保護者に信頼される学級掲示はどのようにすればよい?<後編> 【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#29】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」
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國學院大學人間開発学部教授

田村学

先生方のご相談について、國學院大學の田村学教授にお答えいただくこの企画。前回は、学級掲示の基本的な考え方と前面の具体的な掲示について説明をしていただきました。今回は、背面や側面の掲示について、具体的に説明していただきます。

 新卒の教員です。1学期の保護者会は本当に何が何だか分からないうちに終わった感じで、何も準備ができませんでしたが、2学期の保護者会は少し落ち着いて進められるかなと思っています。その際、学校に来られた保護者から少しでも信頼されるように掲示物を整えたいと思うのですが、掲示物整理のポイントはありますか?。(小学校、20代)

背面上半分には長期的な学習活動の履歴を残す

 前回、前面のお話をしましたが、前面ができたら、次は背面を考えていくことにしましょう。多くの場合、教室内で最も大きな面積が活用できるのが背面だろうと思います。背面の下側にはロッカーが配置されていることが多くありますが、上半分は全面が掲示に活用できるでしょう。もちろん、教室のレイアウトによってはロッカーが側面側にあって背面がより広く活用できる場合もあるし、中央に小さめの黒板があって掲示できる場所が限られる場合もあるとは思いますが、基本的に最も掲示に活用できる面積が広いのが背面ではないでしょうか。

授業中にわざわざ見る機会が少なく、休み時間に子供同士でじっくり見合える背面には、子供たちの学習成果物などがあるのがよいだろうと思います。そして、大きく上半分(子供たちの手の届きにくい場所)と下半分(子供たちでも手が届きやすい場所)に分けて考えていくのがよいのではないでしょうか。

実際に私自身が掲示を行っていたときには、上半分には長期的な学級の学習活動の履歴をダイナミックに残していました。4月に教室掲示を開始するとき、上半分を占有するように好みの色模造紙を3色、台紙として貼って、左側から右側へ1学期、2学期、3学期と時間軸で動かしながら、総合的な学習の時間(以下、総合学習)の学習活動の中でシンボリックなものを掲示していたのです。例えば、4月は地元の川へ出かけて環境を調べたなら、子供たちの活動写真や、そこでの気付きを子供が書いたものなどを整理して掲示。5月に、そこで気になったことを専門家に聞きに行ったら、その方のお顔写真や話の内容などを掲示するというようにして、上半分の面を子供たちの豊かな学びの足跡として整理をしていたのです。

総合学習の探究のプロセスに沿って学習を掲示していくような優れた実践事例もある。

このように掲示を整理していけば、1学期に保護者会があるからといって、急いで掲示用に絵を描かせるとか、習字を書かせるといった無理をする必要もありません。もし、先生が一人で無理をして何らかの掲示を用意したとしても、それを放置するわけにはいきませんし、さらに次の保護者会ではより良い掲示への変更が求められるので、負担は増えるばかりです。それに対し、4月に学期ごとの色模造紙が貼られていれば、何らかの掲示をしようとしている意図は分かりますし、保護者は「どうなるのだろう?」と思いながら見ていることでしょう。それが、2学期の保護者会の際に1学期から2学期はじめまでの学習の足跡が残っていると、「ああ、あれはこうなる予定だったのか」と納得するだけでなく、「子供たちはこんなふうに学び、育ってきているんだな」と一目で分かります。それはクラスの学習のポートフォリオであり、保護者だけでなく子供たちにとっても自分たちの学習をふり返る大切な掲示となるのです。そして、何よりも先生自身にとっての負担軽減が図れます。

いずれにしても学校教育は意図的、計画的、組織的に行うことが求められますが、掲示物もこのように1年間の見通しをもって、意図的、計画的に行うことが大事だと思います。

背面の上半分の掲示ができたら、下半分をどうするかですが、上半分の掲示には先生が手をかける必要がありますから、下半分はできるだけ先生の手を減らしたいところではないでしょうか。私の場合は、上半分をクラスのポートフォリオにしていましたから、下半分は子供たち一人一人のポートフォリオにしていました。A4のクリアファイルで1か所だけ開いているものを子供の数だけ貼り、そこに子供たちが各教科等で学習をした成果物を入れるようにしていたのです。

例えば、算数で学習したことを基に問題づくりをしたらそれを入れ、国語で作文を書いたらそれを算数の前に入れ、さらに社会科で調べたことを新聞にまとめたらそれを国語の前に入れ…というようにしていくと、掲示が常に変化することになります。子供たちの中には、学習成果を先生が評価して返還したものをなくす子がいたり、整理が苦手で机に詰め込んでグチャグチャにしてしまう子もいたりするかもしれません。しかし、クリアファイルに入れておけば、個人の学習履歴となる成果物が時系列で蓄積され、保護者会の際には保護者がそれを見ることもできます。もちろん、クリアファイルに入る量は限られますから、ある程度たまったら別にファイルしていくことは必要ですが、このようにしておけば、先生が手間をかけずに常に最新の掲示に更新していくことができるのです。

子供たち一人一人の自己紹介文と学習成果を蓄積したファイルを並べた実践例。

側面は子供たちが自由に使えるようにする

背面は学習成果物を掲示しましたから、側面が活用できる場合は、子供たちが自由に使えるようにしてあげるとよいのではないでしょうか。例えば係活動とか委員会活動のお知らせなど、自由に使えるようにするのです。そうすると、前面、背面、側面と面ごとに機能を変えて活用することができます。

実際に、子供たちに自由に掲示をさせているクラスの実践例。

先生によっては授業中にも比較的見やすい側面に、その時期に学習している教科のより中核となる知識を整理して掲示する場合もあります。これからの学習で重要なことは、知識を暗記しておくことではなく、それがいかに使えるかということです。ですから、多様な知識を何でも掲示していくというのではなく、その単元の学習をする上で重要なコアとなる知識、欠かせない主要な知識がコンパクトに明示できることが大事でしょう。そのような学習中の単元のコアとなる知識、主要な知識が掲示されていると、授業を展開していく上でも非常に便利だろうと思います。

板書の画像とともに、学習のポイントを整理した側面掲示の実践例。

ただし、1人1台端末の時代ですから、先のような主要な知識を各自が端末上に整理して蓄積し、いつでも使えるようにしておくことで掲示の機能を代替していくこともできます。そのようなことも考え、バランスをとりながら各クラスの実態に応じて考えていけばよいと思います。ちなみに、このような主要な知識を掲示する場合は、授業中に活用しやすい側面の前半分に掲示し、子供たちが自由に使えるスペースは側面後ろ半分というように分けて考えるとよいのではないでしょうか。

その他、廊下側の面がある場合は、他学級、他学年の子供たちも見ることができる場所ですので、「展示する」というような考え方になると思います。時期ごとに、例えば運動会シーズンになれば、それに関するものがある、文化祭のシーズンになれば、それに関するものが掲示されるというようなこともあるでしょう。廊下側は全校の子供同士が見合える場所ですから、もしかしたら学校で統一したルールがある場合もあるかもしれませんね。

いずれにしても掲示をする上で大事なことは、子供たちの学習の履歴や足跡が見えること、そのときどきに共有したい必要なことが整然と見えやすく整理されていることだと思います。

田村学教授の「快答乱麻!」】次回は、9月28日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


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