菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #30 菊池省三解説付き授業レポート⑥ ~滋賀県湖南市立岩根小学校 <前編>
今回は少し趣向を変えて、菊池先生が他者の授業を参観、アドバイスした記録をお届けします。菊池先生は現在、滋賀県湖南市の学力向上アドバイザーとして、市内小中学校の授業を参観し、担任にアドバイスをしています。各地の学級担任の授業をどう捉え、アドバイスしているのか。菊池省三の「子供を見る目」を学びたい方、必読の連載です。
目次
6年1組 学級活動「学級力を高めよう」の授業
子供主体の学級を目指すために、6年1組では、担任が行動の価値付けを行うとともに、毎月学級アンケートを行っている。
授業では、アンケート結果を参考にしながら子供たちが生活目標を決め、目標の達成のために「感謝週間をしよう!」という取組を行うことに決まった。
具体的にどんなことをするか、4~5人のグループになって、話し合いをした。
子供たちは話し合いながら、各グループに1台ずつ用意されたタブレットに意見を打ち込んでいった。
話し合いの途中で、
「各グループ2人が自由に立ち歩いて他のグループの意見を参考にしよう」
と担任が言葉をかけると、子供たちは他のグループをいくつも回り、新たな意見を持ち帰った。
タブレットを1人1台使うのではなく、グループで1台にしたのは、とてもいいですね。
1人1台にした場合、どうしても自分が書き込んだタブレットを見ながら「読む」形になりがちです。せっかくの話し合いなのに、向き合うのは相手ではなくタブレット、なんてことになりかねません。
タブレットを立てて1人ずつ読み、他の子が聞くという形をとるグループが多い中、あるグループは1台のタブレットをみんなでのぞきこみながら話し合っていました。
タブレットを持っている子の対面にいた二人は、逆さ文字で読みにくかったのでしょう。しばらくすると、タブレットを一緒に読むため、立ち上がって、タブレットを持った子の周りに集まりました。
今回の話し合いは、みんなで意見を出し合うことが目的です。このような積極的な姿が見られたら、担任は話し合いの途中でも「このグループはすごいなあ」と学びの姿勢をほめ、学級全体に知らせるといいでしょう。いい学びの形をすぐに知らせることで、他の子たちにも伝わっていきます。
他のグループと意見交換に行く場合、出かける子は、一人ひとり違うグループに行き、できるだけたくさんの意見を集めてくる、残った子は、他のグループから来た子に説明をする、というように、出かける子・残る子の役割を明確にします。
役割を明確にしないと、出かける子は何となく他のグループに行くだけ、残った子は手持ち無沙汰で何もせずにいる、といったケースが出てきます。
役割をしっかり示すことで、みんなが学び合う互恵関係を築くことができるのです。
3年1組 道徳「おたがいに気持ちよく」の授業
普段の生活の中で「感じが悪い行動」とはどんな行動か、図書館、傘置き場、消防署への校外学習の場面を載せた資料を読みながら、感じたことを近くの子と意見交換しながら自分の意見をまとめ、班ごとにお互いの意見を発表し合った。
班ごとに意見を出し、全ての場面に共通した「足りない気持ち」はなんだったのか、担任が尋ねると、1人だけ手を挙げた。
「後ろでたくさんの先生たちがいるからどんどん静かになっていく空気の中、手を挙げた子、それを追いかけて手を挙げている子、すごいなあ」
と担任が盛り上げると、何人もの子が後から手を挙げて意見を発表した。
「ルールを守る」「礼儀」「相手の気持ちを考える」などの意見が出た後、担任が、
「『相手の気持ちを考える』という意見が多く出ました。実際にみんなが相手の気持ちを考えている場面がありました」
と話し、一週間前に行った製菓会社の工場見学や、学校の玄関の靴箱の写真を見せた。他の子にお菓子を配る場面や、みんなが意識して靴を揃えていることをほめ、
「こういう場面を見ると、『みんな気持ちよく』という姿勢が伝わって来ますね」
と担任が話すと、みんなが笑顔になった。
1人しか手を挙げなかったとき、担任がユーモアをまじえながら他の子をあおる言葉かけをすると、他の子たちもつられて手を挙げました。
こうした言葉かけにより、子供たちの緊張もほぐれ、教室全体が温かい空気になっていきます。
1人だけでも挙手した子を、「こういう姿を『1人が美しい』と言います」と価値付けてほめてからあおると、子供たちのやる気もさらに加速するはずです。
工場見学での態度や靴箱の様子など、子供の“事実”の姿を示し、内面の成長を丁寧に話すことはとても大切です。
せっかく「相手の気持ちを考える」ことを話し合っても、資料を使って学ぶだけだと、授業が終わればそれでおしまいです。子供たちの事実と照らし合わせることで、子供たちは自分の問題として受け止め、意識するようになります。
取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。
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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
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第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
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第24回 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート④ ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <前編>
第25回 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート④ ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <中編>
第26回 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <後編>
第27回 菊池省三解説付き授業レポート⑤ ~神戸市立春日台小学校2年1組 <前編>
第28回 菊池省三解説付き授業レポート⑤ ~神戸市立春日台小学校2年1組 <中編>
第29回 菊池省三解説付き授業レポート⑤ ~神戸市立春日台小学校2年1組 <後編>