「キャリア教育」とは?【知っておきたい教育用語】

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【みんなの教育用語】教育分野の用語をわかりやすく解説!【毎週月曜更新】
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「キャリア教育」というと、仕事について夢をもたせることや職場体験のイメージでとらえられがちです。しかし、いま学校現場で取り組んでいるキャリア教育では「いかに生きるか」を考えさせ、それを実現するために必要な力を育てることを目指しています。

執筆/筑波大学助教・京免徹雄

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「キャリア教育」の歴史

「キャリア」の語源は、「馬車などが通った跡のわだち」を意味するラテン語「carraria」ですが、転じて人生の軌跡を表すようになりました。現在では主に、人生や仕事などの経歴を表す言葉として使われています。

「キャリア教育」の意味もいろいろ変遷してきましたが、現在、学校教育において実践されているキャリア教育の目指すところは、児童生徒が学ぶことと自分の将来とのつながりを考えながら自分らしく生きることができるようにすることです。

日本の教育行政の文書に初めて「キャリア教育」の文言が登場したのは、1999年の中央教育審議会の答申においてです。その背景には、受験戦争によって中・高等学校の進路指導が学業成績に基づく「出口指導」に矮小化されたことや、職業につかない若者が増加して社会問題になっていたことがありました。そのような状況があって、小学校段階から発達段階に応じて、主体的に進路を選択する能力・態度を育てることが提案されたのです。

2011年に中央教育審議会は、「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」を答申し、キャリア教育を「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」と定義しました。キャリア発達とは、社会の中で自分の役割を果たしながら、自分らしい生き方を実現していく過程のことです。

この定義では、進路選択に向けた職業観・勤労観だけでなく、選択した役割を適切に遂行し、職業生活・市民生活を営むための基礎的・汎用的能力が重視されています。すなわち、「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」です。

各教科等の特質を生かして「社会を生き抜く力」を育てる

そして、中学校の新しい学習指導要領(2017年告示)の総則に、「特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること」と明記されます。学校現場では、職場体験のような特定の活動だけでなく、学校教育全体を通したキャリア教育の実施が求められることになったわけです。

キャリア教育の最初のステップは、基礎的・汎用的能力を参考にしながら、地域の特色や児童生徒の実態をふまえて、学校として「育成したい力」を設定することです。

学校としての目標ができたら、今度はキャリア発達段階に応じた学年ごとの「育成したい力」を、より具体的に定めます。これらの学校・学年の目標は、教職員間はもちろん「学びの主人公」である児童生徒とも共有することが大切です。言葉をわかりやすく置き換えたり、廊下や黒板に掲示したりするのも1つの工夫です。

次のステップは、「育成したい力」の視点から、学校の教育活動全体を見直します。各教科等の学習内容や指導方法には必ずどこかにキャリアとの接点があるので、それを意識しながら授業を行うことです。各単元の目標と「育成したい力」をクロスさせ、それらを両立させるための手立てを考案・改善してみるのも有効です。

現状では、小学校の5割、中学校の6割が「育成したい力」を定めているものの、教育課程全体をキャリア教育の観点から整理している学校は小・中ともに2割程度にとどまっています(国立教育研究所報告書、2020年)。無理に新たな取り組みを始めようとするのではなく、既存の活動をブラッシュアップしていくことが、さらなる充実に向けたカギになります。

「キャリア・パスポート」の実施

各教科等で行われるキャリア教育の成果を集約するのが、特別活動(学級活動)における「1人1人のキャリア形成と自己実現」の役割です。

この学級活動で2020年度から新たに始まったのが「キャリア・パスポート」の活用です。それは、児童生徒が「自らの学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオ」( 文部科学省「『キャリア・パスポート』例示資料等について」2019年 )のことで、小学校から高等学校まで持ち上がることが想定されています。

子どもたちの意識の中で、「学ぶこと」「働くこと」「生きること」が乖離しているのは、長年にわたる日本の課題です。国際学習到達度調査(PISA2018)において、「自分の人生に満足のいく意味をみつけた」という問いに「強くそう思う」「思う」と回答した生徒は41%であり、OECD平均の62%を大きく下回り、79カ国・地域中最下位です。「キャリア・パスポート」には、児童生徒が自らの学習成果を振り返り、そこからキャリア形成の方向性を展望することで、学ぶ意義を実感することが期待されています。

ただし、自分1人で「キャリア・パスポート」に記入するだけでは、なかなか過去・現在・未来をつなぐ深い省察にはなりません。深い省察には、他者からの客観的なフィードバックが必要です。書く前や書いた後で話合いを行うことは、集団思考をふまえた多面的・多角的な自己理解とそれに基づく意思決定につながります。また、教師による声かけやコメントなども、児童生徒が自己変容に気づくきっかけになるでしょう。

▼参考文献
京免徹雄「特別活動とキャリア教育」(吉田武男・京免徹雄編著『特別活動』ミネルヴァ書房、2020年)
国立教育政策研究所『キャリア教育に関する総合的研究 第一次報告書』2020年
吉田武男監修・藤田晃之編著『キャリア教育』ミネルヴァ書房、 2018年
文部科学省(ウェブサイト)「『キャリア・パスポート』例示資料等について」2019年

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