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「ふきこぼれ教員」の転職が問いかけるもの――聞き取り調査から浮かび上がる「きっかけ」とは?

学校の中核を担うはずの有能な教員が、ある日突然転職を選ぶ――。教員不足が叫ばれる今、その離職理由の実態は、長時間労働や精神疾患よりも「転職」が上位を占めるという。こうした教員を「ふきこぼれ教員」と名付け、その転職要因を研究している大阪公立大学の伊井義人教授が、聴き取り調査から見えてきた実態をもとに、転職を決意させる要因を分析し、「生涯一教員」を超えた多様な教職キャリアの可能性を提起する。

文/大阪公立大学文学部教授・伊井義人

予想外の中途退職が示す現実――病気離職を「転職」が上回る

「えっ、あの先生が辞めるの?」

「学外でも校内でも活躍していて、これから学校の中心になる人だと思っていたのに。」

「残業は多かったようだけど、保護者対応もしっかりしていたのに。」

このような場面に出合ったことがある読者の先生方も、少なくないはずである。

我が国の学校が教員不足に直面していると言われて久しい。そして、その原因として、教員の労働環境の悪化に言及されることもしばしばある。

ところで、教員の離職の主たる理由は何か、ご存知だろうか? もちろん離職の第一の理由は定年退職ではあるが、それ以外では「転職」が最上位となる。

多くのマスメディアの報道や書籍によって、長時間労働や保護者対応の難しさに直面して、教員がしんどい立場にあることは周知の事実である。そのため、私自身も精神疾患などに起因した病気離職が、定年退職以外の教員の離職理由の第一位だとかつては考えていた。しかし、実際に文部科学省が三年に一度実施している「学校教員統計調査」では、転職による離職が病気離職を上回っていることを指し示している。それも、回を重ねるごとに、転職者数やその割合も増えているのである。

私は、共同研究者の坂本建一郎氏(時事通信社)らとともに、この「教員からの転職者」を対象とした調査を実施している。

研究の視点――「ふきこぼれ教員」とは何か

2022年に出された中央教育審議会の答申(『令和の⽇本型学校教育』を担う教師の養成・採⽤・研修等の在り⽅について〜「新たな教師の学びの姿」の実現と、多様な専⾨性を有する質の⾼い教職集団の形成〜)では、学校組織における多様な特性をもつ教員の必要性が述べられている。多様性の確保のためには、学校以外で働く社会人が教員に参入することにより、今後の教員不足解消の一助になることが望まれているのである。

私たちは、その発想とは逆のベクトルに関心を持ち研究を進めている。つまり、学校組織の中にはすでに多くの多様で有能な教員が存在しているという現状に着目しているのである。そして、それらの有能な教員たちは、学内外のネットワークを十分に活用して、眼前の子どもたちに最善を尽くしている。

しかし、何かをキッカケとして、これらの教員が学校での職務に飽きたらなくなり、学外に転職するケースが存在する。私たちは、そのような転職を選ばざるを得なかった教員を「ふきこぼれ教員」と名付け、その転職要因を調査している。

これまで10名ほどの転職後の元公立学校教員に聴き取り調査を実施してきた。その中には、公立学校から私立学校への転職、民間企業への転職、NPOへの転職、起業などの事例が含まれている。

教員の転職実態——なぜ学校外の世界に魅かれるのか?

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