頑張りすぎの代償は大きい【現場教師を悩ますもの】

連載
諸富祥彦の「現場教師を悩ますもの」

「教師を支える会」代表

諸富祥彦

「教師を支える会」を主宰する“現場教師の作戦参謀”こと諸富祥彦先生による人気連載です。教育現場の実状を説くとともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。

今回のテーマは「バーンアウト(燃え尽き症候群)にならないために(基礎編)」。責任感の強い教師こそ陥りがちと、諸富先生は警鐘を鳴らします。

3割が過労死ラインをオーバー

教員の働き方改革が進んでいます。みなさんの中には、教務主任や生徒指導主任として頑張っておられる方もいることでしょう。私もスクールカウンセラーとしてそうした人たちを間近に見ていると、ひたすら学校を動き回っています。

努力家な人が多いと感じます。「自分はこの学校の中心なのだ」と、学校を背負っているかのように見えます。それも当然です。「主任」の先生は学校を運営する上で中心的な存在だからです。

ところが、あるとき、校長の期待は自分が考えているほどのものではなかったと気づくケースがあります。そうすると、急に仕事に力が入らなくなってしまうことが起きます。学校のエースであった先生の心が急に折れてしまうのです。それが、バーンアウト(燃え尽き症候群)です。

心理学的には、バーンアウトとは、心身が燃え尽きている状態をいいます。要するに、仕事の頑張りすぎですね。特に教員の場合には、労働時間が異常に長く、その仕事量は半端ありません。小学校教師の一週間の平均労働時間は57時間29分(平成28年度調査)で、全体の三割が過労死ラインを超えています。

これまでバーンアウトになりやすい人には、きまじめで、いろいろなことができ、自責の念が強い人という性格的な特徴があると言われてきました。確かにその反対の人、まじめでなく、自分を責めることが少ない人などはなりにくいということは言えるかもしれません。

バーンアウトの自覚症状には、とにかく疲れたという心身の疲れと、何もしたくないという無気力が挙げられます。バーンアウトのときは、脳が一種の興奮状態にあるから熟睡できません。熟睡できなければ、心身の疲れがとれないから非常につらくなります。

特効薬は充分な睡眠と休養

だから、バーンアウトから抜け出すには、睡眠をとるのが一番の方法になります。ぐっすり眠り、十分な休養をとることができれば、回復することができるでしょう。しかし、そう簡単に睡眠は得られない。たいていは睡眠障害を伴います。

バーンアウトが怖いのは、睡眠障害が続くことによって、うつ病に発展する場合があるからです。とりもなおさず、睡眠障害を何とかしなければいけないということになります。

睡眠障害には、なかなか寝つけない入眠障害、夜中に目を覚ます中途覚醒、早朝に目覚めてしまう早朝覚醒の3種類があります。最後の早朝覚醒のケースは老化に伴って生じることもあります。

もし3日間続けて熟睡感がない場合には、睡眠障害の恐れがあります。このような睡眠障害の兆候が表れたら、睡眠導入剤を服用することも考えましょう。

睡眠導入剤を使用することに抵抗を感じる人もあるかもしれません。しかし、睡眠障害を長引かせるのは得策ではありません。ためらわずに睡眠導入剤を使ってみましょう。

教員は地域で顔を知られているので、病院に行きにくいという場合には、隣県のクリニックに行くという方法もあります。月1回程度の通院ですみますから、隣県でも十分通えると思います。

最後に、うつ病の最新研究を紹介したいと思います。これまでうつ病には本人の性格要因が関与していると言われてきました。しかし、最近の研究では、環境要因、人間関係の要因が大きく影響を及ぼしていることがわかってきました(斎藤環著『「社会的うつ病」の治し方』新潮選書)

特に教師の場合、職員室の人間関係や管理職との関係が悪くなると、うつ病になる傾向が高まるということになります。

次回はバーンアウトの対策についてお話したいと思います。


諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。

諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/

取材・文/高瀬康志

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