菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #22 教師と子供の“縦のつながり”で、安心できる教室づくりを
菊池省三実践の最新深化形を示す学級担任向けweb連載も、二年目を迎えました。
今回のテーマは、「学級開きを改めて捉え直す」。子供たちとの信頼関係を築き、同時に子供同士の横の関係もつなぎ始めるための具体的な実践例を提案します。
目次
全員が同じスタートラインに立っているわけではない
新年度がスタートしました。担任になった先生方は、ちょうど「黄金の3日間」を過ごし終えた頃でしょう。
「黄金の3日間」とは、学級開きの最初の3日間を、「子供たちとの新しい1年を左右する最も大切な期間」として捉える言葉で、学級経営の一つの指針として定着しています。
教師の話を素直に聞く最初のうちに担任の願いや学級目標をしっかり伝え、学級の約束事やルールを徹底させることが大切だとされ、細かい指導を記した本も数多く出ています。
しかし、教師が一方的に引っ張っていく従来のやり方では、今の子供たちに対してはうまくいきません。それどころか、子供たちとの間に小さな亀裂が生じることになります。
新しい環境に変わり、子供たちは不安と期待でいっぱいです。特に、前年度に学級崩壊やいじめ、教師から叱られ続けた等、マイナスの経験を持つ子供たちにとっては、「今度の教室では、みんなと楽しく過ごせるかな」「担任の先生はすぐに怒ったり贔屓をしたりしないかな」と心配だらけでしょう。ゼロどころかマイナスの気持ちでスタートを迎えている子もいます。みんなが同じスタートラインに立っているわけではないのです。
そのような学級に対して、4月にはどうすればいいのでしょうか。
最も重要なのは、担任が子供たちに、「この教室は、クラス全員が安心して過ごせる場所」であると明確な行動で示すことです。
まずは、教師が一人ひとりの子供との “縦のつながり” に力を入れましょう。
一人ひとりの違いを認め、「君にはこんな良いところがあるよ」「一人ひとり違っていいんだよ」というメッセージを、担任が率先して発信していくことが大切です。
「この教室は楽しそう」と感じられる取り組みを
学級開きの1~2週間位に私が行った、教師と子供の“縦のつながり”を深める取組を紹介しましょう。
①先生に質問タイム
担任から一方的に自己紹介するのではなく、子供たちに自由に質問させます。
好きな食べ物や教科、テレビ番組など、質問の多くは拙い内容でも、子供たちにとってはリアルタイムな関心事です。
できるだけ多くの子(時間があれば全員)から質問を受けましょう。
「先生が一番好きな食べ物は、次の三つのうちどれでしょう」と3択問題にしたり、友達同士で相談し合ったりしてもいいでしょう。
また、友達の質問を聞いているうちにひらめいて挙手したり、前の質問に関連した質問をしてきた子供がいたら取り上げて、うんとほめましょう。
質問タイムは、基本的には教師と子供の縦のつながりがメインですが、周りで聞いている子や連続質問をする子を巻き込むことで、子供同士の “横のつながり” を紡ぐきっかけにもなります。
そして、教師と子供、双方向でのやりとりは、コミュニケーション力の基礎となります。
②昨日学んだことを可視化する
新年度最初の1~2週間は、担任が要所要所で「これから1年間、どんな教室にしていきたいか」という思いを子供たちに伝えていることと思います。
しかし、1度話せば子供たちにしっかり伝わるというものではありません。
新年度は覚えること、やることがたくさんあり、あっという間に1日が流れてしまうものです。
そこで、子供たちが帰ったあと、担任がその日に話したこと・みんなで学んだことを黒板に書いておきます。そして、翌日の朝の会で、子供たちに再度振り返らせましょう。
ある年に私が書いた2日目の黒板を紹介しましょう(下写真参照)。
初日に私が話したことを、放課後、黒板に箇条書きにしておいたものです。
全部で20項目を書き、最後に
<○○○○ ○○○○ ○○○○○ できるようにします。>
と書いておきました。
翌朝、子供たちと前日に学んだ20項目を確認した後、「これから自分がどんなことができるようになるか」(「できるようになりたい」ではなく、「なる」と言い切らせることがポイントです)、○○の部分を書かせました。
ほとんどの子供が、
●変わる
●頑張る
●成長する
という内容を書いていました。書き方の指導をする前だったので、多くの子が1~2行、長くて5~6行しか書けなかったのですが、まぎれもない、その子自身の“意思表明”です。
③教室前の関所
教室の入り口のところにミニホワイトボードをかけ、そこに「本日のお題」を示しておきます。
お題は、
「<上>の書き順は」
「<ヲ>は何画か」
など、学習要素のあるお題や、
「5人以上に『おはようございます』と挨拶しよう」
「先生に笑顔で『おはようございます』と挨拶しよう」
など、生活要素のあるお題で、もちろん友達と相談してもかまいません。
「今日はどんなお題かな?」と、子供たちはわくわくしながら教室に入るようになります。
このように、新年度のスタートは、「この教室で学ぶことは楽しそう」と子供たちに安心感を持たせることが何より大切です。
取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴
Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。
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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
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