を入れたことで、「なぜこの文章を入れたのか」という児童の思考や、「もっとこの情報について知りたい」という児童の思いを引き出すことができました。

ピラミッドチャートを使って8段落の内容を分類・整理している際、「この時代には、とびきりすぐれた絵巻がいくつも制作され」という文に立ち止まった児童がいました。その児童は、すぐに最後のページに載っている『信貴山縁起絵巻』や『伴大納言絵巻』を見つけ、さらにインターネットでもこの時代の絵巻を検索していました。

全体交流の中で、『鳥獣戯画』と上記の児童が板書してくれた二つの絵巻に『源氏物語絵巻』を加えて「日本四大絵巻」ということ、それらがすべて国宝であることを伝えました。すると子供たちから、「全部見てみたい!」という声が上がったため、用意していた四大絵巻を電子黒板で提示しました。

そして子供たちは、「鳥獣戯画以外は豪華」「鳥獣戯画だけ色がない」など、気づいたことを語り出しました。そこで、「そうやんな。そう思って、分析してみたのを送るから、見てみて」と言って、分析した表をタブレット上で配付しました。

『鳥獣戯画』だけが、

  • 登場人物が動物
  • 作者が不明
  • 題材がない
  • 詞書がない

ということを確認すると、「なんで国宝なん?」という素朴な疑問が子供の口から飛び出しました。そこで、「なぜ、『鳥獣戯画』は、国宝となり得たのだろうか」という発問をしました。

「なぜ、『鳥獣戯画』は、国宝となり得たのか」板書

多くの子供は8段落に書かれていることをもとに考えていましたが、四大絵巻と比較しながら、その価値を見出そうとしている子もいました。「いろいろなことが謎である」ということをここで押さえたため、次の授業がさらに深まったと感じています。

5時間目: 筆者のものの見方をとらえ、表現の工夫を見つけよう

5時間目: 筆者のものの見方をとらえ、表現の工夫を見つけよう  板書

学習の流れ

①めあてを提示し、学習のゴールを明確にする。

②4時間目に学習した8段落の内容を振り返る。(ピラミッドチャートを複製し、8段落のカードをすべて下段に集める)

ピラミッドチャート

③9段落を音読する。中段に9段落の内容を整理し(要点を書く)、ペアで交流する。

ピラミッドチャート 中段に9段落の内容を整理

④9段落で最も言いたいことは何かを考え、上段に書く。

ピラミッドチャートを子供が記述したもの

⑤「人類の宝」と言い切った筆者の思いに迫る。

⑥筆者のものの見方や表現の工夫をフィッシュボーン図にまとめる。

フィッシュボーン図

授業を振り返って

本時は、第4時と同じような流れで授業を進めたことで、ピラミッドチャートに9段落の内容を整理している時点で、「筆者の意図は何か」「何がいちばん伝えたいのか」という議論になっていました。そのため、③と④の学習活動が流れるように進んでいき、9段落の内容を交流しつつ、筆者の主張について考えることになりました。

子供たちからは、9段落では、筆者の思いだけでなく、『鳥獣戯画』を書いた人の思いや、それを受け継いできた祖先の思いについても触れられているという気づきが出てきました。また、これまで著者は日本の歴史を語ってきたけれど、視点を世界へと拡げ、世界から見た『鳥獣戯画』の評価をしていることにも気づきました。

そこで、「人の心」や「世界から見た日本」という視点を「社会的視点」として押さえ、9段落では何をいちばん伝えたいのかを問うと、最後の一文である、という結論に至りました。

最後の一文には、「『鳥獣戯画』は、だから、国宝であるだけでなく、人類の宝なのだ」と書かれています。この「だから」に着目した子供が、「これまでは『国宝』である説明をしてきた」と発言したことから、「なぜ、高畑勲さんは、『鳥獣戯画』を「人類の宝」と言い切ったのか」と発問し、自分の考えをノート(タブレット)に書かせました。

歴史的視点に戻った子供や、他の絵巻にない墨一色で動物をユニークに描いたことに価値を見出した子供、幾多の困難をも乗り越えて今に伝えてくれた祖先に思いを馳せた子供など、いろいろな姿が見られました。

その中でも、最後に発言した子は、「ぼくはみんなと違う考えで…」という言葉から始まり、「世界に誇れるからこそ、日本人の宝に」という内容の発言をしました。聞いている子供たちから漏れる共感や納得の声を聞きながら、授業をしている私も何度も言葉を噛みしめて、深くうなずきました。とても素晴らしい意見だと思います。

最後の発問は、日本の文化を発信するとき、日本文化を大切に思いながら文章を書いてほしいという願いから生まれました。読み手を引きつける文章を書くためには、書き手の熱い思いがいちばん重要だと考えるからです。

「なぜ、高畑勲さんは、『鳥獣戯画』を「人類の宝」と言い切ったのか」 板書

授業はここでチャイムが鳴ったので、振り返りのフィッシュボーン図は宿題としました。

授業を終えて

本単元の5時間目は、大阪府小学校国語科教育研究会の研究授業でした。新型コロナウイルスの影響で、今回はビデオ配信という形になりました。

大阪府の多くの先生方に直接授業を見てもらえないことは残念に思いますが、6年生の子供たちと楽しく授業ができましたし、この教材の奥深さを改めて感じられた、よい経験になりました。

授業後の協議会では、「9段落と8段落の比較を別のシンキングツールで行った方が良かったのではないか」「本文どうしを比較して、書き出しや視点の違いに気づくこともできたのではないか」という意見をもらいました。私自身、ピラミッドチャートを整理の道具として使ったことで分かりにくくなってしまい、子供たちを混乱させたのではないかと感じています。反省を次の授業へと生かしていきます。

GIGAスクールのICT活用①~国語:季節の言葉~
GIGAスクールのICT活用②~国語:色カードで意思表示~
GIGAスクールのICT活用③~国語:楽しい宿題~
GIGAスクールのICT活用④~授業にちょこっとプラス~
GIGAスクールのICT活用⑤~1年生でもできる!~
GIGAスクールのICT活用⑥~便利機能で仕事効率化!~
GIGAスクールのICT活用⑦~学級開きにICTをプラス!~
GIGAスクールのICT活用⑧~Googleフォームを有効活用
GIGAスクールのICT活用⑨~カメラの使い方を工夫しよう~
GIGAスクールのICT活用⑩~情報の集め方~
GIGAスクールのICT活用⑪~朝の会でZoomを体験しよう~
GIGAスクールのICT活用⑫~1年生のひらがな入力~
GIGAスクールのICT活用⑬~2年国語「かんさつ名人になろう」授業アイデア~
GIGAスクールのICT活用⑭~Google Workspace導入奮闘記(1)~
GIGAスクールのICT活用⑮~Google Workspace導入奮闘記(2)~
GIGAスクールのICT活用⑯~タイピング能力を上げるには~
GIGAスクールのICT活用⑰~低学年でも検索エンジンを使いこなそう~
GIGAスクールのICT活用⑱~オンライン授業に備えよう~
GIGAスクールのICT活用⑲~ポスターを読もう~
GIGAスクールのICT活用⑳~ロイロノートで共同編集~
GIGAスクールのICT活用㉑~小6国語「『鳥獣戯画』を読む」①~

樋口綾香教諭

樋口 綾香

ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。

【関連記事】
綾香先生が「板書」の基本を教えてくれます!
「板書」の基本① ~見やすい文字の書き方~
「板書」の基本② ~低学年の板書のポイント~
「板書」の基本③ ~児童の意見を広げるポイント 前編~
「板書」の基本④ ~児童の意見を広げるポイント 後編~

【関連記事】
子どもたちに伝わる板書の書き方を徹底解説している特集。様々な事例がたくさん!樋口綾香&樋口万太郎夫妻が解説! 国語・算数 伝わる板書のルール

【関連記事】
綾香先生が「構造的板書」について教えてくれるシリーズはこちら!
国語の構造的板書① ~子どもの気づきを引き出す~
国語の構造的板書② ~二段対応表で比較する~
国語の構造的板書③ ~逆Yチャートで考えを広げる~
国語の構造的板書④ ~イメージマップで考えを広げる~
国語の構造的板書⑤ ~考えを整理する~
国語の構造的板書⑥ ~感想マトリクス~

【関連記事】
綾香先生が単元全体の板書とノート例を教えてくれるシリーズ!
単元丸ごと!板書&ノート① ~小一国語「やくそく」~
単元丸ごと!板書&ノート② ~小二国語「お話のさくしゃになろう」~
単元丸ごと!板書&ノート③ ~小四国語「プラタナスの木」~
単元丸ごと!板書&ノート④ ~小五国語「大造じいさんとガン」~

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
板書や指導のコツを伝授!樋口綾香の「すてきやん通信」
特集
備えあれば憂いなし!オンライン授業・ICT活用術

授業改善の記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました