子供に合わせた授業をするには【伸びる教師 伸びない教師 第23回】
- 連載
- 伸びる教師 伸びない教師

今回のテーマは、「子供に合わせた授業をするには」です。優れた教師は、目の前の子供や場面に最も適しているだろうという技術や方法を瞬時に判断し、使います。ひとつの技術だけに頼るのではなく、様々な技術を身に付けることによって授業力の向上につながるという話です。豊富な経験で培った視点で捉えた、伸びる教師と伸びない教師の違いを具体的な場面を通してお届けする人気連載です。
執筆
平塚昭仁(ひらつか・あきひと)
栃木県上三川町立明治小学校校長。
2008年に体育科教科担任として宇都宮大学教育学部附属小学校に赴任。体育方法研究会会長。運動が苦手な子も体育が好きになる授業づくりに取り組む。2018年度から2年間、同校副校長を歴任。2020年度から現職。主著『新任教師のしごと 体育科授業の基礎基本』(小学館)。
伸びる教師は、子供によって技術や方法を使い分け、伸びない教師は、ひとつの方法や技術を万能だと思う。
目次
手応えを感じた研究授業だったが……
名人と呼ばれるような教師の授業を見ると授業は職人技であるという思いを強くします。
そうした授業には卓越した技術が存在します。
私も若い頃、早く技術を身に付けて授業がうまくなりたいと思っていました。
そんな時、校内で研究授業があり、国語の授業を行いました。
「子供たちを指示通りに動かすにはどうしたらよいか」
「テンポよく指名するにはどうしたらよいか」
「机間指導を効率よくするためにはどうしたらよいか」
などの技術を意識しながら研究授業を行い、自分としては手応えを感じていました。
しかし、授業検討会では先輩の先生から酷評を受けました。
「授業に深まりがない」
「進め方が早すぎて、ついていけない子供がいた」
「慌ただしい授業だった」
その時、私は、「子供たちはあんなに活発に発言したではないか」と憤りを感じていたのですが、今考えるとそれは自分自身の驕りだったと反省しています。
なぜなら、当時の私は、自分が身に付けた技術を子供に押し付けるだけで目の前の子供に合わせた授業を展開することができていなかったからです。また、ひとつの技術がどんな場面でも通用すると思い違いをしていました。
ひとつの技術が万能ではない
その後、いろいろな本を読んだり研究会に出かけ、名人と呼ばれるような教師の授業を見たりする中で、多くの技術があることを知りました。また、自分が技術だと思っていたものはほんの一部であることに気が付きました。
例えば、机間指導ひとつとっても次のような技術が挙げられます。
- あらかじめ机間指導のルートを決め、効率よく2周以上する。
- 列と列の間を蛇のように歩き抜けがないようにし、全員へひと言ずつ声をかけていく。
- 1周目は作業が滞っている子供にヒントや指示を短く伝え、「また回ってくるからそれまでに考えておいて」と声をかける。2周目は作業が滞っている子供の個別支援を中心に行う。
- ひとりに時間をかけすぎないよう個別指導は長くても10秒程度と自分で目安を作る。
- 机間巡視をする前に30秒ほど全体を見渡し、その時点で活動に取りかかれていない子供の所に行き指導する。
- 机間指導をしながら評価し、座席表にその評価を記入する(◎○△等)。
- 子供の意見をABCや123と類型化し座席表に書くことで、意見の傾向を把握したり意図的指名に活用したりする。
- 意見の根拠や作品の意図を聞くことで、思考の流れを明らかにしたり意図的指名に活用したりする。
- 子供が集中している時には、あえて声をかけたり指示を出したりして活動を中断しない。
- 「ヒントが欲しい人は後ろに来てください」と活動が滞っている子供を集めヒントを与える。
- よい意見や作品を全体に紹介することで活動が滞っている子供へヒントを与える。
- 活動が終わった子供への指示をしたり、活動に集中できない子供へ声をかけたり、常に全体に気を配る。
- 発表することに自信がない子供には、「いい意見だから発表の時にみんなに教えてあげて」と声をかけ、発表しやすくする。など
ここに挙げた机間指導の中には、「全員に話しかけながら回る」「集中している時は話しかけない」と全く正反対の技術があります。
どちらが正解というわけではありません。
子供が変われば、教師が変われば、場面が変われば使う技術が変わってきます。
ひとつの技術が万能なわけではないのです。

子供に適した方法を瞬時に判断して使う
例えば体育のマット運動で後転ができない子供がいたとします。
まずはできない原因が何かを判断します。
- 回転速度が遅い。
- 首が立っている。
- 背中が伸びる。
- 手を使っていない。
その中で、回転が遅い子供に対しては、
- 跳び箱の踏み切り板等を利用して傾斜を付けた場で練習させる。
- お尻を付く位置が徐々に遠くになるよう目印を付ける。
- ゆりかごを連続でさせる。
など、いくつかの方法の中からその子に合いそうな方法を選択します。それでもだめな場合は次の方法を試します。他の原因と複合している場合もあるので他の方法も試していきます。
このように、優れた教師は、その子供や場面に最も適しているだろうという技術や方法を瞬時に判断し、使います。
ですから、どの授業でも子供を引っ張るのではなく子供に合わせた授業ができるのです。
こうした技術や方法を会得するには、長い時間と経験が必要です。また、そのことにこだわって追求した時間や熱量によって身に付く技術や方法の量が違ってきます。
しかし、多くの教師は、私のようにある程度の技術が身に付いたところで満足し、それ以上追求することをやめてしまいます。
伸びる教師は日々技術を高めようと妥協せず自分を磨き続けます。その結果、子供によって技術や方法を使い分けられるようになります。
この違いが、授業力の差となって表れてきます。
構成/浅原孝子 イラスト/いさやまようこ
※第16回以前は、『教育技術小五小六』に掲載されていました。
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