学級崩壊寸前のクラスを引き継いでツライ【現場教師を悩ますもの】

連載
諸富祥彦の「現場教師を悩ますもの」

「教師を支える会」代表

諸富祥彦

「教師を支える会」を主宰する『現場教師の作戦参謀』こと諸富祥彦先生による連載です。教育現場の実状とともに、現場教師の悩みやつらさを解決するヒントを、実例に即しつつ語っていただきます。

【今回の悩み】荒れているクラスに、気持ちをどう保てばよいのか

荒れている学校に赴任し、昨年学級崩壊した5年生のクラスを現在受け持っています。半年以上経ちますが、特性ある子供数人に毎時間振り回されています。

めたり、一緒に活動したり、諭したり、精一杯やっています。まわりの先生方からは良くなっていると言われますが、納得いく状態ではありません。

もう辞めたい、休みたいと思いながら気持ちを振り絞っています。頑張りたいのですが、どうしていけばいいのかわかりません。理想が高すぎるのでしょうか。

(小学校教諭・ 5年生担任・40代、教職年数:23年目)

教師に多い「完全癖」をやめて自分の頑張りを認めよう

少し理想が高すぎるかもしれません。どんな仕事でも、うまくいかない時期はありますよ。教師には完全癖な人が多いです。パーフェクショナリストですね。つまり子供の頃からずっと優等生できたので、100点じゃないと気が済まない。

すごくうまくやれているか、そうじゃなければ「もう、いいや」となってしまう心持ちの人が多いです。そういう人にとって、70点のままずっと耐えしのぐのはとても辛いことでしょう。けれどもその状態で、今学年もあと数か月というところまできたのです。よく頑張りましたね。

この先生のクラスは、耐えしのぐというのがとても大事な課題です。この状態でクラスをなんとか維持できたのは大きな功績です。自分をほめてあげたらいいのです。そして、同学年の先生や管理職にも、しっかりほめてもらっていいでしょう。

私は格闘技が好きなのですが、相手から殴られまくっても、KOされずに判定まで持ち込んだら、すごいことです。それを逆転KOできなかったから不満だと言っているようなものです。そんな離れ業はめったにできることではないので、十分頑張っている自分を認めることです。

仕事はいつも、いつも完璧にできるものではありません。頑張って、いい状態の時は認める。そして、自分なりの成功の基準を少し下げることも大事です。そうしないと、この先生はいつまでたっても納得できないでしょう。

穏やかな学級づくりで人を傷つけないルールを重視

私は今、発達障害の専門家と愛着障害の専門家と一緒に本を作っています。この先生方に、発達障害と愛着障害の両方を合わせると、小学校1クラスでどのくらいの割合になるのかを聞くと、その見解は普通学級の半分だというのです。

だから、担任の先生が完璧にやろうというのは、本当に離れ業を求められるということです。30人いたら15人は特別な配慮が必要な子供なのですから、相当大変なことで、うまくいかないのは当たり前です。

では、あらためて学級崩壊しそうな、荒れているクラスに対する注意点をいくつか挙げておきましょう。今後もこういうクラスに当たることは多いかもしれません。その時に心がけるべきは、穏やかな学級づくりです。

声を荒らげて怒鳴ったり叫んだり、変に勢いのある学級づくりをしたりしない。まずは会話を「です・ます調」に、名前は「くん・さん付け」にする。穏やかな口調や言葉遣いが大切です。

とりわけ、次の二つのルールを守ることに専念させましょう。

①人を傷つけることはしない、言わない。
②人が話しているときには最後まで聞く。

「上からかぶせてしゃべるのは止めましょう。だれかが話している時は最後まで聞いて、聞き終わってから挙手しましょう」。基本的な学級づくりの「2つのルール」を徹底して、重視してください。

自分を認め、ほめてもらおう。先生同士でもほめ合おう

それでも、特別な配慮やケアが必要な子供がたくさんいるわけですから、それなりに振り回されるのは仕方がないことです。そんな中で毎日頑張っている自分をほめること、自分にご褒美をあげたらいいのです。

仲のいい友達やパートナーに甘えたらいいのです。「ほめて、ほめて」と、思う存分ほめてもらいましょう。友達と集まって話す時間もないかもしれませんが、「すごーい」と言ってもらうだけで気分は上がりますよね。

まわりの先生方はなかなかほめてくれないのかもしれません。できる管理職だったら「あの状況からよく頑張ったね」と言うはずなのですが、完璧癖の教師には、できて当然という顔をする人が多いのです。

先生同士でも、もっとほめ合えるといいですね。この先生には「あなたはよくやっています。頑張っていますよ」という言葉をお届けしたいです。


諸富祥彦

諸富祥彦●もろとみよしひこ 1963年、福岡県生まれ。筑波大学人間学類、同大学院博士課程修了。千葉大学教育学部講師、助教授を経て、現在、明治大学文学部教授。教育学博士。臨床心理士、公認心理師、上級教育カウンセラーなどの資格を持つ。「教師を支える会」代表を務め、長らく教師の悩みを聞いてきた。主な著書に『いい教師の条件』(SB新書)、『教師の悩み』(ワニブックスPLUS新書)、『教師の資質』(朝日新書)、『図とイラストですぐわかる教師が使えるカウンセリングテクニック80』『教師の悩みとメンタルヘルス』教室に正義を!』(いずれも図書文化社)などがある。

諸富先生のワークショップや研修会情報については下記ホームページを参照してください。
https://morotomi.net/

取材・文/長尾康子

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