菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #27 菊池省三解説付き授業レポート⑤ ~神戸市立春日台小学校2年1組 <前編>
全国各地での飛び込み授業を、菊池先生ご自身の解説付きでレポートするシリーズの第2弾。
神戸市立春日台小学校の2年生に対する飛び込み授業から、コミュニケーション力を育てるアプローチについて考えていきます。菊池省三の「子供を見る目」を学びたい方、必読の連載です。
目次
“聞ける教室” は、反応が早い
「このクラスは挨拶がめちゃくちゃいいって、噂に聞いていました。こんにちは!」
菊池先生が教室の扉の外から子供たちに話しかけると、すかさず子供たちから元気いっぱいの
「こんにちはっ!」が返ってきた。
「本気の拍手で迎えてもらっていい?」
「いいよ!」と大きな拍手が響いた。
教師の言葉かけに対して、素直に自分を出して答えるか、聞くことができる教室かどうかを見極めます。見る、うなずく、相づちを打つ。こうした反応は、聞いていない場合遅くなるので、当然、勢いがありません。
すぐに反応するのは、聞ける教室であるということです。
さらに言えば、聞ける教室=考えられる教室であるとも言えます。
「先生の名前書いていい?」
「いいよー」「はいっ」
「読めるかどうか、後で聞きます。ここ(チョークの先)を見ていないと、遅れるぞ」
<きくち>
黒板に書かれる一文字一文字に集中する子供たち。
「姿勢がいいし、手の挙げ方はいいし、笑顔がいいですねえ」
とほめると、みんなの姿勢がぴしっとなった。
空気を読み、呼応する教室に
黒板の左端5分の1のスペースに「えがお」と書きながら菊池先生が、
「じゃあ、君に言ってもらおうかな。まるで昭和の日本男児みたいだな」
と笑いながら最前列の坊主頭の男子を指名する。菊池先生の笑顔につられ、子供たちも笑った。
指名された男子が元気よく「きくち!」と答えた。すると、菊池先生が「みんな、ちょっと待っててね」と男子を廊下に連れ出し、耳元で何かささやいてから、教室に戻ってきた。
「時を戻そうと思います」
菊池先生が男子に向かい、
「ここから時を戻すからね。……『いいねえ、まるで昭和の日本男児みたいだなあ』」
菊池先生の言葉かけに、子供たちは大爆笑。
“時を戻された” 男子が「きくち先生!」と改めて答えると、みんなで大きな拍手をした。
“昭和の日本男児” という意味はよくわからなくても、私が笑いながら言ったことで空気を読み、子供たちもつられて一緒に笑った。こういう子供らしい笑いがある教室はとても温かいものです。
授業者への興味、みんなで学ぼうという空気。この2つがかけ合わさって、私と2年1組が呼応する関係になったと言えるでしょう。
「今、彼はある言葉を入れて、名前を言ってくれました。聞いていて、覚えていて、言える人?」
最後列の女子が「先生」と答えると大きな拍手が起こった。
菊池先生は、5分の1黒板に書いた<えがお><ていねい><聞き合う>を指しながら、
「いいクラスは聞き合う。聞き合えるから2年1組はすてきな教室なんだ、いいねえ。よし! 今日の授業、楽しむぞ!」
と話すと、「うん!」「はいっ!」とみんながニコニコしながら大きくうなずいた。
菊池先生がノート代わりの紙を配りながら、
「先生が配るときに『どうぞ』と言ったら、みんなはなんて言う?」
「ありがとう」
「もっと丁寧に言うと?」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、今から配るけれど、みんな言えるかな?」
そう言って菊池先生があおると、子供たちの「どうぞ」「ありがとうございます」の元気いっぱいの声が教室に響いた。
教室の空気の発信源は教師であり、受信源も教師です。特に、声や表情、態度など非言語の部分は、空気づくりに大きくかかわります。
子供たちの心が開放されると、受け答えの声も明るく元気になり、笑顔になります。
このような子供たちの非言語の表現を、教師は五感全てを使ってやりとりすることを意識する姿勢が必要です。
菊池省三先生による第27回解説
「話し合う」という言葉はよく耳にしますが、「聞き合う」はあまり聞かない言葉だと思います。
「聞く」ではなく、「聞き合う」という言葉かけをすることで、子供たちの捉え方は「相手」を意識するようになります。
「聞く」「伝える」という一方通行ではなく、先生と子供、子供同士双方が “合う” 授業こそが、コミュニケーション力豊かな教室づくりには必須です。
授業のゴールは、学び合う、話し合う、聞き合う、すなわち “つながり合う” に向かいます。
授業の中で教師が使う言葉は、主に指導の場面で使う「授業内容伝達言葉」と、教師の感動から来る「自己表現言葉」がありますが、“つなぎ合う” “学び合う” 役割を持つ言葉も意識することが大切です。
“合う” は、お互いを認める大切なキーワードです。教室は、いろいろな子がいて、でこぼこしています。“気になる子” も活かすには、教師主導の教育技術だけではなく、「ほめて認めて励ます」「個と集団をつなぐ」という2つの要素を意識することが必要不可欠です。
授業を進めながら、聞かせる、呼吸を合わせる、反応がある、拍手や返事を通して参加できている、を見極めていく──。全て“合う”がキーワードになっているのです。
取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。
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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
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第6回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <後編> ──高知県佐川町立黒岩小学校での授業より
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第25回 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート④ ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <中編>
第26回 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <後編>