子供にタイピング能力をつけるための工夫|樋口綾香のGIGAスクールICT活用術⑯

連載
板書や指導のコツを伝授!樋口綾香の「すてきやん通信」

大阪府公立小学校教諭

樋口綾香

Instagramでは1万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載! 今回は、子供にタイピング能力をつけるための工夫を紹介してくれました。

執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香

GIGAスクールのICT活用⑯~タイピング能力~
イラストAC

使用タブレット:iPad
使用サイト:e-typing

GIGAスクール構想の推進

1人1台タブレット時代となり、必要感が増してきたのがタイピング能力ではないでしょうか。

私は、2017年にICT活用の先進的な取り組みを行っていたある小学校に視察に行きました。そのとき、いちばん驚いたのが子供たちのタイピングの速さでした。

自分で用意したキーボードを使っている子もいれば、タブレットの画面上で入力している子もいましたが、授業中の彼らの様子を見て、「まるで大人みたいだな…」と感心したものです。

子供たちは、画面を見ながら文字入力をしており、キーボードを見つめたり、一本指で入力しているような子はほとんど見られませんでした。

そのときの私は「うちの学校ではできそうにないな」などと半分諦めていましたが、昨年度より全校児童にタブレットが支給され、大きく環境が変化したことで、子供たちの姿も変わってきました。現状をみなさんにお伝えしたいと思います。

1人1台タブレットを使い始めたときの子供たちの姿

私の勤務校では、昨年(2020年)の11月に全校児童にタブレットが行き渡りました。タブレットの種類はiPadで、4年生以上はキーボードつきのカバーになっています。

使い始めてすぐの頃は、「楽しんでいる子」と「困っている子」がいるように、私には見えました。

困っている子は、キーボード入力が遅いために、手書きで書こうとしたり、ノートを使いたいと言ったりしました。私は、「自分で選べばいいよ」と伝え、タブレット使用を強制しませんでした。

一方で、入力が遅かったり誤字脱字がたくさんあったりしても、どこか楽しそうな子たちがいます。

一人の子は、このように言っていました。

「ぼく、字を書くのが苦手だけど、タブレットだと綺麗に見えるから嬉しい」

この言葉を聞いて、この子は、ノートを使うときの方が困っていたし、苦しんでいたのだな、とわかりました。

このような子は、意外にもたくさんいました。

「丁寧に字を書きなさい、バランスよく書きなさい」というのは、私たち教師がよく言う言葉ですし、この指導が悪いとは思いません。小学生のときに文字をしっかり書けるように練習しなければ、この先文字を練習する時間がどれぐらい取れるかわかりません。

しかし、困っている子がいるのも事実です。丁寧に書けないことを「怠けている」と一面的に捉えてしまうことは、あってはいけません。

楽しいと感じている子は、他にも「新しいことを学ぶのが楽しい」「文だけでなく写真も入れてわかりやすくすることができて嬉しい」など、ICTの特性の良さを感じているようでした。

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使い慣れてきてわかったこと

タブレットを使うことに慣れてくると、あっという間にタイピングが速くなる児童がいました。聞いてみると、家のパソコンでタイピング練習をしていると言います。

その子は、文書作成だけでなく、さまざまなアプリを使って、プレゼンテーションや動画をつくるなどして、創造性を大いに発揮しました。

その様子から私は、タイピング能力を高めることは、子供がより主体的に、より創造的に学習する鍵になるかもしれないと考えました。

タイピング能力を高める環境づくり

「タイピング能力を高めること」に可能性を感じた私が、カリキュラムを考えようとしたとき、すでに子供たちは動き出していました。

それぞれ、好きなタイピングゲームを見つけ、休み時間などに各々が取り組んでいたのです。

この状況を学校全体で共有し、タイピングゲームをしてもよい時間などのルールを決めました。

私の勤務校では、10分休憩と雨の日は、タブレットを使用してもよいことになっています。

20分休憩や昼休みは目を休め、できるだけ体を動かしたり、友達とコミュニケーションをとったりしてほしいと願って、このようなルールにしました。

さらに、今年度の4月からはタブレットを毎日持ち帰っているため、課題が終わり、タブレット使用時間が合計1時間以内であれば、家でもタイピングゲームをしてもよいこととしています。

このような環境づくりを行うと、子供たちのタイピング能力は一気に高まっていきました。いつの間にか、ノートを選択していた子もタブレットを選択するようになっていました。

タイピングに自信がつくと、子供の学び方が変わる

子供のデジタルノート

これは、光村図書6年の「私と本」という単元で、星野道夫さんの「森へ」を読んだときの子供のデジタルノートの一部です。

私が範読をしようとすると、「メモを取りながら聞いてもいいですか?」と質問を受けました。私が「タブレットで? もちろん!」と答えると、何人もが「そのつもりやったで!」と教えてくれました。

教師が範読をしている間、これまでの学習では、子供はそれをじっと聞いているか、気になるところを教科書に線を引いていることが多かったと思います。

考えながら聞くことができ、さらにそれを文字で表現できるなんて、なんと素晴らしいことでしょう。

子供たちは、自分が学びやすいように、学習方法を選択するようになってきています。これは、タイピングにストレスを感じなくなったことも大きく影響しています。

「タイピングコンテスト」を実施

子供たちがタイピングへの意欲をさらに高め、がんばっている子が認められるように、コンテストを開催することに決めました。

タイピングコンテストの詳細は次の通りです。

①使用サイト

タイピングのレベルチェックができるウェブサイト、e-typingを利用。

e−typingのトップ画面
e-typingのトップページ

〔選んだ理由〕
インターネットを使って無料でタイピング練習ができる。タイピングを練習しながら語彙を増やすことができる。指の基本の位置などが視覚的にわかりやすい。

②対象学年

3年生以上

〔設定の理由〕
3年生でローマ字を学習するため

③児童への周知の方法

事前にコンテストの内容を伝える動画を作成し、3年生以上の全クラスに流した。

④検定の方法

5分間の制限時間内での一番よい結果のスクリーンショットを担当者まで提出。

⑤認定証の発行

スコアやレベルの結果に応じて「初級・中級・上級」の認定証を発行。

タイピングコンテスト認定証
タイピングコンテスト認定証

⑥結果発表

3〜6年生のトップ10を発表する動画を作成し、1〜6年生までの全学年で流した。トップ10は学校の玄関に貼り出した。

タイピングコンテスト後の子供たち

認定証をとても喜んでくれたと、担任の先生方から報告がありました。また、結果発表後に、何人もの子が「次は絶対受ける」「ちょっと自信がなかってんなあ」と伝えにきてくれました。

強制をしないことで救われる子がいる一方で、学校全体で取り組んでいることを示すと、タイピング能力をつけることを推奨していることが伝わります。

「やってみようかな」
「今の自分の力はどれぐらいかな」

と興味をもち、自分から練習する児童が増えていきます。

タイピングの力を楽しみながら伸ばしていけるような環境づくりや声かけを、これからも考えていきたいと思っています。

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樋口綾香教諭

樋口 綾香

ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。

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