菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #24 菊池省三自ら解説! コミュニケーション力が育つ授業レポート④ ~愛媛県松山市立味生第二小学校3年2組 <前編>
本連載では今回から、全国各地での飛び込み授業レポートを、菊池先生ご自身の解説付きでお届けします。味生第二小学校の3年生に対する飛び込み授業で示した、教師と子供の呼応関係とは──。菊池省三の「子供を見る目」を学べる新シリーズの開幕です。
目次
最初の問いかけで、子供の反応を探る
授業開始のチャイムが鳴ると、菊池先生が教室の入り口で、
「めちゃ大きい拍手で迎えてもらっていい?」
とみんなに尋ねた。
子供たちは口々に「うんっ!」「いいよ!」と答える。
菊池先生が教室に入るなり、子供たちは大きな拍手で迎えた。
最初に問いかけたとき、子供たちがどんな反応をするかを見取ることは重要です。
子供たちの返事に応じて、言葉かけやパフォーマンスを変えていくからです。
「今日の授業、頑張るぞ!」とやる気があふれている学級は、元気いっぱいの返事に表れます。担任の学級経営が垣間見える瞬間です。
「~してもらっていい?」と私が問いかけ、子供たちが「いいよ!」と答える。子供たちに答えてもらうことで、私と子供たちの呼吸が合います。こうして呼応できたときから、私と子供たちとの間に“授業を一緒につくる”という空気が生まれ始めるのです。
さらに、拍手には次のような効果があります。
①一体感をつくる
②教室の空気を温める
③授業に参加する意欲を高める
初めて出会う人の授業を受ける、しかも周りには担任や校長、見知らぬ大勢の大人が参観している―。子供たちはとても緊張しています。そういう“硬いカラダ”を、“拍手”というアクションで柔らかくしてあげることが大切です。
子供とのやりとりを楽しみながら、呼応関係をつくる
「はじめまして」
菊池先生が声をかけると、子供たちがニコニコしながら、「こんにちは!」と挨拶した。
すかさず菊池先生が黒板に「えがお」と書きながら、
「3年2組のみなさんは、これがいいですね。では、隣や近くの人と『私たち笑顔がいいよね』と言い合いましょう」
子供たちは笑顔で「私たち笑顔がいいよね」と言い合った。
「笑顔がいいね」とほめることで、子供たちに笑顔を意識させます。
このように隣の子と他愛のない声かけをさせるのは、ちょうどいい大きさの声をすっと出し、子供たちのカラダを柔らかくするのに要する時間を把握するためです。
また、隣の子が欠席している場合、ぼんやりしたまま何もしないか、前後斜めの子に声をかけるか、子供たちの動きから学級の日常が垣間見えます。
「先生の名前は……ちょっと難しいから黒板に書くけど、いい?」
「いいよー」
「はい!」
「僕の想像は……」と一人の男子がつぶやきかけたとき、菊池先生はあえてスルーし、
「じゃあ、『いいよ』という人は、“やる気の姿勢” を見せてください」
とみんなに声をかけた。子供たちの背筋がピンとなった。
それを見た菊池先生は、
「では書きますね。さっき、『そうぞう』って言ったよね」と言いながら、黒板に『菊池省三』と書いた。
こういう声かけをしたとき、張り切りすぎて、大きな独り言を言ったり、リアクションをしたりする子がいます。こうした行為をマイナスととらえ、たしなめる態度をとると、教室が負の空気に包まれてしまいます。こういう “雑音” も「反応がいい」「能動的に聞いている」とプラスにとらえましょう。
「さっき『そうぞう』って言ったよね」と話しながら、黒板に「省三」と書くことで、子供たちは「そうぞう」と「省三」に関連性があるのではないかと思います。
教師の発問と結び付けることで雑音をひっくり返し、「みんなで一緒に考え、学ぼう」という空気に変えるのです。
「では、読める人?」
菊池先生の問いかけに何人かが手を挙げた。
「きくちしょうぞうさんです」
最後列の子が答えると、菊池先生が黒板の名前の下に○○と書きながら、
「今、名前のあとに、○○をつけて発表してくれました。何と言ってくれたでしょうか?」と尋ねた。
手を挙げた子たちを見ながら、菊池先生が黒板に「聞き合う」と書き、
「聞き合っているから手が挙がるんだよね。先生はこういう教室をつくりたいんです」
と話した。
不意打ちの質問に、聞いていなかった子は少し不安そうだ。そこで菊池先生が、
「本当に聞いていたか? じゃあ、『あんた、本当に聞きよったか?』と言い合いましょう」
と話しかけたので、子供たちは大笑い。言い合うと、さっきより挙手が増えた。
「しょうぞうさん、と言いました」
指名された子が答えると、みんなから大きな拍手が起こった。
さらっと自分の名前を名乗るのではなく、みんなで考え合う活動に活用します。
答えたくてうずうずしている子や自信がない子がいたら、間をつくったりヒントを出したりしながら、空気をつかんでいきます。
このように、子供たちとのやりとりを楽しむ中で、呼応関係が成り立っていくのです。
菊池省三先生による第24回解説
出会いの呼応は、今後の授業展開のいわば「つかみ」となります。
授業における「つかみ」には、そもそも次の三つの意味合いがあります。
①導入部分でのつかみ……本時の学習内容につながる
②授業の最後でのつかみ……おさらいとして、復習につながる
③教師と子供、子供同士の空気づくりとしてのつかみ
私が一番重視しているのは、③の「空気づくりとしてのつかみ」です。
これは、飛び込み授業の場合や、新しいクラスを担任する新年度だけに必要なものではありません。たるみがちの5、6時間目や週明けの月曜日の朝など、日常の授業や学級経営でも意識したいものです。
子供たちにやる気を持たせ、温かい空気をつくっていかなければ、教室はプラスの方向に向かっていきません。
教師が一方的に指導するだけで「良し」とするのであれば、子供たちがだらんとしていても、教師が叱り飛ばせば、それなりに教室は“成立”するでしょう。
しかし、「子供と一緒に教室をつくっていこう」とするなら、③の視点は欠かせません。
※この授業レポートは次回(5月23日公開)に続きます。お楽しみに。
取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 ほかの回もチェック⇒
第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
第5回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <前編>
第6回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <後編> ──高知県佐川町立黒岩小学校での授業より
第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>
第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
第9回 「コミュニケーション力が育つ」授業レポート① ~高知県高知市立三里小学校6年1組 <前編>
第10回 「コミュニケーション力が育つ」授業レポート① ~高知県高知市立三里小学校6年1組 <後編>
第11回 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか<前編>
第12回 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか<後編>
第13回 コミュニケーション力が育つ授業レポート② ~岡山県浅口市立鴨方中学校2年2組<前編>
第14回 コミュニケーション力が育つ授業レポート② ~岡山県浅口市立鴨方中学校2年2組<後編>
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第18回 コミュニケーション力が育つ授業レポート③ ~愛知県豊橋市立松山小学校2年ろ組 <後編>
第19回 1年間のゴールイメージを実現する「達成期」の指導 <前編>
第20回 1年間のゴールイメージを実現する「達成期」の指導 <後編>
第21回 第5段階「解散期」と学びの「社会化」
第22回 教師と子供の“縦のつながり”で、安心できる教室づくりを
第23回 子供の呼吸に合わせるペーシングで、一人ひとりとつながる