「環境教育」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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温暖化、異常気象、自然災害、海洋プラスチックごみ……地球環境はどんどん悪くなっています。このまま放置すれば未来はどうなるのでしょうか。地球環境を維持するためには、私たち一人ひとりが身の周りの環境に関心をもち、環境保全に努める必要があります。

執筆/玉川大学教授・寺本潔

みんなの教育用語

「外界に働きかける」という姿勢

環境(Environment)という言葉の意味を、文字どおり「わたしたちを取り巻く外界」ととらえると漠然としてわかりにくいのではないでしょうか。「外界に働きかけることで意識される世界」と言い換えると、少しとらえやすくなります。

例えば、近所を流れる川にレジ袋や壊れた自転車、おもちゃなどが廃棄されて、見るからに水や河原が汚れているのを目にするとします。そのとき、「クリーン大作戦」などに自分も加わり、川の清掃活動に参加したとたん、それまで半ば無関心だった川の汚れが気になり始め、その川が「環境」として自分自身の意識に立ちあがるようになるものです。「外界に働きかける」といったフレーズはそのことを意味しています。

それぞれの教科で環境教育

小学校理科の学習指導要領では、子どもたちが自然の事物・事象に親しみながら興味をもち、そこから問題を見出し、予想や仮説をもとに観察・実験を行い、結果を整理する学びが推奨されています。川の水を採取して水質測定器でCOD(化学的酸素要求量)を測ったり、生き物たちの種類に応じた河川環境のあり方を考えたりする学びが環境教育には求められます。

一方、社会科では、生産や流通、消費、廃棄のサイクルの視点で社会生活をとらえ直し、資源の有限性や廃棄物処理の問題、3R(リユース、リデュース、リサイクル)の取り組みなどに目を向けることを重視しています。

家庭科では、自分の生活が身近な環境から影響を受けたり、逆に影響を与えたりしていることを理解できるように促しています。プラスチック製品をできるだけ使わない、川に捨てない、廃棄される衣服を再利用する、フードロスを防ぐなど、環境に配慮した消費活動が求められていることを学習します。

環境教育でどのような力を育てるか

2014年に国立教育政策研究所から出された『環境教育指導資料(幼稚園・小学校編)』 には、

  1. 環境に対する豊かな感受性の育成
  2. 環境に関する見方や考え方の育成
  3. 環境に働きかける実践力の育成

の3つが挙げられ、理科や社会科、家庭科をはじめ、総合的な学習の時間、道徳などを通して環境意識を高めることが期待されています。環境教育は、教科横断的に扱う教育であることを改めて認識したいものです。

しかし今日、環境問題は自然・社会・人間の3極の「つながり」や、「因果関係」「地球的課題」へ意識を拡げざるを得ないほど複雑になっています。ESD(持続可能な開発のための教育)やSDGs(持続可能な開発目標)といった用語に見られるように、「持続可能性」がキーワードとなっています。

環境教育も「川の環境」や「都市環境」「生物多様性」「まちづくり」というように、教科横断的なアングルでとらえるだけでは十分ではありません。2030年の地球社会のあるべき姿をイメージし、バックキャスティング(達成目標から遡って何をするべきか)という考え方によって、私たちの行動変容まで求められています。環境教育は、社会問題にかかわって実効性を発揮できる教育として意識されるようになっているのです。

環境教育とESD

教育現場において、環境教育やESDについての関心・知識が不足していることも現実です。環境省が「令和2年度環境教育等促進法基本方針の実施状況調査」(教職員1千人対象)で指摘したように学習指導要領の中でESDが位置づけられていることを「知らなかった」と答えた教員が3割近くもいました。

一方、10年を経た東日本大震災以後の環境教育においては、災害からの回復力(レジリエンス)や原子力発電所からの災害復興、心のケアを含む道徳的価値が重視されるようになっています。ESDやSDGsの諸課題も含んだ広い意味での「環境を扱った教育」に広がりを見せています。グローカルな(地球規模で考え、地域の視点で活動する)時代の環境教育といってもよいかもしれません。

しかし忘れてはならないことは、環境教育は体験に基づく思考を欠かしてはならないということです。冒頭に述べた、汚れた川を清掃したという体験こそが、環境教育には大切な要素となります。

環境教育に関する施策や課題のとらえ方は、自治体の中でも環境保全課と生涯学習課、学校教育課で異なるという実態もあります。SDGs未来都市に選ばれた自治体では、さらに人権やジェンダー、飢餓や貧困、インフラ整備、平和といった現代社会が抱えている諸課題への関心を呼び起こすことが期待されています。ここでも、環境に働きかけるといった姿勢が、SDGsの達成にプラスに作用するはずです。

環境教育は、体験に基づいて多角的な視点で問題をつかみ「よりよい生活」や「よりよい生き方」を追求し、自らの倫理観や道徳意識をも変えていく力をもっています。さらに、環境に問題意識をもつ姿勢は、自身の積極性の涵養にもつながり、「主体的・対話的で深い学び」を実現できるのです。

▼参考文献
国立教育政策研究所『環境教育指導資料(幼稚園・小学校)』2014年
文部科学省(ウェブサイト)「環境教育
文部科学省(ウェブサイト)「新学習指導要領における『環境教育』に関わる主な内容
文部科学省(ウェブサイト)「持続可能な開発のための教育(ESD)

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