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犯罪から子どもを遠ざける景色解読力!最善の防犯対策とは

2019/9/17

小学生を狙った犯罪が絶えない昨今、学校はどうやって子供たちを犯罪から守ればよいのでしょうか。防犯ブザーを持たせ、不審者を見たら「逃げましょう」「叫びましょう」では、犯罪をなくせません。世界各国の防犯の事例調査から、『犯罪機会論』に基づく『景色解読』を用いた、本当に効果を期待できる犯罪防止を研究している立正大学教授の小宮信夫先生に、今、学校がとるべき防犯指導について教えてもらいました。

監修/立正大学教授・社会学博士・小宮信夫

防犯心がけイメージ
写真はイメージです。
撮影/大庭正美

間違いだらけの日本の防犯教育

学校での防犯指導でよく使われている標語「いかのおすし」。「行かない、乗らない、大きな声を出す、すぐ逃げる、知らせる」は、犯罪を起こそうという人に出会った場面を想定した対策です。しかし、実際に子供が連れ去られるような場合、多くは、無理やり連れて行かれたわけでなく、騙されて連れて行かれるのです。そういう犯罪者は、外見が「いかにも不審者」ではなく、一般の人と見分けが付きません。つまり、これでは犯罪を未然に防ぐことはできないのです。

「サッカーなど球技スポーツの防御理論に、マンツーマン・ディフェンスとゾーン・ディフェンスがありますね。犯罪学もそれと似ていて、犯罪は人が起こすものだからと捉える『犯罪原因論』と、犯罪を起こしやすい場所があるからと捉える『犯罪機会論』があります。日本の防犯対策は『犯罪原因論』をとってきましたが、防犯の先進国では『犯罪機会論』が重視されています。防犯の対象は、人ではなく『場所』。見守り活動もパトロールも、不審者ではなくて場所が対象。これが『犯罪機会論』の考え方です」(小宮先生)

『犯罪原因論』とは
「犯罪を行う人に注目して、罪を犯すのはその人自身に原因があって、また何らかの動機があるからこそ犯罪が起きる」という考え方。犯罪の動機(=原因)を分析して、未然に防止するのは非常に困難。欧米でも70年代までは犯罪原因論に基づいた防犯対策をとっていたが、犯罪を減少させることはできなかった。

『犯罪機会論』とは
「犯罪の発生場所は、犯罪の実行に都合のいい場所・景色である。犯罪が起きるのは、犯罪の機会(チャンス)があるから」と捉え、その機会をなくしていくことで防犯の実現を目指す。犯罪を起こそうという人がいても、実行に都合のいい場所(景色)がなければ、犯罪は起こらないという考え方。現在、世界の主流となっている最新の犯罪理論。

犯罪に巻き込まれないよう危ない場所を知る

地域安全マップ
地域安全マップづくりで、「危険な場所が分かる」「景色の解読力をつける」

「学校の防犯指導として、『地域安全マップづくり』をするよう提唱しています」と小宮先生。犯罪に巻き込まれないためには、犯罪が発生しそうな場所を知って、近づかないことが防犯の第一歩。そのために、子供たちによる「地域安全マップづくり」を授業で行うことが効果的。しかし、学校での地域安全マップづくりは、しばしば間違った方向に行きがちと警鐘を鳴らします。

「文部科学省が定める『安全』のカテゴリーには『生活安全』『交通安全』『災害安全』の3項目があります。小学校の安全教育の授業では、このうち交通安全が全体の6割を占め、災害教育が3割、防犯を含む生活安全は1割程度にすぎません。交通安全のウェイトが高いのは、先生たちにある程度の知識があって指導しやすいからでしょう。したがって、学校で地域安全マップづくりを行うと、でき上がってくるのは『交通安全マップ』ということがよくあります。防犯を主にマップをつくっても、中身はいわゆる『不審者マップ』のようになってしまうことがよくあります」(小宮先生)

つまり、先生は犯罪機会論を理解して、地域安全マップづくりを指導することが大切なのです。

景色解読力のキーワードは「入りやすい」「見えにくい」

地域安全マップは、「犯罪の起こりやすい場所」をフィールドワークでチェックし、その景色を撮った写真とともにまとめた地図のことを指します。犯罪が起こりそうかそうでないか、風景に対する解読力を高め、安全な場所と危険な場所を判断して行動できるように指導します。風景解読のキーワードは、「入りやすい場所」「見えにくい(見られにくい)場所」です。

【入りやすい場所とは】
怪しまれることなく簡単に子供に近づくことができる場所。犯行後の逃走もたやすい。

【見えにくい(見られにくい)場所とは】
犯行が目撃されにくく、発見・通報される可能性が低い場所。落書きが多い場所も、目が行き届かないという点で見えにくい場所。

「入りやすい場所」と「見えにくい(見られにくい)場所」というキーワードに基づいて危険な場所を探し、景色の解読力を養います。それによって、身近な場所だけでなく、初めて訪れる場所においても、子供たちが安全か危険かの区別ができるようになります。「注意しなければならないのは、『死角』『暗い』『人通り』という言葉を使わないこと。死角がなくても、田んぼ道や歩道橋などでは、家からの視線が届かないので、そこは『見えにくい場所』になります。また、犯罪者は子供の容姿がよく分かる明るい場所を好みます。さらに、人通りがある場所でも、犯罪者は人通りが途切れる瞬間を待っています。人通りが多いということは、犯罪者にとっては、獲物が多く物色に好都合であることを意味します」(小宮先生)

犯罪者が好む「入りやすい場所」と「見えにくい場所」

トンネル

トンネル

出入り口が両側にあって、どちらからでも入ることができるので、誰もが入りやすい。内部は壁に囲まれているので周囲から見えにくい、危険な場所。

地下道

地下道

地下道も、トンネルと同じように誰もが入りやすくて逃げやすく、なおかつ、壁に囲まれていて周囲から見えにくい、犯罪者にとって都合のよい場所。

建物の間の路地

建物の間の路地

都市部によくある、建物に挟まれたような路地は、出入りしやすい場所。また、建物に窓が少ないと、住民の目が行き届かないため見えにくい場所に。ゴミも危険な証拠。

1階が車庫の家が並ぶ道路

道路

1階が車庫の戸建て住宅は生活空間が2階となるため、歩行者の姿が見えにくい。道路にガードレールがなければ、「入りやすい場所」にもなる。

生け垣に囲まれた公園

公園

大人の身長程度の高さの生け垣で囲われている公園は、ブロック塀に囲まれているのと同様で周囲から中の様子が見えない。つまり、誰からも見えにくい危険な場所。

階段の踊り場

踊り場

マンションなどの階段の踊り場は、1階のゲートが開いていれば「入りやすい場所」。さらに、周囲が壁のようになっていると、中にいる人が見えにくくて危険。

駐車場

駐車場

周囲にフェンスがなく、入り口にチェーン等の人の出入りを制限するものがない駐車場は、誰もが入りやすい危険な場所。子供を待ち伏せする場所にも用いられる。

駐輪場

駐輪場

一般向けの駐輪場は、誰もが入りやすい場所。さらに、塀で囲まれていると誰からも見えにくい場所に。落書きなどがあれば、目が行き届いてないことを裏づける。

低学年の地域安全マップ つくり方のポイント

低学年の子供たちの地域安全マップづくりでは、高学年と違って、いくつか課題があります。

・地図の作り方や見方について学習していない。
・「入りやすい」「見えにくい」という概念を理解しにくい。
・メモの取り方に慣れていない。

このため、地図づくりの経験がある高学年の子供たちと協働で作業し、マンツーマンで補助してもらいながら行うと、スムーズに学習できるでしょう。また、フィールドワークで外出する際は、十分な注意と配慮が必要になります。街歩きの安全確保が難しい場合には、先生が撮ってきた写真や動画を、教室で子供たちに見せて考えさせる方法でも、「景色解読力」は向上します。

「地域安全マップは、繰り返し実践し習慣づけることが大切です。毎学年、マップづくりを行い、卒業するまでに6回取り組む学校もあります。学年ごとにレベルが上がっていき、違ったバリエーションのマップづくりもできるといいと思います」(小宮先生)

役割分担
フィールドワークの役割分担は、低学年の子供が写真撮影やインタビューを担当。高学年の子供は、班長や副班長、地図係を務めます。事前に、高学年が犯罪の起こりやすい場所や安全な場所を下見しておき、後で低学年といっしょに調査するとよいでしょう。

事前学習
具体的に何を行って、何を目標とするのか。学習内容を明確に伝えます。クイズ形式で「入りやすい」「見えにくい」のキーワード(物差し)を提示して、子供が主体的にマップづくりに取り組めるようにします。校外では、高学年が低学年の子の手をつないで車道側を歩くなどして、交通安全に十分注意するように指導します。場合によっては保護者や地域ボランティアの人たちに同行してもらうとよいでしょう。写真撮影やインタビューをする際は、プライバシーへの配慮、協力者への挨拶、お礼など、守るべきマナーも指導しておきましょう。

フィールドワーク
ポイントとなる場所に来たら、班長の呼びかけでグループが立ち止まり、その場所が安全か危険かを考えます。時には先生や保護者が、「今、誰かに見られている感じがするかな」と問いかけたりします。写真は、対象物だけを撮るのでなく、全体の景色を撮るようにします(例えば、高い塀だけでなく、道路も含めて全体を撮るなど)。地図係は、歩いたルート、写真の撮影場所、危険・安全を判断した理由を記録します。インタビューは、地域の住民や商店の人に話を聞き、自分たちが地域の人々に見守られていることを実感させます。

マップ作製
まず、高学年の子供が道路や建物などを大まかにフリーハンドで描きます。低学年の子供には、写真の切り抜きやコメントの作成などを担当させましょう。高学年は、低学年の作業をチェックしながら、写真やコメントを地図に貼り付けます。その際、「入りやすい」「見えにくい」の言葉とその理由を必ず書き入れるように指導します。

発表会
班ごとに、高学年と低学年それぞれが発表します。高学年は、低学年の子供が理解できるような平易な言葉で話すように心がけるようにします。低学年の子供は、思ったこと、感じたことを発表すればよいでしょう。発表会を行うことで、マップづくりの達成感を味わうことができます。

小宮信夫先生
立正大学教授・社会学博士 小宮信夫先生

写真でわかる世界の防犯―遺跡・デザイン・まちづくり
小宮信夫著 (小学館刊)1800円+税
各国の世界遺産、住宅、学校、公園などの写真から、犯罪が起こりにくい場所が分かる、「犯罪機会論」に基づく防犯写真集。
試し読みはコチラ

構成/北橋克文 イラスト/横井智美

『小二教育技術』2018年10月号より

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