Society5.0の時代に向けて学校教育は今、変革期を迎えている

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最近、あちこちで使われているSociety5.0(ソサエティ5.0)という言葉。未来社会を意味するこの言葉は、実は学校教育に深くかかわってくるキーワードであり、学校教育は今、変革を求められています。Society5.0の時代に求められる学校教育とはどんなものなのか、考えてみたいと思います。

撮影/金川秀人

Society5.0と第4次産業革命

この国の未来を語るときのキーワードとして、ここ数年、頻繁に目にするようになった言葉があります。Society5.0です。

Society5.0は、2016年1月、「第5期科学技術基本計画」において、我が国が目指すべき未来社会の姿として内閣府が提唱したものです。狩猟社会(Society1.0)、農耕社会(Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会(Society4.0)に続く、技術革新によって生み出される新たな社会であり、Society5.0で実現する社会は「超スマート社会」とされます。IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがネットを介してつながり、様々な知識や情報が共有され、人工知能(AI)などによって新しい価値やサービスが次々に生み出され、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服され、人々を豊かにする社会です。

これは2030年以降を見据えたものですが、あくまでも目指すべき社会であって、果たして実際はどうなるのか……予測は困難です。にもかかわらず、なぜこのような理想の社会像を内閣府が示したのかといえば、今、世界では第4次産業革命が進行しているからです。

18世紀末にイギリスで起きた第1次産業革命では、蒸気機関によって工場が機械化し、20世紀初頭の第2次産業革命では、電力によって大量生産が可能となり、1970年代初頭の第3次産業革命では、コンピュータ・産業用ロボットにより生産の自動化・効率化が進展しました。産業革命によって、人々の生活や経済が大きく変わってきた歴史があります。そして現在は、2010年代から第4次産業革命が進行中であり、ビッグデータ、IoT、AI、ロボットなどがキーワードとなっています。

今まさに、世の中が大きく変わろうとしている中で、政府がSociety5.0を提唱した背後には、未来への危機感があります。かつて日本の家電メーカーは世界をリードし、日本は世界で有数の貿易大国でしたが、徐々に国際社会での存在感が薄れていき、現在、世界で最先端のテクノロジーの覇権をめぐって争っているのはアメリカと中国です。

第4次産業革命のイノベーションは、予測困難なスピードと経路で進んでいくことから、対応が遅れたり大胆な変革を躊躇したりすると、世界の先行企業の下請け化して、中間層が崩壊してしまうおそれがある。

未来投資戦略2017」より

IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボット、シェアリングエコノミー等の第四次産業革命の技術革新を、あらゆる産業や社会生活に取り入れることにより、様々な社会課題を解決するSociety5.0を世界に先駆けて実現する。

経済財政運営と改革の基本方針2017」より
Society5.0のイメージ
写真/PIXTA

つまり、Society5.0を「世界に先駆けて」実現することが重視されていて、文部科学省にとどまらず、総務省、経済産業省、財務省、国土交通省、農林水産省など、多くの省庁がSociety5.0に向かって動きだしているのはそのためです。

【関連記事】ソサエティ5.0をさらに詳しく知りたい人はこの記事もチェック→ソサエティー5.0とは? 教育、学びはどう変わる?

学びの在り方の変革

今年6月、文部科学省から「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」という報告書が発表されました。そこには、

AIなどの技術革新が進むSociety5.0という新たな時代に対応するためには、不断の取組として、学校教育も変化していかなければならない。そのためには、ICTを基盤とした先端技術やそこから得られる教育ビッグデータを効果的に活用することで、子供の力を最大限引き出し、公正に個別最適化された学びを実現させていくことが求められる。

とあります。

教育現場も「待ったなし」の変革が求められています。

しかし、現実はどうでしょう。OECD国際教員指導環境調査(TALIS)2018の結果を見ると、「生徒に課題や学級での活動にICT(情報通信技術)を活用させる」という項目に「いつも」または「しばしば」と回答した日本の中学校教員の割合は、17.9%。参加国48か国・地域の平均は51.3%であり、下から2番目に少なかったのです。

新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」には、202X年の未来のイメージが示されている一方で、「もはや学校のICT環境は、その導入が学習に効果的であるかどうかを議論する段階ではなく、鉛筆やノート等の文房具と同様に教育現場において不可欠なものとなっていることを強く認識する必要がある。この危機的な状況を抜け出し、世界最先端のICT環境に向かう必要がある」とあります。

日本のICT活用教育は危機的状況にあることを学校の管理職は認識し、まずはICTの環境整備を行う必要があるのです。

Society5.0に関連して、新しいキーワードが多数出てきました。個別最適化された学習、スタディ・ログ、eポートフォリオ、STEAM教育、異年齢・異学年集団での協働学習、遠隔授業……。いったい何をどこから始めたらいいのかと混乱している読者もいることでしょう。識者の提言、先進校の事例などを参考にしてSociety5.0の実現に向けて、今から動きだしていただければと思います。

技術革新が進む将来に向け、学校教育も変わることが求められる。子供の力を最大限に引き出し、個別に最適化された学びを実現させていくことが重要。
・管理職はICT環境の整備を早急に行っていかなければならない。

取材・文/林 孝美

『総合教育技術』2019年12月号より

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