【シリーズ】高田保則 先生presents 通級指導教室の凸凹な日々。♯28 不登校の子の保護者の本音―学校からは見えないSOS

元通級指導教室担当・高田保則先生が、困っている子どもたちに寄り添う視点から、現在の教育の様々な課題について発信する連載。学校現場の外に出たからこそ見えてくる、現場にとって有益なヒントがいっぱいです。
執筆/「学び方相談室」代表(元北海道公立小学校通級指導教室担当)・高田保則
目次
はじめに
北海道オホーツク地方の小学校で、通級指導教室を担当していた高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合う中で感じたことや考えたことを綴っています。ここに記す事例は、これまでに出会った子どもたちのエピソードを組み合わせて作った架空のお話ですが、実際に過ごした時間の空気感を込めています。
私は、この春から、「学び方相談室」という学習支援のオンラインサービス事業を始めました。保護者の皆さんがどのような困りを抱えているのかを知りたくて、Xを始めました。日々、自分自身の感じたことを投稿したり、他の方の投稿にリプライ(返信)を送ったりする中で、ある光景が浮かび上がってきました。
Xは自動的に、自分に関心のある投稿が優先的に流れてくる仕様です。これは情報を効率よく収集できるメリットである一方、「自分の見たい世界」だけに情報が偏るリスクもはらんでいます。
その危うさを自覚しつつも、あえて今、この「デジタルな空間」で起きているポジティブな側面に光を当ててみたいと思います。
1.お子さんが不登校になった保護者の呟き
Xの私のタイムラインに流れてくるのは、主に不登校やお子さんの成長に気がかりな思いを抱いている保護者の方々の言葉です。そこに共通しているのは、我が子の育ちを真剣に願う、切実な思いです。
3人の保護者の投稿を紹介します。いくつかの投稿を組み合わせた架空のものであることをお断りしておきます。
◇保護者Aさん
「朝、子どもが『お腹が痛い』と布団から出てこない。無理にでも行かせるべきか、休ませるべきか毎朝修羅場。泣き叫ぶ我が子を見ていると、私の育て方が悪かったのかなって自分を責めてしまう。どうするのが正解なんだろう…。」
◇保護者Bさん
「担任の先生に相談しても『様子を見ましょう』『お母さん、焦らず見守ってください』と言われるだけ。見守るって具体的にどうすればいいの? 学校の対応にモヤモヤするけど、関係が悪くなるのが怖くてこれ以上言えない。相談できる人が誰もいない。」
◇保護者Cさん
「五月雨登校から完全に行かなくなって3ヶ月。エネルギーは溜まってきたみたいで家では元気だけど、勉強の遅れが本当に心配。タブレット教材も手につかないし、このままだと将来どうなっちゃうんだろう。焦る親の気持ちも知らずにYouTubeばかり見ている姿にイライラしてしまう。」
投稿を眺めていると、保護者の切実さを感じます。ある日突然、お子さんが不登校に陥ってしまった保護者は、孤独で不安なのです。その思いを吐き出す場として、SNSが機能しているのだと知りました。
2.保護者の投稿にリプをする
私は、気になる投稿にリプ=返信をしました。
◆保護者Aさんへのリプ
「リプ失礼します。自分を責めてしまう、Aさんの心情をお察しします。Aさんは、決して悪くないと思います。何が正解かは、分かりませんが、『納得解』を見つけるお手伝いならできるかもしれません。お子さんが、泣き叫ぶきっかけって、何かあるのでしょうかね。」
◆保護者Bさんへのリプ
「リブ失礼します。モヤモヤしますよね。学校の職員で話しをしやすい方は居ませんかね。」
◆保護者Cさんへのリプ
「リプ失礼します。勉強や将来のことを考えると、焦りますよね。お子さんは、YouTubeでどんな動画を見ているのでしょうね。」
3.ネットを介した教育相談
私は、保護者にリプをする際に、次のことを心掛けました。
- 話をいったん受け止める
- 気持ちに寄り添う
- 詳しく訊きたいことを掘り下げる
- 専門的な視点から、仮の見立てを提示する
- 見立てを保護者とすり合わせる
- 具体策を提示する
前述したリプは、1から3までを意識して呟きました。投稿した保護者と良好な関係を築くためです。私のリプを保護者が返してくれた(リプ返し)なら、4から6へと話を進めました。その際には、SNS上の断片的な情報だけで断定しないよう注意を払いました。私の「見立て」はあくまで、保護者と一緒に現状を整理するための「一つの可能性(仮説)」の提示に留めています。
これらの心がけは、私がこれまで通級指導教室での保護者面談で意識してきたことです。Xのリプライでも、充分通用するのだと実感しています。文字だけのコミュニケーションは制約が多く誤解が生じやすいのですが、対面と違い時間をかけて返信することができます。使う言葉を吟味すれば、思いは通じ合えるのだと感じます。
私のような専門職が保護者の投稿のリプをする意義は、共感の輪の中に「客観的な視点」や「確かな支援の手がかり」を、そっと置くことにあると考えています。
4.2層の投稿者
保護者の投稿を拝読するうちに、この空間が大きく2つの層で構成されていることに気づきました。 今まさに「不安や戸惑いの渦中にいる保護者」と、それを乗り越えてきた「先輩保護者」です。
例えば、Aさんの投稿に対して、同じ経験を経てきた先輩保護者の方が、次のようなリプを返していました。
▼先輩保護者Dさん
「タイムラインを読んでいて、数年前の自分を見ているようで胸がギューっとなりました。育て方のせいなんかじゃ絶対にないですよ!それだけお子さんと毎朝全力で向き合っている証拠です。まずは今朝を乗り切った自分に、美味しいコーヒーでも淹れてあげてくださいね。」
▼先輩保護者Eさん
「我が家も数年前は全く同じでした。毎朝お腹痛いと泣く子を見ては『私の育て方が…』と夜中に一人で泣いていました。でも、思い切って『学校は一旦お休み!』って決めてから、親子で少しずつ笑顔が戻ってきましたよ。最初は世界の終わりみたいに絶望していましたが、今では元気にマイペースに過ごしています。どうか自分を責めないで、今日はお子さんと一緒にダラダラしちゃってください!」
DさんやEさんのリプを読んでいると、かつては近所の軒先で行われていた「井戸端会議」が、共働き世帯の増加などによる対面コミュニティの減少に伴い、SNSという場を借りて「緩やかな相互扶助のコミュニティ」へと形を変えて再現されているのだと感じます。

5.困窮する保護者たち
子どもの不登校は、その家族の生活にも深刻な影響を与えています。経済的・精神的に困窮する2人の保護者の投稿を紹介します。これも、いくつかの投稿を組み合わせた架空のものです。もちろんすべての家庭がこうした状況に至るわけではないことを申し添えておきます。
◇経済的に困窮する保護者Fさん
「子どもの不登校で何度も仕事を休んだり早退したりするのが限界で、先月パートを辞めました。収入が減って毎月の支払いや生活費が本当に苦しい。でも子どもを一人で家に置いて働きに出ることもできない。社会から取り残されたみたいで、これからどうやって生活していけばいいのか目の前が真っ暗。」
◇精神的に追い詰められている保護者Gさん
「朝、子どもが起きてこないだけで動悸が止まらなくなる。気づけば自分も夜眠れなくなり、心療内科で抗うつ薬をもらった。私がしっかりしなきゃいけないのに、涙が止まらなくて家事もできない。子どもを支えるためのエネルギーが、私のどこにも残っていない。誰か助けてほしい。」
我が子が不登校に陥った保護者は、社会から取り残されていくような孤独感にさいなまれていることを感じます。

6.学校からは見えない保護者の本音
学校は「学校に来る・来ない」の議論や、「家庭での見守り」をお願いしがちです。
しかし、SNSに流れる保護者の本音は「子どものために仕事を辞めざるを得ず、生活が困窮している」「親自身がメンタルを病み、薬を服用している」という、生活そのものの崩壊の危機です。
学校という組織の窓口だけでは、ここまで深刻化している保護者の生活苦や心身のSOSをキャッチすることは容易ではありません。だからこそ、SNSの投稿に耳を傾ける意義があると感じます。
もちろん、SNS上のやり取りは匿名性が高く、そこで語られることが必ずしもすべての子に当てはまるとは限りません。SNSの情報は時に感情的に増幅され、極端な方向へ流れる危うさを持っています。
しかし、学校という組織では見えない「保護者の剥き出しの本音」に触れることは、私にとって、既存の支援のあり方を問い直す貴重な学びとなりました。情報の海を漂流する保護者の声を拾い上げ、偏った情報の連鎖から、確かな学びや専門的支援へと繋ぎ直すことにこそ、私の新たな役割があると考えるようになりました。
7.教員の思い
一方、不登校になった児童生徒と関わることになった学校関係者は、どんな思いを抱いているのでしょうか。2人の先生の架空の投稿を紹介します。
◇H先生
「クラスに不登校気味の子がいる。少しでも登校のハードルを下げようと『2時間目だけの登校でOK』『放課後に担任と10分だけお喋り』など、スモールステップの計画を保護者と共有して進めている。
でも、当日になるとやっぱり来られない日も多くて…。本人の登校意欲を刺激する関わり方って何が正解なんだろう。打つ手が見えなくなってきた。」
◇I先生
「別室登校の子が『今日の実験は楽しそうだから教室に行ってみようかな』と思えるように、授業の導入を工夫したり、魅力的な教材を準備したり。とにかく『学校は楽しい場所だよ』という仕掛けを毎日必死に考えている。でも、それって教員のエンタメ力頼みだし、本質的な『自分で学習をコントロールする意欲』には繋がっていない気がしてモヤモヤする…。」
多くの教員は、不登校になった子が、なんとか教室に戻ってこられるようにと、考えを巡らせています。しかし、思ったように支援が進まないケースが多いのが現状です。
8.学校と保護者の思いのズレ
Xでは、我が子の不登校が長期化して、新たな気付きを得た保護者の投稿が見られます。2人の保護者の架空の投稿を紹介します。
◇保護者Jさん
「不登校になって1年。毎朝『今日は行く?』と聞いてはお互いイライラする日々に私が疲れ果て、学校に行くのをゴールにするのをやめました。そしたら嘘みたいに家が穏やかに。学校に戻すことより、この子が笑顔で生きていくために、今ここからできる学びや居場所を探していこうと思えるようになった。」
◇保護者Kさん
「完全不登校から数ヶ月。あんなに学校にこだわっていたのは、親の私の世間体や不安のせいだったのかもと気づいた。同級生と同じペースじゃなくていい。この子の『知りたい』に寄り添える方法(オンライン授業でも、好きな図鑑を極めるのでも)を一緒に見つけていけば、未来は拓けるはず。そう自分に言い聞かせています。」
2人の保護者は、葛藤の末に、我が子の心の安全安心を優先することに舵を切った様子がうかがえます。
一方、教員は、子どもが登校できるようになることを目指します。それが仕事ですし、現職時代の私もそうしてきました。しかも、教員は年度ごとに担当が変わるため、「在籍している間に少しでも前進してほしい」と願いながら支援を考えています。
Xでは、「教室には入れないのに部活動には参加できるのはなぜなのか」「好きな活動には取り組めるのに、授業になると動けなくなるのは特性なのか、それとも甘えなのか」といった議論を目にすることがあります。
学校側から見れば、「できる場面があるのなら、もう少し頑張れるのではないか」と感じることもあります。
一方で保護者は、「その子は、その場で使えるエネルギーを精一杯使っている」「安心できる環境だから参加できるだけで、教室では同じ力を発揮できない」と捉えている場合があります。
どちらが正しい、間違っているということではありません。教員は学びの機会を保障したいと願い、保護者は子どもの心身を守りたいと願っています。
不登校支援の難しさは、互いが見ている景色の違いを理解し合うことの困難さにあるのかもしれません。その結果、登校をゴールにしなくなった保護者と再登校が目標の教員との間に、考え方の違いが生じてしまうのです。
子どもへの支援は、学校と保護者が合意形成して連携することで、効果を発揮します。不登校の支援の難しさは、両者が同じ方向を向くことの難しさが背景の一つにあると感じます。
9.ネットの井戸端会議を見守り続けたい
最初は学び方相談室のニーズを探るために始めたXのリサーチでした。でも今は、こうした切実な声のひとつひとつに耳を傾けることそのものに、大きな意義を感じています。
これまでの私は通級指導教室で、保護者の方々と向き合ってきました。今はSNSという新しい場で、同じように悩み、迷い、孤独を抱える保護者の声に出会っています。
情報の海を漂流する保護者の声を拾い上げ、確かな学びや支援へと繋ぎ直すこと。それが、学校を離れた今の私にできる、新しい役割なのかもしれません。

〇文献 『不登校と学校』 そだちの科学第44号 2025年4月/日本評論社

高田保則先生プロフィール
たかだ・やすのり。1964年北海道紋別市生まれ。元オホーツク地域の公立小学校教諭。公認心理師、特別支援教育士。趣味はバンド演奏。現在は「学び方相談室」https://shy-yoron-3352.catfood.jp/代表として活動中。
