思考ツールの活用法を教えてください<中編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#24】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学

前回は「思考ツール」について、「考える」ことや「思考スキル」との関係という基本的なことについて説明していただきました。今回は、もう少し具体的な教科の学習場面との関連や、多様な子供たちが学ぶ上で効果的な「思考ツール」の特徴について、説明していただきます。

 私はまだ授業で思考ツールを活用したことがありませんが、子供の論理的な思考力を育むためには、思考ツールを活用することがとても効果的だと先輩に聞きました。その先輩から田村先生は思考ツールの専門家であると伺ったのですが、どんな教科のどんな場面でどのように使うと効果的なのか、活用の仕方をぜひ教えてください。(20代、小学校)

「思考スキル」や「思考ツール」は、総合学習以外の教科でも使える

 前回、「考える」ことと「思考スキル」や「思考ツール」の関係、さらには学習指導要領の総合的な学習の時間(以下、総合学習)に「思考スキル」が明示されていることなどを説明してきました。しかし、「思考スキル」やそれに対応する「思考ツール」を活用する場面は、総合学習だけにあるわけではありません。

これまで我々が学習場面で扱っていた情報は、統計のような数値化された情報を処理することが多かったと思います。例えば、算数で数値を表やグラフで処理するといったことです。しかし、実際の情報処理の場面には、そのように数値化された量的な情報だけでなく、質的な情報もあります。特に、この質的な情報処理の場面で、「思考ツール」が極めて有効に機能することが多いのです。種類で分けるとか、視点で分類するなど、質的な情報処理を可能にしてくれるわけですね。

これまでの学習では、数値化された情報を処理することが多かった。算数で表やグラフに整理していくのはその典型例。

また各教科の学習においては、入力情報の性質が限定されている場合が多く、「思考ツール」を活用することの必要性があまり感じられていなかったということもあるでしょう。例えば、算数科で「考える」場合は、一般的に入力し処理する情報が数字であることが多いでしょうし、社会科では社会事象を情報処理しますし、理科では自然事象について情報処理をするわけです。そのように教科の特性に応じて、入力情報の性質にあまりバラつきが見られないため、情報処理過程が「思考スキル」「思考ツール」といった具体的な水準で準備されていなくても、何となく処理できてしまっていたのだと思います。

ところが総合学習では、入力情報のバリエーションが多いわけです。自然事象もあれば、社会事象もあるし、人文科学情報もあります。例えば、川を踏査し情報を収集する場面をイメージすれば、水質に関する情報や植生に関する情報が入ってきますし、さらに地形の情報や地質の情報も入ってきます。加えて、地域の多様な人たちのインタビュー内容なども入ってくるわけで、入力情報が混沌としています。そのため、情報処理過程を「思考スキル」「思考ツール」のような形で、ある程度具体的にもっていないと処理できない、という状況が生まれてしまうのです。ですから、総合学習で「思考スキル」「思考ツール」が有益に機能し、とりわけ探究のプロセス(課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現)の中の、「整理・分析」の局面で非常に有効に機能することが分かったのだと思います。

簡単に言い換えれば、各教科では入力情報が限定や整理がなされている状況であるがゆえに、処理過程で「考えましょう」と言っていても、無自覚に処理ができていたわけです。それに対し、総合学習では入力情報が多様で雑多で混沌としているので、処理過程がある程度、明確かつ意図的でなければ、つまり「思考スキル」や「思考ツール」のようなものがないと、処理がむずかしいということです。

そのような必要性から、総合学習で生まれたのが「思考スキル」や「思考ツール」なのですが、当然、総合学習以外の教科でも使うことができます。理科ならば、以前から「比較」や「関係付け」といったことが強調されてきたわけですし、算数科や数学科ならば、「順序よく」ということもあるでしょうし、数字から文字に置き換える「置換する」もあります。そのように教科に固有の、あるいは高い頻度で出てくる「思考スキル」はあるわけですし、それに対応する「思考ツール」を意図的に活用していってもよいでしょう。総合学習では情報が多種多様であるため、「思考スキル」「思考ツール」があったほうが便利です。それに対し、各教科では「思考スキル」「思考ツール」がなくても情報処理は可能な場合もあるのかもしれませんが、それを意図的に活用し、「この情報は比較しよう」「今回の情報は分類したほうがよい」と思って操作するほうが、思考の水準が高いと思います。自らが意図をもって操作できる状態になるわけですから。

以前の学校教育では、どうしてもプロダクトとしてのゴール、正解だけを求める傾向が強い部分もあったように思います。例えば、算数科や数学科ならば、子供たちは「正解が出ればいいんでしょ」と思う傾向が強かったのではないでしょうか。しかし、本来はそうではなく、どのように思考し、そうなったかという学習の過程をより明確に自覚し、意味理解をしていくことが大切です。それについては、学習指導要領が現行のものに改訂され、「思考スキル」や「思考ツール」が明確になったため、指導する側も「当然だ」と思っているかもしれませんが、10年くらい前まではほとんどの人がそうは思っていなかったのではないでしょうか。そのように、学習過程を子供たち自身が意図的に進めていくという意味でも、各教科で意図的に「思考スキル」「思考ツール」を活用することは意味があると考えています。

「思考ツール」の価値は「可視化」と「操作化」

実は、「思考ツール」というツール自体には、多様な認知特性をもった子供たちが共に学ぶ上でとても重要な価値があります。前回、「思考ツール」は「考える」ことの「枠組み」「フレーム」だと説明しましたが、なぜこの「枠組み」「フレーム」があると、誰にでも求められる思考が生じやすいかと言えば、そこには2つの理由があります。

その一つは可視化であり、もう一つは操作化です。可視化は情報処理の過程が目で見て分かるということで、操作化というのは「思考ツール」をカードにしたり、ICT活用したりすることで、実際に動かしながら考えることができるということです。「思考ツール」はこのように、思考(情報処理)する行為を可視化し、操作化できるようにしてくれます。この2つの特徴があるため、子供たちの多様な認知特性に対応できるのです。

「思考ツール」以外でも、可視化や操作化を取り入れることで、多様な認知特性をもった子供たちが学びやすくなることは少なくない。

ちなみに、子供の認知特性(大人も同様)には3タイプあって、体感覚が優位な子(身体を通して活動することで認識する子)もいれば、音声認識が優位な子(音で理解するのが得意な子)もいれば、映像認識が優位な子(目で見たほうが理解しやすい子)もいます。それは人によって異なり、どのタイプが優れているとか、どのタイプが悪いということではなく、それぞれの子供の個性であり、特性にすぎません。

ところが学校というところは、学齢が上がれば上がるほど音声言語中心の指導になる傾向があります。そのため、授業中に音声優位ではない特性をもった子供は理解がむずかしくなって、先生が「さっき言ったでしょ!」と指導する場面が生まれることがあります。そのように多様な認知特性をもっている子供たちがクラスの中にいることを考えれば、目で見て分かる可視化や、操作しながら思考を理解する操作化という特徴のある「思考ツール」が用意されていることは、極めて多様な子供に対応しやすいわけです。つまり、極めてユニバーサルデザイン的なツールであると思います。

ですから、特別支援学校の子供たちも、「思考ツール」があることで学習が促進されることがあります。もちろん学級の中にも、音声優位な子もいれば映像優位な子も、体感覚が優位な子もいるわけで、そういう多様な認知特性をもった子供たちが共に学ぶ上で、非常に有効なありがたいツールなのだと思います。

次回は、より具体的な「思考ツール」についての活用の仕方や、新たに導入していくための方法などを伺っていきます。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、8月24日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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