第一人者に聞く「中学校におけるアクティブ・ラーニング」の心得とは?

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國學院大學人間開発学部教授

田村学

今、中学校の教育現場ではポストコロナ社会に向けた新たな取組が始まっています。そのキーワードとなるのが「アクティブ・ラーニング」。本サイトにてみんなの教育技術オンラインセミナーを主催した、 國學院大學人間開発学部教授の田村学先生に、その実情を伺いました。

田村学先生

田村 学(たむら・まなぶ)
文部科学省初等中等教育局教育課程課視学官を経て、國學院大學人間開発学部教授。日本生活科・総合的学習教育学会副会長。文部科学省視学委員。新潟県上越市立大手町小学校教諭、柏崎市教育委員会指導主事や文部科学省を経て現職。著書に、『考えるってこ ういうことか!「思考ツール」の授業』(2013 小学館)、『こうすれば考える力がつく! 中学校思考ツール』(2014 小学館)、『授業を磨く』(2015 東洋館出版社)、『深い学び』(2018 東洋館出版社)、『「深い学び」を実現するカリキュラム・マネジメント』(2019 文溪堂)など。

中学校の学びに変化の兆しが

例えば、プログラミング教育や英語のように、学習指導要領の基準の改訂においては、小学校が非常に話題性の高い改訂を行うことが多く、中学校の教育課程の改訂はこれまで脚光を浴びる機会が少なかったと言えます。

また、新しい内容の位置付けとなる改訂が少ないことで、指導の改善や積極的な変革意識の高まりが進みにくかったようにも思います。ところがここに来て、日本全国の中学校で授業づくり、授業改革への機運が高まっていると強く感じます。

これは、アクティブ・ラーニング連絡協議会の力によるところが大きいと思います。本協議会は、平成29年度に京都市立下京中学校、岡崎市立新香山中学校、能美市立辰口中学校、福井市明倫中学校の4校が中心となって発足しました。そして今では県の枠を超え、多くの先生方が実践を持ち寄る学びの場となっています。

これまでは学校文化や地域性などが学校ごとに大きく違っており、このことが県を越えて継続的な研究推進をすることの大きな壁となっていました。

しかしアクティブ・ラーニング連絡協議会の活動が進むにつれて、県は違っても課題や授業改善の目的は共通であることがわかり、さらによい点を真似たりして知見をも共有するようになると、「我々」という一体感が生まれ、いつの間にか壁の存在も感じられなくなったのです。

そして、ネットワークを広げていこうという推進力も生まれて来ました。

最近、総合的な学習の時間はもちろん、全教科における授業参観や校内研究へ招聘される機会が増え、授業を変えようという教師の意識の変化を感じます。 そして何よりも、自ら学びと向き合い、友人と真剣に語り合う生徒の姿を目の当たりにし、その様子に感銘を受けました。

学びが自律的になり、高度な思考が可能になる中学校では、「深い学び」を生徒たちの姿から体感できるようになります。身につけた知識を自在に活用し、学習内容を深く理解する姿、自らの成長を自覚し新たな学びに向かうその姿です。

深い学びとは、なにか。それはアクティブ・ラーニングを軸とした中学校の授業に隠されているのだと感じます。

深い学びを実現する3つの視点

1.「チョーク&トーク」の授業はもう過去の話

以前は黙々と板書を書き写す受け身の授業が主流でした。ところが最近は生徒同士が話し合って展開していく授業が増えています。

先生が一方的に話すのと違い、ほかの生徒の発言が記憶に残り、一人ひとりが授業に参加する能動的なものへと変わってきています。

2.変革の鍵はアクティブ・ラーニング

アクティブ・ラーニングとは「主体的・対話的で深い学び」を具現化したもの。これは生徒が主体性を持って周囲と協力して問題を発見し、答えを導いていく、能動的な学びを指します。

この学びこそ、実際の社会で活用できる資質・能力であると考えられます。そしてアクティブ・ラーニングにおける重要点が、下記の3つであることが明らかになってきました。

  1. 「教科の学び、期待する学び」に、自ら向かう導入(課題・問い)の設定
  2. 「音声言語の内化と外化(対話)」を通して、知識を構造化する場面の整備
  3. 知識の構造化を推進する「文字言語による自覚化 、共有化(振り返り)」の意図的構成

3.定型化ではない意図した授業設計を

能動的な学びを実現するためには、思いや願いを実現し、目の前の問題を解決していくプロセスの充実が欠かせません。何の目的もなく、まったく意欲も高まらない、教師によって定められた課題では、おそらくプロセスは充実しません。

仮に、定型化されたプロセスを踏んだとしても、それはただ単にレールの上を走らされているだけにしか過ぎず、自発的に挑み続け、立ち向かう生き生きとした学びになるとは想像しにくいです。

導入場面における課題設定や指導者の意図的な授業設計によって、子どもたちは自発的に学びに向かうようになるのです。そのための明確な知見も、実践によって形をなしてきています。

中学校ならではの強みを生かした教育

中学校の教師は小学校の教師と比べると、教科に対する専門性が高く、それにより知識の伝達に特化した一方的な授業をしてきた可能性があります。

ところが、その専門性に「アクティブ・ラーニング」の視点をもつことで、強力なパワーとなって発揮されるのです。

豊かな専門性は教科だけにとどめておくのではなく、横断的な取組によって、一層の輝きを放つのではないでしょうか。

今後、変わるであろう中学校の具体的な取組について、注視してみてください。中学校の授業改善は今、大きな潮流になろうとしているのです。

構成/太田綾子

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