菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」 #14 コミュニケーション力が育つ授業レポート② ~岡山県浅口市立鴨方中学校2年2組<後編>

連載
菊池省三のコミュニケーション力が育つ教室づくり

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三
菊池省三の「コミュニケーション力が育つ教室づくり」

前回に引き続き、中学2年生に対する道徳の飛び込み授業の後半部を、ポイント解説付きでレポートします。教材化された4コママンガで、子供たちの思考をどう深みへと導いていくのか━━。学びのポイントを満載してお届けします。

即興でディベート的な話し合いに

(承前)
同じ意見をもった者同士でチームになり、生徒たちは活発に意見を交換している。
菊池先生が途中で、
「そのままの場所でいいから、お互いの意見を主張し合います」
と声をかけると、「子供の味方」派チームと「おじさんの味方」派チームが向き合う形になった。
即興でお互いの意見を論破する、ディベート的な話し合いが始まった。

チームでの話し合いが活発になったときは、すぐに自分の座席に戻すのではなく、あえてそのままの場所でディベート的な話し合いに移行するのも一手。
即興で作られたグループから、互いに力を合わせるチームになっていく。

まずは、「子供の味方」派の主張からスタート。

お金も返したし、殴るのはよくない
悪いことをしたけど、殴るのはよくない
お金で返そうとしている
子供なりに考えて出た答えが、お金を返すことだった
わざとじゃないかもしれないから、おじさんも子供に耳を貸すべき
謝っているし、それでも足りないのでお金を渡しているのだから、殴るのはおかしい

一通り意見が出たところで、菊池先生は、
「『おじさんの味方』派は、今の『子供の味方』派の意見を聞いていろいろ質問や反論があると思います」と反論を促した。
「本当に謝っているのか?」と一人が反論すると、「お金だけかもしれんよ」と女子生徒がツッコミを入れ、みんな大笑い。
「詳しく描かれていないけれど、謝っているセリフのコマがあるのかもしれないし」と返すと、女子生徒がまた、「ないかもしれんよ」とさらにツッコミを入れ、教室が爆笑に包まれた。

“ディベートの授業” ではないので、一通り反論が出たあとで反駁、という形にこだわらなくてかまわない。
活発になってきた話し合いの中で、つい出てきた “緩いツッコミ” は悪ふざけではない。むしろ、みんなが笑顔になる緩和剤になる。

「謝ったかもしれないし、謝っていないかもしれない。不確定要素だから想像するしかないけど、僕は謝ったと思う」
「窓ガラスを割ったのに、子供が軽い気持ちで1000円を払おうとしているように感じるけれど…」
「軽い気持ちかどうかはわからないし、子供にとってはなけなしのお金かもしれない」
「絵を見ると、2コマ目の顔は反省している顔に見えない」
「私には『ごめんなさい』と泣いている顔に見える」

「おじさんの味方」派と「子供の味方」派の間に、熱い論戦が繰り広げられた。 続いて、「おじさんの味方」派の主張。

子供はお金で解決しようとしている
子供はニヤッとしてお金を渡している
お金より謝る言葉が大切
ガラスを割って、急にお金を渡すのはどうか

「おじさんの味方」派の主張に対し、「子供の味方派」から次々と反論が出た。
「ガラスを割られて、急にお金を渡すのはどうかという反論が出たが、日本には罰金制度があるので、お金を払うのはあながち間違いではないと思う」
「でも、そもそも割ることが悪い」
「それを言うなら、殴る方がもっと悪い」
「礼儀がないのが問題。親を呼んで、まず謝るべきでは?」
という意見が出ると、「おじさんの味方」派から大きな拍手が起こった。

一通り主張を終えたところで、生徒たちは自分の座席に戻った。
菊池先生が「今の話し合いを通して、意見が変わった人はいますか?」と尋ねると、一人が挙手した。
「僕は『子供の味方』派に変わります。子供が謝らずにお金を渡したとしても、殴るのはやっぱり間違いだと思うから」
生徒が理由を述べると、菊池先生が、
「潔く変わる。大きな拍手を送りましょう!」と声をかけ、みんなが拍手を送った。

他の人の考えを聞き、議論を重ねることで、自分の意見が変わることもある。
そういうときに「潔く変わる」姿勢は、社会で生きていく中でとても大切なこと。意見を変えた子供に対しては大いにほめ、その価値を根付かせたい。

3者に足りなかったものは?

拍手の後、菊池先生が、最後の4コマ目をみんなに見せた。
4コマ目は、子供のお母さんがおじさんに向かって「訴えます。弁護士を呼びます」と責めている絵だ。
「3人の中で、幸せな人・格好いい人はいるか、いないか、紙に書きましょう」
菊池先生が話すと、生徒たちはさっと鉛筆を動かした。

いる 5人 いない 28人

おじさんも子供も、悪いことをしたから
おじさんは窓を割られ、子供は殴られ、お母さんは自分の子を傷つけられたから
一方的に訴えると言っているから

生徒たちの発表に、菊池先生がみんなに問うた。
「私も、『いない』という意見です。では、この3人はどうすればよかったのでしょうか?」
生徒たちは考え込んだ。
菊池先生が言葉を続ける。
「子供はちゃんと謝ればよかった。おじさんは殴らないで言葉で言えばよかった。お母さんは両方の言い分を聞いて、判断するべきだった──。つまり、3人ともコミュニケーション力が足りなかったのではないでしょうか。コミュニケーション力がなければ、幸せにも格好よくも生きられないのかもしれません」
教室が静まりかえった。
「相手のことを知り、相手を好きになって成長し合う、その核となるのがコミュニケーション力です。
コミュニケーション力を育て合って、幸せに生きる中学生になってほしいと思います」と菊池先生が授業を締めくくると、生徒たちは大きくうなずいた。
授業後、生徒たちは、
「反対意見を聞き、自分の意見を言って納得してもらうのは楽しい。反論されたとき、『確かにそうだな』と思った。的確な表現で反論できたらもっと楽しいと思った」と感想を話してくれた。

主張しておしまいではなく、質問・反論・反駁することで話し合いの質が高まっていく。

取材・文/関原美和子 プロフィール写真/西村智晴


Profile
きくち・しょうぞう。1959年愛媛県生まれ。北九州市の小学校教諭として崩壊した学級を20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『一人も見捨てない!菊池学級 12か月の言葉かけ コミュニケーション力を育てる指導ステップ』(小学館)他著書多数。


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第1回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <前編>
第2回 すべての教科の基盤となる “空気づくり” <後編>
第3回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <前編>
第4回 教師のパフォーマンス力が、教室の空気をつくる <後編>
第5回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <前編>
第6回 授業動画で “教室の空気” を学ぶ <後編> ──高知県佐川町立黒岩小学校での授業より
第7回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <前編>
第8回 子供の “つぶやき” と “雑音” への対応 <後編>
第9回 「コミュニケーション力が育つ」授業レポート① ~高知県高知市立三里小学校6年1組 <前編>
第10回 「コミュニケーション力が育つ」授業レポート① ~高知県高知市立三里小学校6年1組 <後編>
第11回 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか<前編>
第12回 学級の「混乱期」をどう乗り越えるか<後編>
第13回 コミュニケーション力が育つ授業レポート② ~岡山県浅口市立鴨方中学校2年2組<前編>

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