#25 修学旅行が一生の思い出となるように【連続小説 ロベルト先生!】

連載
ある六年生学級の1年を描く連続小説「ロベルト先生 すべてはつながっています!」

文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官

浅見哲也

今回は鎌倉への修学旅行のお話です。子どもたちが楽しみにしている行事、マニュアル通りではない教師の対応が必要です。指導と許容のバランスを大切に。

第25話 修学旅行

子どもたちに睨まれるロベルト先生

10月中旬。秋も深まり、1泊2日の鎌倉への修学旅行が迫ってきた。

これは小学校生活で子どもたちが一番楽しみにしている行事と言っても過言ではない。子どもたちは、班ごとに自由行動のコースやバスの中のレクリェーションなど様々な計画を考えている。

しかし、子どもたちが本当に楽しみにしているのは観光ではなく、親元を離れ、子ども同士でお泊まりできることなのかもしれない。実は「枕投げ」に憧れている子も多いらしい。

さて、旅館の部屋割りを決めることになり、男女ともに大部屋二つに分かれることになった。男子は比較的すんなりと二つに分かれたが、女の子はなかなかそうもいかなかった。

子どもたちからの提案で、はじめは好きな子同士で二、三人のグループを作り、いくつかが合体して二つに分かれるというものだった。ところが、最初の小グループを作る段階で上手く分かれることができず、一つのグループが半数以上になってしまったり、小グループ同士が上手くくっつけないような有様だ。

この前まで、力を一つに合わせて長縄跳びをやっていたクラスとは思えない。男の子たちは半分呆れ顔で女の子たちの様子を見ている。

「そんなのどうでもいいじゃん。早くしろよ!」

と、亮太が言うと、

「うるさいなあ。男子には関係ないでしょ!」

と、奈々の冷たい声が返ってくる。

「別に、離れ離れになるわけでもあるまいし、同じ旅館に泊まるんだから、何でもいいじゃん」

今度は巧透が援護射撃に出た。すると美樹が、

「男子はあっちに行ってて!」

と、うまく分かれられない鬱憤を男子に当たり散らしている。

「だいたい好きな子同士なんて、私には、嫌いな子がいるって言ってるようなもんじゃん」

私が、男の子に混じって言ってしまった。すると、女の子たちが一斉に私を睨みつけた。

「お~怖い」

結局、男の子の何十倍も時間をかけて、女の子たちもようやく二つに分かれることができた。

天候にも恵まれ、子どもたちを乗せたバスは鎌倉へと出発した。バスの中では、レクリェーション係を中心に、子どもたちが用意したゲームやクイズ、歌で盛り上がった。

鶴ヶ岡八幡宮に到着して、みんなで記念写真を撮ると、今度は自由行動である。

男女混合のそれぞれのグループが、計画したコースへと出発した。子どもたちが目指すゴールは江ノ島水族館だ。途中にある頼朝の墓、銭洗い弁財天、鎌倉の大仏、長谷寺、鎌倉高校前の海岸散歩など、江ノ電に乗りながら巡る旅は、学校では味わえない楽しい思い出だ。

慌てて電車に乗り込み、進行方向とは反対に向かってしまったグループもあったが、江ノ島水族館には、すべてのグループが無事に到着することができた。途中でお土産も買ってよいことになっていたのだが、木刀を持っている男の子が多かった。男の子にとって木刀は、やはり魅力的らしい…。

旅館に到着すると、それぞれの部屋に分かれ、荷物の整理をしながら一休み。今度は、入浴の時間だ。カラスの行水のように子どもたちは次々と入浴していく。

「どうか、名前なしのパンツが落ちていませんように…」

これは、私を含めた先生方の願いである。名無しのパンツは、全員の前で「これ、誰のですか~?」なんて聞くこともできず、落とした本人だって、「私のです」なんて、恥ずかしくて取りに来ることもできない。だから、男子のお風呂係になった私は、下着をぽろっと落とせばすぐにその場で、

「○○くんのだよ。ちゃんと籠の中に入れておくんだよ」

と目を光らせた。すると、倉ちゃんが、

「先生、どこ見てるんだよ。やらしい~」

と言ってきた。思わず笑ってしまった。

「そんなことを言うなら、先生のも見せようか? 先生のはジャングルの中のロケット研究所だぞ!」

言ってしまった瞬間、自己嫌悪に落ちた。反省…。

続いて夕飯の時間になった。ある程度は旅館の方が用意してくれるのだが、御飯をよそったり、お茶を入れたりするのは子どもたちが行う。その様子を見ていると、いつも家の事をどれくらいやっているかがよくわかる。

お吸い物の入ったお椀のふたがくっついて、うまく開けられず、ふただけもって引っ張るから、いきなりこぼす子もいる。やれやれ。左手でお椀を持って、右手でふたを開けることもちゃんと教えておくべきだった。

「いただきます」の挨拶をするために、みんなで正座をする。しかし、正座をして御飯を食べるという生活に慣れていない子も非常に多い。だからこそ、こういう機会にやることは価値があることだと思う。すぐに姿勢は崩れたが、楽しい夕飯のひとときであった。

子どもたちを見ていると本当に楽しそうで、こちらまで幸せになる。

「おかわり!」

おかわりを競い合う男の子たち。次の日お腹が痛くならない程度なら多めに見よう。調子に乗って、4杯も5杯もおかわりをしたら、要注意だ。

「さあ、そろそろ、ごちそう様をしますよ。ところで、お茶碗の中を見てください。御飯つぶが残っていませんか。もし、残っていたら残さず食べましょう」

これは、靴揃えと同じだ。ちょっとしたことをきちんとできる子になってほしい。それが生活にも表れるからである。そう、「すべてはつながっている」のである。

食事の後片付けを済ませ、子どもたちはそれぞれの部屋にもどった。就寝の時刻までは自由な時間。ここからが子どもたちにとって、本当の楽しみだ。

そして、こんな時に教師のスタンスとバランスがためされる。例えばそこに、はしゃぎ過ぎている子どもの様子が見られたとするならば、旅館のガラスを割ってしまう子も出るかもしれない。廊下を走り回って、ゆったりとした休暇を楽しみに来た一般のお客さんに不愉快な思いをさせてしまうかもしれない。だから、他人に迷惑がかからないように、しっかりと指導しなければならない。

しかし、私のスタンスはそれだけではない。今日は修学旅行という特別な日。子どもたちには一生の思い出となるように楽しい一時を過ごしてもらいたい。だから、教師として子どもたちにきまりを守らせる中で、枕投げや異性の部屋に忍び込むなど、どこまでを許容範囲とするか、ここにバランスがある。決してマニュアルで示されているものではない。

午後9時の就寝時刻を迎えた。個人差もあるが、普段なら、9時に寝る方が少ないくらいかもしれない。仕方なく子どもたちは自分の部屋に戻り、歯を磨いて布団の中に入る。しかし、布団の中でこそこそと話をするのも実に楽しいものである。

9時半になると、私は子どもたちの部屋を回り、まだ電気を消していない部屋には消すように指示した。しかし、子どもたちはほとんど起きていた。

「明日も元気に過ごせるように、早く寝なさい」

「は~い」

次回へ続く


執筆/浅見哲也(文科省教科調査官)、画/小野理奈


浅見哲也先生

浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。

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