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通級指導教室の凸凹な日々。♯30 漢字を「書けること」と「分かっていること」を分けて考えよう

連載
通級指導教室の凸凹な日々。 presented by 高田保則先生
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元・北海道公立小学校教諭

高田保則
連載「通級指導教室の凸凹な日々。」バナー

元・通級指導教室担当、高田保則先生が、困っている子どもたちに寄り添う視点から、現在の教育の様々な課題について発信する連載。一度学校現場の外に出たからこそ見えてくる、現場にとって有益なヒントがいっぱいです。今回のテーマは漢字指導です。

執筆/「学び方相談室」代表(元・北海道公立小学校通級指導教室担当)・高田保則

はじめに

北海道オホーツク地方の小学校で、通級指導教室を担当していた高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合う中で感じたことや考えたことを綴っています。ここに記す事例は、これまでに出会った子どもたちのエピソードを組み合わせて作った架空のお話ですが、実際に過ごした時間の空気感を込めています。

先日、Xに投稿する文章を考えていたときのことです。
書き終えてみると、字数制限を少し超えていました。
Xでは、日本語で書いていると、意外と早く字数制限に引っ掛かります。

「どうしてなんだろう?」

気になって調べてみると、日本語や中国語などで使われる漢字は、一文字の中に多くの情報をもっていることが関係しているようです。

なるほど。たしかに「教育」「環境」「学習」といった言葉を英語で表そうとすれば、もっと多くのアルファベットが必要です。

漢字は、一文字の中にたくさんの情報を詰め込むことができるのです。

「漢字って、すごいな」

そう思うと同時に、逆のことを考えました。

「でも、これを覚える子どもは大変だよなぁ……。」

漢字は、一文字の中に、形があり、読みがあり、意味があります。しかも学校では、それを正確に覚え、何も見ずに書くことを求められます。

「次のひらがなを漢字で書きましょう」

私自身、教師として何度となく行ってきた、日常の漢字テストです。
でも、改めて考えてみると、一つの疑問が浮かびました。漢字が書けない子は、本当に「漢字ができない子」なのでしょうか。

今回は、漢字を書くことについて、思うことを綴ってみます。

1.「先生、これなら分かるよ」

学校現場で出会ってきた子どもたちの姿をもとに、架空の事例を一つ紹介します。
小学5年生の翔太さんです。翔太さんは、漢字テストが苦手です。
宿題の漢字練習にも時間がかかります。ノートに何度も書いて覚えたはずなのに、翌日のテストになると思い出せません。
「昨日、あんなに練習したのに……」
本人もがっかりします。

翔太さんの答案を見ると、まったく違う漢字を書いているわけではありません。
「議」の右側が違っていたり、「識」の一部が抜けていたりします。
「ここまで思い出しているんだけどなあ」
そんな答案がいくつも並びます。
ある日の通級指導で、私は少し違う視点で尋ねてみました。

「『しぜんを守るために、かんきょうについて考える』の『かんきょう』って、どれだと思う?」

紙に、

「環境」
「還境」
「環鏡」

と書いて見せました。

翔太さんは、ほとんど迷わず「環境」を指しました。

「これ」
「どうして?」
「だって、環境ってこれでしょ」
そこで「環境」の意味を訊いてみました。
「森とか川とか、動物が住んでいるところとか。人の周りも環境って言うよね」
自分の言葉で説明できます。
教科書に出てきた「環境」も、問題なく読めました。
ところが、
「じゃあ、『かんきょう』って、何も見ないで書いてみて」
と言うと、鉛筆が止まりました。

しばらく考えてから、
「先生、最初の字、なんとなく分かるんだけど……」
と言いました。

そこでタブレットを渡し、「かんきょう」と入力してもらいました。
変換候補が表示されます。翔太さんは、すぐに「環境」を選びました。

そして、翔太さんは、ぽつりと言いました。
「先生、これなら分かるんだよね」

その言葉が、私は妙に気になりました。

イラスト1/手書きでは止まってしまうけれど、ICTを使えば漢字を選べる翔太さん by高田保則 (生成AIを使用して作成)
イラスト1/手書きでは止まってしまうけれど、ICTを使えば漢字を選べる翔太さん by高田保則 (生成AIを使用して作成)

翔太さんは、「環境」が分からなかったわけではありません。

読める。
意味も分かる。
文章の中でも理解できる。
正しい漢字を見分けられる。
ICTの変換候補からも選べる。

では、何が難しかったのでしょう。
翔太さんにとって難しかったのは、「何もないところから正確な字形を思い出し、手で再現すること」でした。
それでも普段の漢字テストだけを見れば、翔太さんは「漢字が苦手な子」になります。

もし点数だけを見ていたら、

「もっと練習しよう」
「繰り返し書いて覚えよう」

と言っていたかもしれません。そして翔太さんは、昨日よりもっとたくさん漢字を書かなければならなかったでしょう。

ところが、

「読める?」
「意味は分かる?」
「どれが正しい?」
「タブレットなら選べる?」

と方法を変えてみると、違う翔太さんが見えてきます。
「漢字ができない子」から、「漢字の字形を思い出して手書きすることに苦労している子」へ。
そうやって掘り下げていくと、私の中で、子どもの見え方が変わります。

2.「書く」は、一つの能力ではない

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