子どもが「学習者」になるための「準備時間」を用意していますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #78】

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
次期学習指導要領での制度化が目指されている「調整授業時数制度」は、学校が授業時数を柔軟に運用できる新たな仕組みとして注目されています。そのなかで生まれる「裁量的な時間」を、学力向上のためだけでなく、子どもたちの心をほぐし、学校生活へなめらかにつなぐ「心のチューニング」として活用できないでしょうか。今回の連載では、不登校や学校不適応の予防という視点から、子どもの感情面を支える時間を教育課程の中にどう位置付けるべきか、サキドリ研究校での先進的な実践例を交えながら考えます。
目次
「裁量的な時間」をどう使うか
昨年、令和7年9月19日に文部科学省から示された「教育課程柔軟化サキドリ研究校事業」は、全国の学校現場に新鮮な風を吹き込もうとしているのかもしれません。各教科の標準授業時数を各学校の判断で調整し、「既存の各教科等への上乗せ」「教科の新設」、そして「裁量的な時間」へと充当できるというこの制度は、今後の学校づくりの大きな転換点となる可能性を秘めています。
特に注目したいのが、「裁量的な時間」の活用です。例示として「子供の資質・能力育成に資する活動や、教師の組織的な研究・研修など」が挙げられていますが、これを単なる「学力向上のための補習」や「行事の準備時間」として消費してしまうのは、いささかもったいない気がしてなりません。
不登校や不適応を抱える子どもたちが増加の一途をたどる今、この時間を「子どもたちの適応感向上のための時間」、言い換えれば、かかりきっていないエンジンに熱を伝える「あたためる時間」としてデザインしてみてはいかがでしょうか。
ジャッジされない「あたため」の時間
あるサキドリ研究校の小学校では、まさにこの視点を取り入れた画期的な取組が行われていました。一時間目の授業が始まる前に、各クラスの担任が個性的にデザインする学級のため時間を設けたのです。
その風景は、クラスごとに異なります。体育が専門の先生のクラスでは、一時間目の体育の前に、あえて鬼ごっこ的な遊びを取り入れて歓声を響かせていました。低学年の教室を覗くと、一時間目の生活科の前に、自分たちで育てている野菜をモチーフにしたかわいらしいオリジナルダンスを、みんなで無邪気に踊っています。また別のクラスでは、学級活動の話合いの前に、迫ってきた旅行への期待や個人的なめあてを、まるでお茶の間のおしゃべりのようにリラックスして確かめ合っていました。
こちらの学校の時間設計の秀逸な点は、従来の「朝の会(連絡や健康観察の事務的な時間)」とも違い、かといって「教科指導の延長」でもないというところにあります。学級目標を確かめ合ったり、日々の生活を振り返ったり、ちょっとした困りごとの相談に乗ったりする「子どもたちと教師が、共に学級生活をつくる時間」として機能しているのです。
そこには、評価(ジャッジ)される緊張感はありません。ただ互いの存在を認め合い、心と体を少しずつ「あたため合って」から一日を始める。この柔らかい助走こそが、今の子どもたちには切実に必要とされているのではないでしょうか。
