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<キャッチボール連載>若手女性教員の奮闘日記 毎日が全力疾走!#5 啐啄同時の「啐」と「啄」~手を差し伸べるタイミングをどう見取るか

連載
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ年間指導」~3学級での実践レポート~
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教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

菊池省三先生から学び続ける全国各地の教師たちが集う教育実践研究サークル「菊池道場」を代表する若手お二方によるキャッチボール連載がスタート。子どもと向き合う上での葛藤、毎日の忙しさ、そして奮闘の日々の中に訪れる至福の瞬間……。若手教員の等身大でリアルな日常を綴ります。

今回の執筆者/田中麻莉子(千葉県公立小学校教諭)

Aさんの「成長ノート」から

前回の連載#4で高田さんの記事を読ませていただいてから、「啐啄同時」について改めて考えていました。子どもの「成長したい」という気持ちをどう見取り、どのタイミングでどのように手を差し伸べるのか──。
教師として子どもたちと関わる私たちにとって、常に振り返り続けなければならない大切なテーマの一つだと感じています。今回は、これまでの自分と子どもとの関わり方を「啐啄同時」の視点で、改めて考えていきたいと思います。

「啐」を待てなかった昨年度の経験

今年度6年生を担任されている高田さんの記事を読み、昨年度の自分の経験を思い出しました。
私も昨年度、初めて6年生の担任をさせていただきました。クラス替えはあったものの5年生からの持ち上がりということもあり、発表されたときには大きな期待とわくわくした気持ちでいっぱいでした。

年度当初の私は、子どもたちと良い関係を築きたい一心で、授業中も一人ひとりに励ましの言葉を積極的にかけていました。話合いの授業では、「どう思う?」「それ、言ってごらん。」「よし、次も立とう。」と、子どもたちの近くを通るたびに、自分なりに“励まし”だと考えた声をかけ続けていました。「授業を楽しいと思ってほしい」「私はみんなの味方だと伝えたい」という思いが強かったのだと思います。

子どもたちは戸惑いながらもなんとか応えようとしていましたが、ちょうど今頃(10月)の季節になる頃には、教室の空気が少しずつ沈んできてしまったことを覚えています。
ある子から「先生に褒められても嬉しいと思えない」と言われたことがありました。教室の空気が沈んだ要因は自分にあるのだと考えこんでいた時期だったこともあり、その一言は強い衝撃として胸に残りました。

振り返ると、私は「子どもたちに成長してほしい」という思いが空回りし、目の前の子どもの気持ちを十分に見ることができていなかったのだと思います。「啐啄同時」でいう“啐”を待てていなかったのです。当たり前ですが、「成長したい」という思いは子ども自身の内側から生まれるものです。それを教師が無理に引き出そうとすると、子どもとぶつかってしまうのだということを、身をもって学びました。私にとって本当に大きな学びでしたし、昨年度の子どもたちには心から感謝しています。

子どものエピソードを点ではなく、線として捉える

昨年度の学びから、今年度は子どもたちとの関わりにおいて「待つ」ことを大切にしようと決めてスタートしました。同時に、「待つ」を大切にしながらも、ただ「待つだけ」になっていないか、つまり「啄」のタイミングをのがしていないか、日々の振り返りの中で意識していました。

子どもが「成長したい」という思いをもてる土台づくりとして、4月の出会いの日に、「今までのよくなかったなあと思う自分とはお別れし、ここから改めて成長に向かっていこう」という話を、「リセット」という言葉とともに子どもたちに伝えました。

放課後に成長ノートを読んでいると、Aさんが「これからはぼくは前できなかったのでリセットをします」と書いていました。Aさんは素直なお子さんですが、物事に取りかかるまでに少し時間が必要だったり、周りの友だちの雰囲気に影響を受けやすかったりする面があることを、引き継ぎの際に聞いていました。この成長ノートを読んだとき、「頑張るぞ」という気持ちがまっすぐ伝わってきて、とても嬉しい気持ちになりました。

しかし、その後落ち着いて、「今日が初日だ」ということを忘れてはいけない、と考え直しました。年間の指導を見通したとき、成長ノートに書かれたこの想いがAさんの中で強い芯として残る学級にしていかなければならない、という強い思いが湧いてきたのです。
その瞬間を“点”として見るのではなく、その先へ続く“線”の出発点として捉える——今までには感じられなかった感覚でした。

写真:Aさんの成長ノート
Aさんの成長ノート

授業を「おもしろい」と感じたタイミング

「子どもたちから」出てきた行動を価値づけること、そして自分の中で具体的に語れないことはほめないことを意識しながら、4月・5月の2か月間、子どもたちを丁寧に「見る」ことを心がけました。
初めは授業の中で控えめな印象があったAさんも、自分の意見を言おうとする姿や、友だちの話に対して目を上げて反応しながら聞く様子が少しずつ見られるようになってきました。

6月の総合的な学習の時間には、「自分の地域を調べるには、インターネットがいいか、インタビューがいいか」という題でディベートゲームを行いました。
Aさんは立論の準備段階から、さまざまな友だちに自分から声をかけ、理由を集めていました。
そして実際のゲームでは、相手の理由に対して自ら立ち上がり、堂々と反論する姿があり、Aさんの中で何かが確かに変わってきていることを感じました。

その日のAさんの振り返りには、「もっとこのインターネットとインタビューのゲームをやりたいです。」と書かれていました。この一文から、変化の中心にあるのは“授業をおもしろいと思う感覚”なのだと分かりました。授業に対して「楽しそう」と感じ、最後まで意欲的に取り組んだAさんの姿は、明らかに成長へ気持ちが向いているサインだと私は受け取りました。

そこで私は、「いつも、ぐるぐると頭を動かしながら聞くAさんだからこそ、あそこで堂々と反論を言えたのだと思います。」と、これまでのAさんの頑張りが今回の成長につながっていることが伝わるようにコメントを書きました。

写真:文中のディベートゲームの際の板書
ディベートゲーム板書
写真:ディベートゲームの後のAさんの成長ノート)
Aさんの成長ノート

「集団の成長」に目を向けたタイミング

Aさんは、「朝、みんなが名札をつけているか確認する」当番を担当していました。
初めの頃、Aさんはみんなに「名札つけて!」と呼びかけていましたが、なかなか取りに来ないクラスメイトにしびれを切らしたのか、5月に入るころには、朝来た子に名札を配るようになっていました。

そうして7月に入ったある日、Aさんから「みんなの『自分から』を増やすために、名札配るのをやめた方がいいと思う。」と相談を受けました。私はその気づきを大切にしたいと思い、みんなに自分の考えを伝えてみることを提案しました。
するとAさんはその日のうちに授業以外の場面で初めてみんなの前に立ち、少し緊張しながらも堂々と「みんなで成長するために、名札配りはもうしません。」と伝え、翌日は声かけのみを行っていました。

そしてその日、全員の名札がなくなった名札ケースを持ってきて、「成長年表に書いていいですか?」と私に尋ねてきました。学級の成長の証である「成長年表」を自分から増やしていきたいというAさんの姿に、成長そのものを楽しんでいるのだと感じました。

一学期最後の成長ノートでは、4か月間の学びとしてこの名札についての取組を振り返っていました。そして最後には、「みんなのえがおがしれてよかったです。」と書かれていました。
自分の「楽しい」を優先し、周りの雰囲気に影響を受けやすい面があったAさんが、ここまで集団に目を向けるようになったことは、また一つ確かな成長への意欲の表れだと感じました。
私はその成長ノートに、Aさんが「集団に目を向けた」ということの素晴らしさを伝えるコメントを書きました(下写真)。

写真:一学期最後の日のAさんの成長ノートとそれに対するコメント
Aさんの成長ノート
写真:Aさんが書いた成長年表(中央の短冊)
Aさんが書いた成長年表(中央の短冊)

「自分の成長を感じた」タイミング

二学期に入り、今年度は少し遅めのスタートとなっていた、菊池省三先生のご実践の一つ「ほめ言葉のシャワー」の1周目を終えました。子どもたちは達成感に満ちており、最後の日直のほめ言葉のシャワーが終わった瞬間には、大きな拍手が教室に鳴り響きました。

Aさんは、最初こそほめ言葉がなかなかすんなり出てきませんでしたが、最後には具体的な場面を取り上げながら、日直にぴったりな価値語や色を表現し、Aさんらしい言葉で日直をほめる姿が見られるようになりました。そして、ほめ言葉のシャワー1周目を終えた感想の中に、「ぼくはせいちょうして」という言葉が書かれていました。
私はその言葉を読みながら、これまでのAさんの姿を思い返し、「そうだよな」と静かに頷きました。Aさんは、心の底から「成長したい」と思っているからこそ自分の成長を素直に喜ぶことができたのだと感じました。

しかし、それから2週間ほど経った頃、久しぶりにAさんを叱る場面がありました。友だちとの間でトラブルが起きたのです。話を聞くと、Aさんが自分の楽しさを優先してしまい、相手を傷つけてしまったことが原因でした。
私は俯いているAさんに、「それは、周りを大切にできるAさんらしくない。そんな行動をとることは、相手に対してはもちろん、毎日頑張っている自分に対しても失礼です。」と伝えました。
するAさんは、目に涙を浮かべながら私をじっと見て、静かに頷きました。

一学期に同じ言葉で叱っても、この言葉はきっと届かなかっただろうと思います。自分の成長やよさに気づいた今のAさんだからこそ、まっすぐ受け止めることができたのではないでしょうか。
子どもが「自分の成長を感じている」時にも、教師が手を差し伸べるチャンスがあるのだと改めて感じました。

写真:二学期に「ほめ言葉のシャワー」1周目を終えたAさんの成長ノートと、それに対するコメント
Aさんの成長ノート


※この連載は、原則として月に1回公開します。

次回の執筆者・高田ゆり彩先生へ

「啐啄同時」という非常に深いテーマをいただき、振り返りながら大変学びの多い時間となりました。
本文にも書いた通り、今年度は子どもたち一人ひとりを丁寧に「見る」ことを強く意識しています。だからこそ、今回の記事もAさんという個人の姿に寄った内容になりました。

しかし、私たちは教師として、個と同時に集団を見る目を養わなければならないとも感じています。高田さんの前回の記事には、「発達段階的に、心の成長が行動面や態度面といった現象面にはすぐに表れにくい」と6年生について書かれていました。
 高田学級が今どのような段階にあり、その姿を高田さんがどのように見取っているのか──その視点をぜひ伺いたいと思っています。

お返事を楽しみにしています。

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取材・文/関原美和子


菊池省三先生の写真

Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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