国語の構造的板書⑥ ~感想マトリクス~

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板書や指導のコツを伝授!樋口綾香の「すてきやん通信」
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大阪府公立小学校教諭

樋口綾香

連載|ayaya先生のすてきやん通信

Instagramでは1万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生の人気連載! 国語の「構造的板書」シリーズ6回目の今回は、考えを整理できる”感想マトリクス”について教えてくれました。

執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香

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国語の構造的板書⑥ ~感想マトリクス~
イラストAC

感想マトリクスで気付きを生み出す

前回に引き続き、考えを整理する構造的板書についてお伝えします。今回は、「感想マトリクス」を紹介します。

感想マトリクスとは

物語文や説明文の単元の導入で、初発の感想を書かせる活動があります。

「感想」とは、ある物事に対して心に感じ思うこと、である。したがって、見れども見えずのように物事を認識できない状態では、感想は生じないことになる。
「感想」には、言語生活を地盤とした国語教育において見逃してはならない人間的な精神構造と、そのはたらきが関与していることがわかる。(中略)自分の感想をもち、それを表現することは、国語力向上の中核に位置付けられる活動である。
読者の経験や認識の主体とした読みに基づくものであるから、書いてあっても気づかず読み落としたり、語彙や内容に関する知識不足のために理解できなかったり、誤解したりしていることがある。あるいは、一読で深い感動を味わう場合もある。

(「国語教育指導用語辞典 第四版 田辺洵一・井上奈緒美編」より抜粋)

個人の生活と作品をつなぐ個々の「初発の感想」を、「教室」という場で学ぶ全員が共有することで、新しい読みの創造行為に主体的に参加することになります。

初発の感想をもとに交流し、問いを検討することで、多様なレベル、多様な観点を顕在化し、全員の読みの方向性を見出すことができます。児童主体の読みにするために、初発の感想を書き、交流することは大変重要なのです。

しかし、感想を書くことが苦手な児童もいます。作文を書くことが苦手な児童が多いように、物語や説明文の感想も何を書いたらいいのか分からないという児童も多くいます。

授業者としては、どんなことでも書いて欲しいと願うものの、児童としては、そう簡単にはできません。考えが拡散しすぎて、読みの方向性を見出すことが困難になることもあります。

そこで私は、教材分析の段階で気づいて欲しいことを観点にして提示するようにしています。

この観点は、作品の傾向(感動・ユーモア・ファンタジーなど)や授業者の初読、指導事項に基づいた読みの方向性によって、絞ることができます。伝えるタイミングも、「感想を書く前・感想を書いた後・伝えずに板書で整理する」というように、授業によって使い分けています。

例えば、「スーホの白い馬」や「ごんぎつね」のような感動を誘う作品には、「心を動かされたところ」や「心に残ったところ」を書くように指示します。

「注文の多い料理店」や「白いぼうし」はファンタジー作品なので、「ふしぎなところ」や「お話のしかけ」などの観点を提示します。

観点が複数ある場合もあります。出てきた感想を観点に沿って分けて書くことで、新たな気づきやつながりを生み出せるように考えて創り上げた板書が、「感想マトリクス」です。

「ごんぎつね」の例

 「ごんぎつね」板書
「ごんぎつね」光村図書4年

「ごんぎつね」の導入は題名読みから入りました。題名は人物名です。きつねに「ごん」という名前がついていることから、どんなきつねかイメージを広げていきます。題名読みをしたことによって、ごんの行動や心情を追いながら読んでいく児童が多くいました。

一方で、感想を書いている児童のノートを見ていると、兵十について書いている児童も数名見られました。そのため、私は、ごんについての感想と兵十についての感想を分けて書けるように、板書を上下段に分けることにしました。

感想を交流していると、ごんの行動や心情に関するものがたくさん出てきます。途中まで出てこなかった兵十に関する感想や意見も、少しずつ出始めました。

感想マトリクスは、多数派のみの意見で授業が終わってしまわない工夫の一つにもなります。

「ごんぎつね」児童のノート

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「固有種が教えてくれること」の例

「固有種が教えてくれること」板書
「固有種が教えてくれること」光村図書五年

感想マトリクスは、説明文にもよく使います。

説明文の学習では、児童に論理的な文章を書く力をつけられるようにします。

そのためには、「説明文を読んでどう思ったか」という内容に関わる感想と、「筆者はどんな書き方の工夫をしているか」という文章の書き方に関わる感想の、二つを引き出したいと私は願っています。そこで、児童からどちらの感想も出てくるように、あらかじめ、板書を二つに分けて観点を提示するようにしています。

ただ、児童にとっては内容に関わる感想の方が書きやすく、書き方の工夫に関する感想について書くのは難しいものです。書き方に関する言葉が出てくるように、これまでに学習した観点を振り返っておいたり、児童の気づきを全体へ広げる対話的学習を行ってから交流に入るのがおすすめです。

感想マトリクスを使った授業例

「カレーライス」板書
「カレーライス」光村図書五年
「やまなし」板書
「やまなし」光村図書六年
「海の命」(光村図書六年)板書
「海の命」光村図書六年

次回は、単元全体を通した国語の授業についてお伝えします。

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樋口綾香教諭

樋口 綾香

ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。

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