「個別最適な学び」と「協働的な学び」を同時に実現するには?<前編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#36】

連載
教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」

國學院大學人間開発学部教授

田村学

先生方のお悩みや疑問について國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。今回は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」という、一見、相反するように見える学びを同時に実現するにはどうしたらよいかという悩みに「快答」していただきます。

 「令和の日本型学校教育」に関する答申の中では、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実が求められていると言われます。ただ、「個別最適な学び」と「協働的な学び」はそれぞれ相反する性質のものだと思いますが、それらを同時に実現していくためには何がポイントとなり、実際にどのように実践をしていけばよいのでしょうか。(小学校、30代)

「協働」の学びが充実していれば、「個別」の学びが達成されている可能性が高い

 中央教育審議会の答申「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」の総論の3の⑴には、「『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実し、『主体的・対話的 で深い学び』の実現に向けた授業改善につなげていくことが必要である」とあります。ですから、この両者の一体的な充実こそが「主体的・対話的で深い学び」になるというわけです。

では「個別最適な学び」とはどのようなものかということになりますが、これは簡単に言えば、一人一人の子供にとって、より適切な学びが実現しているということです(資料1参照)。一方、「協働的な学び」というのは1人で学ぶだけではなく、集団において他者と学ぶことに意味や価値があるということです(資料2参照)。

【資料1】「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)の総論の3の⑴より抜粋

全ての子供に基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させ、思考力・判断力・表現力等や、自ら学習を調整しながら粘り強く学習に取り組む態度等を育成するためには、教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどの「指導の個別化」が必要である。

基礎的・基本的な知識・技能等や、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等の学習の基盤となる資質・能力等を土台として、幼児期からの様々な場を通じての体験活動から得た子供の興味・関心・キャリア形成の方向性等に応じ、探究において課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現を行う等、教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるよう調整する「学習の個性化」も必要である。

以上の「指導の個別化」と「学習の個性化」を教師視点から整理した概念が「個に応じた指導」であり、この「個に応じた指導」を学習者視点から整理した概念が「個別最適な学び」である。

【資料2】「令和の日本型学校教育」の構築を目指して(答申)の総論の3の⑴より抜粋

「個別最適な学び」が「孤立した学び」に陥らないよう、これまでも「日本型学校教育」において重視されてきた、探究的な学習や体験活動などを通じ、子供同士で、あるいは地域の方々をはじめ多様な他者と協働しながら、あらゆる他者を価値のある存在として尊重し、様々な社会的な変化を乗り越え、持続可能な社会の創り手となることができるよう、必要な資質・能力を育成する「協働的な学び」を充実することも重要である。

繰り返しになりますが、この両者が一体的に充実することが「主体的・対話的で深い学び」になると言っているわけですから、「個別最適な学び」の「個別」に学びが実現されていることもあれば、集団などで「協働的」に充実する学びが起きていることがあるということです。

さて、ここからは具体的に子供の学びの姿をイメージしながら、話を進めていきましょう。子供たちは「個別最適な学び」をやっているからといって、ずっと「個別」に学び続けるのかというと、そうではないと思います。1人で学んでいると、「あの子はどういうことをやっているんだろうか」「ちょっと友達に相談してみたいな」「このことをこの人に聞いてみたいな」というように、学びの一層の充実を図るために、他者性が出てくるものでしょう。そのように「個別最適な学び」がより充実、発展していくと、そこには「協働的な学び」が生まれてくることがあるのだと思います。おそらく学校教育の中で、先生方はそんな子供たちの学びの姿を見てこられているのではないでしょうか。

一方「協働的な学び」は、協働的に学ぶわけですから、集団で話し合うとか、グループでディスカッションするとか、クラス全員で意見交換するといったことがあるわけです。そのとき、私たち教師はついつい共に学んでいるところばかりに目が向くわけですが、例えば6人のグループで話し合っていれば、6人それぞれの中に学びが生じています。そして、その6人全員に豊かな学びが生じているとすれば、それは「協働的な学び」が充実している瞬間である可能性が高いわけです。もし6人の中で1人だけ、あるいは2人だけに豊かな学びが展開されているという状況だと、「本当に『協働的な学び』が充実していると言えるのだろうか?」ということになると思います。ですから「協働」というのは、決して「個別」を排除しているわけではなく、個を含んだものであり、「協働」の学びが充実しているときは、「個別」に期待されている充実した学びが達成されている可能性が高いのだと思います。

「個別最適な学び」は、個であることが優先されるがゆえに、「本当にバラバラに行われなければいけない」と思われるかもしれません。しかし、もしグループで話し合っているときに、一人一人に充実する学びが生じていれば、それはグループですから、形としては「協働的な学び」ではあるけれども、そこでは「個別最適な学び」も実現しているのだと思います。これまでのすぐれた授業実践では、30人が同時に学び合っているのだけれど、30人全員が高い関心をもって真剣に1つの議論をしているということがあったはずです。それが実現しているときには、30人一人一人に「個別最適な学び」が起きている可能性があるのだと思います。

グループで「協働的」に学び合っているときにも、一人一人に充実する学びが生じていれば、「個別最適な学び」も実現しているのかもしれない。

ですから、「個別」の学びが充実するところに「協働」の学びが生まれ得るし、より「協働的な学び」が充実した形で起きているときには、一人一人の子供に「個別最適な学び」が生じている可能性が高くなると言えるでしょう。実際の授業場面では、対話した後に改めて個でふり返って考えを整理する時間を取りますが、それは、「協働」で学ぶ場面は集団で、なおかつ音声言語を使って行うがゆえに、個(自分)の中に起きている状況を自覚しにくいからです。そのため「協働的」に学んだ後で、もう一度時間を取って、自分の学びを見つめ直すことで、自分(個)の学びを自覚できるということだと思います。そのため、結果的に協働的な学びにおける、個別に起きていた学びが、自分のものになり得るということです。

「個別」であること自体が目的化する危険性がある

ですから、「個別最適な学び」は、ただバラバラでやればいいということではなく、より「最適な学び」であることを意識しなければなりません。あるいは、他者との「協働的な学び」によって、より質が高まり、深まっていくということ、つまり表面的な浅い学びにしないことを意識することが大事だと思います。

これまで教育現場では、目的と手段を取り違えてしまい、手段が目的化してしまうという間違いもありました。その例で言えば、「個別最適な学び」が求められている、というと「個別」であること自体が目的化する危険性があると思います。そうすると、一人一人に情報端末を持たせておくだけで「個別最適な学びができる」と思ってしまったり、情報端末を持っているだけで良いことをしているような勘違いをしてしまったりする危険性があります。結果的に、情報端末を持たせて個別に何かをさせておくことが目的化してしまうわけです。

しかし、本当に期待されているのは資質・能力の育成ですから、そうであれば、仮に「個別」であっても「本当にその子にとって最適な学びになっているのか」ということが問われます。さらには、おそらく「個別」だけではなく、そこに他者性が入ってきて、表面的な知識の獲得ではなく、より深い学びが出てくることが大事なのだと思います。しかし、これまでも形式のほうに目が向く傾向がありましたし、加えて使うべき道具があると無意識に強迫観念を感じて、そうした勘違いを生んでしまう危険性はあるのではないでしょうか。そのように目的と手段を取り違えないように配慮することが必要です。

今回は、中央教育審議会の答申にも触れていただきながら、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の基本的な考え方について説明していただきました。次回は、「個別最適な学び」と「協働的な学び」について、具体的な授業場面に触れながら説明していただきたいと思います。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、11月16日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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