プール授業を楽しくする水慣れ呼吸法! ~続・水泳初歩指導~

連載
マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
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元山形県公立学校教頭

山田隆弘

最近は、コロナ禍の影響で学校プールでの水遊び・水泳指導にもかなり規制がかかり、短時間での学習を余儀なくされています。そこで、「泳力を伸ばす」というより、水の安全」、身を守る」ためということを重点化して取り組む学校が多いです。実は、水慣れの水泳初歩指導は、自らの命を守ることへ直結しているものもあります。とても重要な学習とも言えます。
水泳初歩指導で重要なものは、前回記事で紹介した ①水慣れ ②脱力 ですが、今回はそれに加えて、身を守るためにとても重要な ③呼吸 を紹介します。この3つのキーワードで初歩指導はばっちりです。前回に引き続き、楽しく水慣れする方法を「安全」という観点からも考えていきます。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

イラスト/したらみ

☆前回の記事もあわせてご覧ください。<プール大好きっ子にする水泳初歩指導!>

1 「息つぎ」(呼吸)ができないのは…

ポイント 洗面器が大きな武器!

水泳の安全指導で、大事なことはいかに水中で呼吸を確保するかということです。水が怖い、恐怖を感じるということは、呼吸ができるかどうかという不安が一番大きいです。
実は泳げない子どもたちにとっては、

『水の量が恐怖心と関連する』

と言われています。つまり、お風呂、プール、海と水の量が多ければどんどん恐怖心が増してくるわけです。そこでまず初歩の初歩として、洗面器に顔をつけ、ブクブクと息だし、つまり「バブリング」をさせてみるのがいいです。慣れてきたら、洗面器を浴槽に浮かべるのも効果的です。浴槽で同じように洗面器に向かって「バブリング」させてみます。これでだいぶ恐怖心はなくなってきます。洗面器での「バブリング」は手軽に簡単に行うことができます。学校ではなかなかできませんので、ご家庭の協力が必要ですね。学級通信、学年通信などでぜひこの重要性を保護者の皆さんにお伝えしてください。
プールに入ってからは、

①鼻を出した状態で「バブリング」
②鼻を入れて目だけだした状態で「バブリング」
③顔を全部入れた状態で「バブリング」

と進めていきます。児童が水への抵抗をなくすように、「だいじょうぶだよ」と声がけしたり、腕にふれてあげたり、いっしょに潜ったりしていきます。「両手で大きな池を作って、そこに顔を入れてみよう」という洗面器での顔洗い型で指導するのもいいですね。

2 ゆっくり吐く

ポイント 息を吸えれば鬼に金棒! 虎に翼!

水をこわがる児童にとって最大の恐怖は、水の中では呼吸ができないということです。恐怖心が取り除かれないままでは、体が硬直して動かなくなってしまいます。中には水中からプールサイドに上がってしまう児童もいます。水が顔にかかっても、水中に顔を沈めても冷静でいられるようにしたいです。冷静さを欠くことが水の事故に直結してしまいます。

そのためにぜひ時間をかけて指導したいのが、「ボビング」です。水中に沈みちぢこまり底を蹴って水中に上がっていく動作をさせます。口を「ウ」の形にゆるやかにすぼめながら、息をゆっくり鼻と口から吐かせます。上がってくる途中で息を吐いていかせるのです。そして、水面に顔を出し、口を大きく「ア」の形にさせます。そうすることで、自然と息を吸うことができます。
この、水中から水上に出ることで自然と息ができるようになる感覚を、しっかり覚えさせます。

具体的なステップとしては、プールの底を利用し、底を蹴り水面に上がっていくイメージで…。


①その場で「ボビング」
②歩きながら前への動作を入れた「ボビング」
③平泳ぎの手のうごきなどを入れて「ボビング」
(上学年で平泳ぎにつながります)

といった段階で指導していきます。

息を吸うことを意識させるのではありません。
水中で息をはき、水面から顔を出すと、勝手に空気が入ってくるというイメージを持たせていきます。息を吸うということを強く意識すると、どうしても水を吸ってしまうことが多くなります。
そして、鉄則なのが、

口で息を吸って、鼻から息を出す

ということです。もちろん口から息は少し出ます。それは全然構いません。児童の中には、口から息を出さないようにするために、思い切って口を閉ざしている姿を見ることがありますが、これでは力が入ってしまい、「脱力」できません。中には、口の中に水が入ってくるのを恐れる子もいるでしょう。
そんなときは指導者が口を半開き状態にして潜ってみせて、「ほら全然水が入ってこないよ」と示してあげるといいでしょう。

3 空気を吸って肺にためる

ポイント ゲームを入れながらいろいろな動作を繰り返して

次の段階としては、より泳ぎに近づくため、空気を吸って止めて、空気をためるといった練習も入れていきます。空気をためることで、より潜っている時間を伸ばし、浮力を増すことにもつながっていきます。水の中を自由に潜り泳ぎ回ることができれば、児童たちも一気に世界が広がった感じがします。そのために、よくやられているのが次のようなものです。

①「水中石拾い」…こんなに簡単

低学年では学級の児童をすべて水の中に潜らせたいのですが、まだまだ抵抗がある児童がいます。そこで最初のステップにしたいのが、「水中石拾い」です。
転がらない多面体のボール、スティック、リングなどの専用グッズもありますが、学校の備品には限りがあり、十分児童に行き渡らないことがあります。
そこでお勧めしたいのが、100円ショップで売っているような洗濯ばさみです。
洗濯ばさみをプールに投げ込みます。専用グッズは、沈むのが早いのですが、洗濯ばさみはゆっくりとプールに沈んでいきます。これがいいのです。洗濯ばさみはカラフルですし、楽しく遊べます。

さあ、それではゲームスタートです。
潜るのが苦手な児童は、洗濯ばさみが徐々に沈み始めた、早めのタイミングでスタート。潜るのが得意な児童は、洗濯ばさみが下の方まで沈んだ段階で、遅めのスタートです。
とにかく取ることができればいいので、全ての児童が満足します。
しかし、がんばって沈んでいるものを取った児童にしてみれば、同じ扱いだと不満が出ます。
そういう時は他の教材を併用し、洗濯ばさみが1点、スティックやリングが2点、小さめの沈むボール3点と点数に差をつけるゲームに発展させると、児童はテンションを高くして取り組むようになります。

ほぼ全員がきちんと潜ることができるようになれば、今度はチーム対抗で、同じ時間でどれだけ多くのものを拾うことができたか、どれだけ多くの点数を取ることができたかなどを競わせる遊びへと発展させると、さらにおもしろいですね。

②定番の「水中じゃんけん」

以前は、ゴーグルを使わないで、水中で目が開けられるようにするために、「水中じゃんけん」は時間をたっぷりとっての大定番ゲームでした。
しかしながら、腰洗い槽の撤廃で、消毒をきちんとすることや眼病予防のためゴーグルを装着するようになってきました。以前ほど頻繁にはやらなくなってきましたが、「水中じゃんけん」は簡単にできるものなので、使わない手はありません。

沈んで一回じゃんけんをしたら、上がって息を吸うことは当然OKとします。高学年ともなると、あいこでもう一回と言うときでも中に入ったままできるようになってきます。無理は禁物ですが、長く潜っていられる練習にもなります。バディーを組ませて、どちらかが3回勝ったら終了などといったルールで進めていきます。

4 泳ぎ前夜…なんといってもストリームライン

ポイント 水の抵抗をできるだけ減らした姿勢をつくる

息をとめる、空気をためることができるようになれば、次はストリームライン(流線型をイメージした水中姿勢)づくりです。
この、顔を下げて手足を伸ばした姿勢づくりが、以後の泳ぎの成否を決めていきます。

 前回の記事で示した「伏し浮き」ができるようになったら、今度は足を閉じるように言います。『アンパンマンになってみよう』と言います。空を飛んでいるような姿勢をイメージさせます。脱力させた状態で、足の裏を押して、力を加えると児童はちょっと前へ進みます。押されるとき、どうしても力が入ってしまう児童がいるので、力を入れると前に進まないことを体感させます。だいたい進まない原因は、顔を上げてしまってそれが抵抗力になってしまうからです。

『どこを見て姿勢を作ればさっと進むでしょうか?』
と言った問いをもたせて試行させてみます。

ア 進む方向のずっと先の方を見る
イ 進む方向のちょっと先1メートルくらいを見る
ウ おへそを見る

といった3択でトライさせてみるのもいいでしょう。当然答えはイです。この視線を問うことでストリームラインを考えさせることができます。軽く壁を蹴って進む「けのび」に挑戦させたいです。

けのび指導のコツとして、手を重ね合わせて鋭角状態をつくり、より抵抗力をなくしていく方法に挑戦させます。その場合は、「ロケット」というワードで指導します。「アンパンマン」の方が身近に感じると思いますので、「水の底を見て! アンパンマンの手はロケット!」という動きを作る言葉がけもいいですね。きれいな泳ぎにつなげるストリームラインを作ってほしいです

そして、最終的にはプールの壁をより強く蹴って、きれいなフォームでけのびで進めるようにさせたいです。壁を蹴りながら、けのびの姿勢が作れるよう練習させましょう。腕を伸ばして間に顔をはさみ、腕から下に顔がくるようにさせます。一旦沈んでからでないと抵抗力があり、姿勢が作れないことを体感させていきます。壁は、プールの水深の真ん中あたりを蹴らせるのがいいでしょう。
一回の呼吸、一回のキックで、できるだけ長い距離を進ませたいです。推進力が失われたら今度はキックを入れるという応用編もいいですね。

上学年になれば、けのび姿勢の児童の両脇に児童を2人ずつ何組か立たせ、次々とけのびする児童を押して前へ進めていく、「材木流し」ゲームで水の中での推進を体感させる練習もできます。

また、上学年では「いるかとび」と合わせて練習させてみるのもよいです。手を上で揃えたけのびの姿勢から、プールの底を蹴って斜め上にジャンプし、けのびの姿勢のまま着水し、いったん沈んで、背中をそらせて浮かんできます。ストリームラインと推進のしやすさの関係をより体感できます。
ストリームラインの維持には、胸の真ん中<ウルトラマンのカラータイマーの位置>に重心を置くイメージを持つとよいです。
スイミングスクールのコーチの中には、「内臓を肋骨の中に入れて」という指導をする方もいます。イメージづくりとしてはいい言葉がけです。

*最新映画に登場する「シン・ウルトラマン」には、カラータイマーがありません。胸の赤いもようが一つに集まるところ、とも言い換えられます。

ぜひこれらの初期指導をとおして、水を好きにさせ、泳力を伸ばし、水の事故から身を守る方法を学ばせてほしいです。水泳は一度覚えれば忘れない、つまり自転車の乗り方を一度覚えれば一生涯乗ることができるのと同じです。生涯スポーツとして水を楽しむことができるようになればいいなあと思います。スイミング、シュノーケリング、ダイビング、サーフィンなど楽しいことがたくさん待っています。

<参考文献>
山本儀浩・益子照正編著「つまずきを徹底サポート!体育授業で使える魔法の『言葉かけ』」低学年編・中学年編・高学年編(明治図書出版・2013)


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山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、さまざまな分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、さまざまな資格にも挑戦しているところです。

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