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【シリーズ】高田保則 先生presents 通級指導教室の凸凹な日々。♯27 ギフテッド支援に「傲慢さ」はないか

連載
通級指導教室の凸凹な日々。 presented by 高田保則先生
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元・北海道公立小学校教諭

高田保則
連載「通級指導教室の凸凹な日々。」バナー

元通級指導教室担当・高田保則先生が、多様な個性をもつ子どもたちの凸凹と自らの凸凹が織りなす山あり谷ありの日常をレポート。情熱とアイデアに満ちた実践例の数々は、特別支援教育に関わる全ての方々に勇気と元気を与えるはずです。

執筆/「学び方相談室」代表(元北海道公立小学校通級指導教室担当)・高田保則

はじめに

北海道オホーツク地方の小学校で、通級指導教室を担当していた高田保則(たかだやすのり)です。日々、子どもたちと向き合う中で感じたことや考えたことを綴っています。ここに記す事例は、これまでに出会った子どもたちのエピソードを組み合わせて作った架空のお話ですが、実際に過ごした時間の空気感を込めています。

同年代の子どもと比べて、知性、芸術、運動など特定の分野で、著しく高い能力を持つ子どものことを「ギフテッド」(特定分野に特異な才能のある児童生徒)と呼ぶようになりました。知能指数(IQ)を基準とする場合、約2%の子どもが該当します。50人に1人の計算になります。また、高い知的能力と発達障害などの困難さを併せ持つ子どもたちは「2e(二重の特別さ)」と呼ばれ、より丁寧な理解が必要とされています。

私は通級指導教室の担当者として、延べ400名のお子さんの指導に携わってきました。その中には、ギフテッドの特性を持つと思われた子も数名いました。
今回は、ギフテッドの支援というテーマで、私の実践を振り返って省察したいと思います。

1.事例―① 理解力が飛びぬけていながら不全感を抱えていたKさん

近隣の学校から転入してきた小学2年生のKさんは、「とても賢い子」として職員室の話題になっていました。入学前の保育園では、毎朝新聞に目を通し、その日気になったニュースを保育士の方に教えていたという逸話が伝わっていました。

一方、前の学校からは、虚言癖があるという引継ぎを受けていました。例えば、遅刻してきた時に、「登校中に不審者に追いかけられました」と訴えたのです。警察に通報して大騒ぎになりました。警察が捜査した結果、そうした事実はありませんでした。

転入後は、虚言癖と友達関係のトラブルが時々見られました。例えば、クラスメイトの失敗の原因を正論で指摘してケンカになったことがありました。気掛かりに感じた学級担任が、私のところに相談を持ち込み、通級指導に繫がりました。

通級指導では、Kさんの認知面の特徴を把握するために、知能検査をしました。その結果、私がそれまで関わった子の中でも群を抜く知的能力の高さがあることが明らかになりました。高い知能を持つ子が、不全感を抱えるケースを書籍や研修会で耳にしていましたので、Kさんの不全感を探るための指導を始めました。

Kさんは、「トロッコ問題」などの思考実験や大人向けの論理パズルの問題を解くことに夢中になりました。そんなKさんの理解力の高さに驚いて盛んに褒めると、Kさんは、少しずつ自分の困りを吐露し始めました。

母親との折り合いが良くないこと。
過集中で、他の事を忘れてしまうこと。
気の合う友だちができないこと。
家では、好きなことに没頭できないこと。

私は、Kさんの虚言癖や周囲の子とのトラブルは、こうした困りが背景にあると見立てました。

2.Kさんの長所を活かした指導に取り組む

Kさんに提案する学習方法を考えました。

当時の通級指導教室に、「くみくみスロープ」という教材がありました。レールの部品を組み合わせて、ボールを転がすコースを作る知育玩具です。3年生になったKさんは、これに夢中になりました。

「これは、アナログのプログラミング教材ですね」

賢いKさんは、「くみくみスロープ」の本質を理解していました。

私はKさんに提案しました。

「巨大なコースを作って、1年生に遊んでもらったら、面白くない?」

Kさんは、嬉々として提案に乗りました。

ボールが予想外の方向に転がるようにコースを工夫しました。その様子を見ていた物作りが好きな子が、参加を希望しました。5人の子どもたちが集まり、「くみくみ倶楽部」を結成して、休み時間や放課後に、通級指導教室に集まっての共同制作が始まりました。大きなコースは、土台と構造を頑丈にしないと、レールが歪んできて、ボールが止まってしまいます。Kさんをはじめとした「くみくみ倶楽部」のメンバーは、話し合いながら、部品を三角形に組み立てると構造が安定することを発見しました。

校内の支援学級にあった「くみくみスロープ」もお借りして、巨大なコースが完成しました。休み時間に1年生を招待して、お披露目体験会をしました。1年生は大喜びでした。Kさんは、とても満足気な表情でした。

くみくみスロープの発表会をするKさん  イラストby高田保則 (生成AIを使用して作成)
「くみくみスロープ」の発表会をするKさん  by高田保則 (生成AIを使用して作成)

3.とても不器用なМさん

不登校気味で、私の所に通っていた6年生の子から、「ボクの従妹に面白い子がいる」と紹介されました。それが、隣の学校に通うMさんでした。Mさんの保護者に通級指導教室のお話をすると、とても興味を持たれて、通級指導に繫がりました。

初回の面談で、Mさんにインタビューをしました。勉強で困っていることはないけれど、給食を食べている時に、周りの子と話が合わないのが困りと語りました。

「だから、適当に話を合わせているんだよね」

そうMさんは言いました。

知能検査の結果は、予想通り、とても高い理解力を有していることが明らかになりました。一方、作業を速く正確にこなす力は、苦手という結果でした。Mさんはとても不器用で、体育の跳び箱や縄跳びを滅法苦手にしていることが明らかになりました。今でいう、発達性協調運動症(DCD)という状態に当てはまりました。

4.苦手克服の逆効果

とても不器用なMさんに、私は、自転車に乗る学習活動を提案しました。Mさんは、3年生になっても、自転車の補助輪が外せなかったのです。補助輪を外して自転車に乗れるようになったら、Mさんの行動範囲が広がると考えたのです。

Mさんの自宅の自転車を持参してもらい、練習を始めました。インターネットで自転車の練習方法を調べて、それをMさんに紹介しました。

ところが、とても不器用なMさんは、練習を続けても、なかなか上達しませんでした。それに伴いMさんの表情は、次第に曇っていきました。苦手な活動を強いられて、Mさんは、通級指導そのものが楽しくなくなっていたのです。「他の子ができることは、この子もできるようになるべきだ」という私の固定観念が、Mさんの特性(協調運動の困難さ)への配慮を上回ってしまった結果でした。

自転車練習が辛そうなMさん イラストby高田保則 (生成AIを使用して作成)
自転車練習が辛そうなMさん  by高田保則 (生成AIを使用して作成)

私はMさんに謝りました。

「苦手なことを無理強いしてゴメンね。次からは、キミがやりたいことをやろう」

「…じゃあ、従妹の勉強を見てみたい」

そこで、6年生の担任の先生にお願いして、授業に特別参加することになりました。Mさんは、3学年上の算数の授業を興味津々で受けていました。それに伴い、Mさんが授業に特別参加する日は、不登校気味だった6年生の従妹も登校するようになったのでした。

5.興味をとことん追究したSさん

「高田先生、これ見てください」

2年生の担任の先生に見せていただいたのは、Sさんの家庭学習ノートでした。Sさんは、自宅のテレビの裏側に接続されている様々なケーブルに興味を持ち、形状の違いを観察し、その働きを調べて、ノートにまとめていました。そうやって、自分で調べたことを毎日の家庭学習ノートに記していたのでした。

テレビの裏の接続コードを調べているSさん  イラストby高田保則 (生成AIを使用して作成)
テレビの裏の接続コードを調べているSさん  by高田保則 (生成AIを使用して作成)

「この子、面白いですね」

私は、Sさんに俄然興味を持ち、参観日に来た保護者を口説き落として、通級指導につなげました。

Sさんは、家庭学習ノートを持参して、調べた事柄を嬉しそうに私に説明してくれました。

Sさんの学び方の特徴を探るために、知能検査をしました。理解力がずば抜けて優れているという結果が出ました。

週に一度の通級指導の時間は、Sさんが家庭学習で調べた事柄の報告をみんなで聞く時間に充てました。そんなSさんの理解者が現れたことで、当初は通級指導に懐疑的だった保護者は、頼もしい協力者になってくれました。

6.興味が連鎖する

Sさんの興味が向かう先は変遷していきました。テレビの接続コードから、電気の仕組みを研究するようになりました。やがて、インターネット回線に興味を持つようになり、ネットワークの仕組みを研究対象とするようになりました。

マインクラフトが大好きだったSさんは、プログラミングに興味を持つようになりました。レンタルサーバーを自力で構築し、マイクラ好きの友だちを招待して、ゲームを楽しみました。私は、Sさんに頼んで、自分たちが住む町をマイクラで再現する学習活動(連載第2回参照)をするために、地形データを再現したレンタルサーバーを作ってもらいました。その後3年にわたる「マイクラで我が街を再現するプロジェクト学習」に通級指導教室で取り組みました。

7.その後の3人の様子と進路

正論を振りかざして、友だちとトラブルになっていたKさんは、周囲の子から「賢い奴」と認知されるようになり、クラスの子たちが勉強で分からないところを訊きに行く家庭教師的存在になりました。「くみくみスロープ」の学習を一緒に取り組んだ子たちとは、仲の良い友だちになりました。

賢いけど不器用だったMさんは、お父さんが趣味にしていた楽器演奏に興味を持つようになりました。キーボードの練習を始めて、お父さんとバンド活動を愉しむようになりました。

興味の赴くままに、我が道を突き進んだ研究活動に没頭していたSさんは、中学校に進学して、自作パソコンの研究を始めました。無料のOSを使ったパソコンを操るようになっていました。

知的に秀でた能力を持っていた3人の子どもたちに、私は将来の進路選択について、度々話をしました。

保護者と折り合いが悪かったKさんには、奨学金を活用して寮生活ができる私立の進学校を薦めました。周囲の子と話が合わないのが悩みだったMさんには、地元の進学校で話の合う仲間を見つけることを勧めました。研究肌のSさんには、理系の高等専門学校(高専)を目指すよう勧めました。

当時の私は、彼らの将来を思い、その才能に見合う(と私が信じていた)進路を熱心に薦めました。今振り返れば、それは彼らの「今の幸せ」よりも、「能力の有効活用」を優先した、支援者としての傲慢さがあったのかもしれません。

やがて、3人は高校に進学しました。Kさんは、幼い弟の面倒を見るために、地元の公立高校を選びました。自転車通学に不安があったMさんは、自宅から歩いて行ける高校を選びました。研究生活ができる自宅を離れるのを嫌がったSさんも、地元の公立高校を選びました。

8.大人のお節介に抗う子どもたち

能力が秀でている子に対して、私たち大人は、その能力を伸ばして活かして欲しいと考えがちです。ところが、彼らにとって、それは生まれた時から当たり前にある普通のことなのです。

ある日、Kさんが言った言葉を覚えています。

「ボクは、特別扱いされるのが嫌なんです」

ギフテッドと呼ばれる子どもたちの本音が、この言葉に表れているように感じます。

9.終わりに

文部科学省は、「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」を立ち上げ、彼らの教育について論議しています。次期学習指導要領に向けたワーキンググループが、近々答申を出すと思われます。審議の中では、過度なエリート教育に走ることを戒めています。正しい方向だと感じます。

昔のオリンピックでは、国家ぐるみで優秀な選手を選抜しスポーツエリートを育成する国がありました。競技で結果を出すためにドーピングが横行しました。負の歴史です。スポーツエリートだった選手の、その後の人生は幸せだったのかと思いを馳せます。

一方、現在のギフテッドの定義は、「高い能力を有しながら、何らかの困りを抱えている子」ともされています。子どもの長所を伸ばして、学習意欲を高める実践に取り組んできた私としては、彼らの困りの改善が優先される風潮に一抹の危惧を覚えています。

大切なのは、能力に秀でた子が、自分の意志で人生を切り開いていける環境を用意することだと思うのです。

高田保則先生写真

高田保則先生プロフィール
たかだ・やすのり。1964年北海道紋別市生まれ。元オホーツク地域の公立小学校教諭。公認心理師、特別支援教育士。趣味はバンド演奏。現在は「学び方相談室」https://shy-yoron-3352.catfood.jp/代表として活動中。

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