菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #15 「標準期」における成長は、子供の主体性にかかっている <前編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

心理学者・タックマンの理論をベースにした「学級の成長4段階」モデルに基づき、年間の学級づくりについて考えてきた本連載。今回は、第2段階「混乱期」を乗り切った後の第3段階「標準期」において、学級を大きく成長させるためのポイントを示します。

「標準期」の成長に必要な2大ポイント

今回は、「学級の成長4段階」の第3段階「標準期」についてお話ししたいと思います。

「学級の成長4段階」とは、心理学者のタックマンが、チームビルディングの過程について提唱した「タックマンモデル」を、私なりに学級の成長段階に当てはめたものです(図参照)。

この連載では第2回に1段階目の「形成期」、第11回第12回で、2段階目の「混乱期」を取り上げていますので、あわせてお読みください。

子供たちの本音が表れ、これまでの表面的なかかわり合いが変化する「混乱期」は、目標に対する意識の相違や対立などが生まれやすく、ぶつかり合うことが多くなります。

学級の<ピンチ>に見えるこの現象を、子供たちの “本当の信頼関係” が築かれる<チャンス>と捉えましょう。

「混乱期」を乗り越えた学級は、「標準期」を迎え、子供たちが自ら考えて動くようになり、学級の成長曲線がようやく上向きになっていきます。

「混乱期」を乗り越え、「標準期」を迎えるための大きなポイントは、次の二つだと私は考えています。

①教室の掲示物
②子供の自治的な活動

どちらも根っこにあるのは、<子供主体>であるということです。一人一人が自分の成長を意識し、さらには学級全員で成長していこうと自ら活動するよう、教師は意識しなければなりません。

担任の学級経営が見える、教室の掲示物

全国の様々な教室を回っているなかで、特に気になるのが掲示物です。多くの場合、掲示物がきれいに整えられ過ぎているのです。

担任が用意したフォーマットに書かれた係活動や自己紹介のポスター
正しい姿勢、声の出し方、学級目標など、1年中変わらない掲示物

教室の掲示物を見ると、担任のおおよその学級経営の方針がつかめます。

フォーマットを決めて、整然と掲示物を貼り出している教室では、子供たちの動きが硬くて遅い傾向にあります。

理路整然と正解を導き出し、間違ったり寄り道をしたりしてはいけない、という子供たちの緊張感が出ているのでしょう。

一方、バラエティに富んだ形や内容があふれた掲示物を貼り出している教室では、子供たちが自由に発言をし、授業にもスピード感があります。

きちっとした掲示物の方が落ち着いた教室に見えるかもしれませんが、教師主導の指導観がそのまま形になっているように感じるのです。

その最たるものが、係活動のポスターです。担任が書いたフォーマットに書き込み、それをパウチしているものもあります。

さらに内容を見ると、黒板消し係やカーテン係、プリント係……これらは係活動ではなく、あくまでも当番活動に過ぎません。

ある教室では、国語の読み物教材の全文を大きな模造紙に書き出し、教室の後ろに貼り出していました。登場人物の心情や物語の重要な箇所が赤線や二重線で引かれ、一見 “学習した感” が感じられるのかもしれませんが、単なる掲示物になってしまっているものも少なくありません。

掲示物は、教室の学びの成果

「標準期」の教室の掲示物は、子供たちの主体性を伸ばすことを意識することが大切です。

例えば係活動ならば、「みんなでこの学級をよくするために、自分は何がしたいか・できるか」を一人一人が考え、活動するものです。内容はもちろん、メンバーも子供たち自身が考えていくのです。

内容も参加者も異なるのですから、当然、掲示物も異なるでしょう。メンバーで工夫を凝らし、個性が光るポスターを貼ることで、子供たちのモチベーションも上がるはずです。

また、子供たちの日常的な活動の姿を写真に収めて掲示するのもいいでしょう。
このとき大切なのが、<価値づけ>をすること。拡大コピーした写真を色画用紙に貼り、その下に「価値語」を添えるのです。

落ちている雑巾に気付いてさっと掛けている姿なら「一人が美しい」、分からないところを教え合っている姿なら「学び合い」など、担任が気付いたり願ったりしている行動や考え方を価値語にするのです。
単に写真を貼るだけではなく、そこに「価値語」を添えることで、子供たちは日常的に“成長”を意識するようになります。

行事や特別な活動だけでなく普段の姿を撮られ示されることは、子供たちにとっても嬉しいものです。撮影することで、担任も子供の成長をより意識するようになり、小さな価値にも目を向けるようになります。

さらには、後方の黒板も活用しましょう。
四字熟語を学んだ後なら、一人一人が自分の好きな四字熟語を書いてもいいでしょう。

かつて受け持っていた学級では、私が「冬を連想する言葉」をお題にし、子供たちが思いつくまま、後方の黒板に書き込むようにしました。「みかん」や「雪」、「こたつ」等の言葉が並ぶ中に、「サッカー」と書いた子がいました。天皇杯の決勝戦が12月に行われることから連想したという、サッカー好きなその子ならではの言葉に、私も感心させられました。

掲示物は、教室の学びの成果です。

子供たちと一緒に、成長を実感できる教室づくりをしていくことが大切です。

菊池先生が価値語を添えて写真を掲示したところ、子供たちが自ら価値語を付けて掲示するようになった(北九州市立小倉中央小で)
「ほめ言葉のシャワー」のポイントや「正しい叱られ方」等、学んだことをポスターにして貼り出した(北九州市立小倉中央小で)

※このテーマは、次回第16回に続きます。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
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第6回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <後編> ──高知県佐川町立黒岩小学校での授業より
第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>
第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
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第10回 「コミュニケーション力が育つ」授業レポート① ~高知県高知市立三里小学校6年1組 <後編>
第11回 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか<前編>
第12回 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか<後編>
第13回 コミュニケーション力が育つ授業レポート② ~岡山県浅口市立鴨方中学校2年2組<前編>
第14回 コミュニケーション力が育つ授業レポート② ~岡山県浅口市立鴨方中学校2年2組<後編>

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