子供の思考を深める板書はどのように書けばよい?<前編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#30】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学

先生方のご質問に対して、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、より良い板書を通して子供たちの思考を深めていきたいと考えている先生のご質問にお答えいただきます。

 教員になって2年目なのですが、板書をどうしたらよいか悩んでいます。「子供の思考を促す板書」とか、「ふり返りをしっかり書けるような板書」が大事だと聞きますが、具体的にどのような工夫をすると子供が深く考えてくれるような板書になるのでしょうか。(小学校、20代)

黒板一面をフラットな平面として捉え、情報の構造的な配置を考える

 板書の機能は大きく2つあると思います。1つは記録のための板書で、もう1つは、今回のご質問にあるような思考を促すための板書です。

これまでの授業では、記録するための板書が多かったのではないかと思います。多少乱暴に言えば、授業中に先生が板書に書いたものを、子供たちが一生懸命ノートに書き写し、受け身の状態でそれを暗記していくというようなイメージです。そのときの板書は、その授業で先生が押さえておきたい知識を明確に書き込み、子供たちがそれを書き写しながら、私たちの世代なら「鎌倉幕府は源頼朝が征夷大将軍に任命された1192年に成立」と覚え、現在なら「諸国に守護・地頭を設置する権限を得た1185年に成立」というように覚えていくことになります。書いておけば忘れないというような、記録のため、記憶のための板書という意識が強かったでしょう。

そのような板書は、おおむね教科書の書き方に倣い、国語ならば縦書きで黒板の右上から左下に向かって書き、算数や理科は横書きで左上から右下に向かって書いていったと思います。それは、現在もまったく必要のないものではなく、子供たちの記憶に留めていくために書いていくというものはあってもよいと思います。

その日の学習が時系列ですっきりと整理された板書。

ただし現行の学習指導要領は、資質・能力の育成を目標とし、これまで以上に「思考力、判断力、表現力等」を育むことが期待されているわけですから、子供たちの思考が促されるような板書を作っていくことが大事です。その意味では、質問された内容はとても大事なことなのですが、そのような板書については、なかなか定型化されたものがないというのが現実でしょう。

とはいえ、子供たちの思考を促し、活性化するような板書が必要だし、とても大切だと思います。GIGAスクール構想によってICT機器が入ってきたため、板書に関する状況は少し変わってきてはいますが、それはいったん置いておいて、板書について考えていくことにしましょう。

板書とは簡単に言うと、授業中に子供たちが発言した情報を教師がキャッチし、その情報を精選し、限定された情報を黒板という平面上にプロットしていくことだと思います。その落とし込まれたものは、位置どりや関係性やサイズやカラーリングなどを教師が意図して変えながら書くわけですが、その書かれた情報はもう一度リプレゼンテーションされて、子供の目に入っていくわけです。子供がそれを見たときに、「ああ、あれとこれは似ているな」とか、「あのことと、このことは全然質が違うぞ」とか、「あれとこれが結び付いたらどうなっていくんだろうか」というように、情報が結び付いて次の思考に向かうことが大事だと思います。構造的な板書によって頭の中が整理され、次の思考が生まれてくることが大事なのです。

授業中に話し合われてきた多様な情報は、主に音声言語によるものであるため、そのままでは流れていってしまいますから、どういう情報が交流されてきたか、それぞれの情報がどういう関係性にあるか、どのような結び付きがあるかということは子供にはなかなか分かりません。音声言語の認識に優れた一部の子以外にはむずかしいのです。そこで、先生が情報を選択し、上手にビジュアル化、構造化して板書することによって、「ああ、そうか、反対の意見が出ていたんだな」とか、「あれとこれは結び付きが強いんだな」と見えてきます。それによって、「あれとこれが関係して、こんなことが起こったんだな」とか、「こういう因果関係があるんだな」というような考えが生まれてくるような板書が大事なのです。

「思考ツール」は枠組みによって思考を誘うもの

では、具体的にどのように黒板に構造化して板書をしていくかということですが、これまでの記録する板書であれば、縦書きの国語なら、黒板の右上に今日の学習の「めあて」や「課題」があり、そこから左側に時系列で子供の意見のポイントが書かれていくことになるでしょう。横書きの教科等であれば、それが左上に「めあて」「課題」があり…となるわけですが、いずれにしても時系列で書かれているわけです。そのときに、子供の発言をすべて板書することは不可能ですし、もしすべて板書してしまうとかえって子供たちは分かりにくくなってしまいます。ですから、子供の発話の中の鍵となる情報をキャッチして、取捨選択して板書することが必要になります。そのときに、その授業を通して育みたい「資質・能力」に基づいたゴールイメージ(子供の姿)が明確に描かれているならば、その取捨選択がより的確に行えるようになるでしょう。

一方で、子供たちの思考を促す板書をするときには、時系列に沿って書くのではなく、黒板一面をフラットな平面として捉え、その面の中に情報をいかに構造的に配置できるかと考えていくのがよいでしょう。では、どのように構造的に配置するかなのですが、そのときに参考になるのが「思考ツール」です。

例えば、国語の物語文を読んでいて、ある場面における登場人物の言葉や行動などの叙述を基にして、「この人は勇気があるのか?」というような問いが生まれたとします。それに対して、「ある」「ない」と対立する意見が出るのであれば、それが明示できるような方法で記していったほうが分かりやすいわけです。そうであれば、黒板に大きく1本線を引いて、上下あるいは左右に対立する意見の根拠を分けながら板書していくと、どの子にも見て分かりやすいでしょう。さらに、どちらとも言い切れないというような両者に共通する意見が出てくるならば、ベン図のようなもので分けて記せば分かりやすいはずです(写真1参照)。

(写真1)国語の授業で、がまくんとかえるくんの性格の特徴と共通点をベン図で整理した板書例(模造紙)。

あるいは、ある場面での登場人物の心情を豊かに読むときには、黒板のセンターに登場人物の名前を書いて、どういう思いだったかをウェビングで広げ、さらにどこからそれが読み取れたか、本文の叙述を付けていくわけです。そうすると、登場人物が中心にあり、心情がその周囲にあり、さらにその外側に根拠となる叙述が広がっていき、イメージも広がることでしょう(写真2参照)。

(写真2)理科で、「よう虫の体のつくり」についてウェビングを使いながらイメージを広げていった板書例。

こうした方法を取るのは、子供たちにしてほしい思考の仕方があるからです。前者の二項対立の場合は比較をしたいということです。両者の違いはどこにあるのか、あるいは共通する部分もあるかもしれないということを子供たちなりに考えながら読み深めていきます。後者のウェビングの場合は、拡散的な思考をするもので、結び付けたり、関連付けたりしながらよりアイデアを広げていきます。そのように、各授業場面で期待する思考の仕方(どのように情報処理をしてほしいか)があり、それに合った「思考ツール」を参考に板書をしていくわけです。そうした思考のシンボリックなものに、比べるとか、関連付けるとか、分類するとか、多面的に見るなどがありますが、それが際立つように構造化された板書があると、学び手はそのように情報処理がしたくなるし、思考が滑らかに深まっていきやすくなります。子供たちは板書を見ながら考えていくことを積み重ねるうちに、「ああ、対比しているんだ」とか、「結び付けて考えてきたんだ」とか、「複数の視点から分析しているんだ」と、自覚的になっていくでしょう。

黒板というのは映像ですから、情報が構造的に整理された映像を以て思考を誘うということです。例えば、左右に分かれて並んでいるから比べたくなるし、右から左あるいは上から下に順番に並んでいるから順序性を感じるわけです。「思考ツール」はそのような枠組みによって思考を誘うものなので、その「思考ツール」の発想を、黒板という大きな平面上で、有効に利用していただければよいと思います。

今回は、板書の基本的な考え方と「思考ツール」を活用し、思考を誘う板書の方法について説明していただきました。次回は、さらに具体的な板書の方法について、実例も加えながら「快答」していただきます。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、10月5日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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