教科書を大事にしながら、どのように扱っていくかが教員の腕の見せ所 【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり #27】

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全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
第27回 全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり
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前回は、福井県の「授業名人」である、越前市南越中学校の朝倉由花教諭に、英語の単元・授業づくりの考え方について聞いていきました。今回は、そのような単元・授業づくりの考え方を踏まえ、3年生の単元・授業の実例について紹介します。

福井県越前市南越中学校・朝倉由花教諭

教科書を使い、生徒の実態に合わせた学習を付加

今回紹介するのは、3年生の単元、「Be Prepared and Work Together」です。朝倉教諭は、まずこの単元構成の意図やその具体について、次のように話します(資料1参照)。

「日本は自然災害が多い国で、それに関することを知ることはとても大事です。その災害に関わることを教科書教材から学びながら、『自分の地域はどうだろうか』『自分はどうだろうか』と自分自身と関連付けながら積み上げていきます。そして、単元の終盤で自分の住む越前市の取組も調べ、ALTやクラスメイトに伝えた後で、最終の授業では今まで学んできたことをふり返り、『自分たちに何ができるだろうか』ということを考え合わせて整理し、英語で伝えられるようにします。

私も含め、私の所属する英語研究会では、教科書を使いながら、生徒たちの実態に合わせ、実生活にリンクするような学習を付加し、単元構成をしていこうと考えています。『教科書を教えるのではなく、教科書で教える』とよく言われますが、生徒たちは『教科書は学ぶための大事なもの』だと思っていますし、教科書教材はとてもよくできているので、それを十分に活用したいと考えています。

ですから、この単元の場合、1/8時〜6/8時までは教科書教材の内容に沿って、登場人物が架空の緑市で被災した外国人の体験談や緑市の外国人支援について学んでいく過程を通して、生徒たちも同様に学んでいきます。それぞれの授業で、災害に関する表現や新しい表現方法を少しずつinputし、それをコミュニケーションを通して実際にoutputしながら身に付けていくのです。

そこで学んだ表現を基にしながら、7/8時は地元越前市の取組について、身近な外国人であるALTに伝えるために各々が調べ、英語でまとめていきます。ここでまとめたことを、8/8時の冒頭でALTに伝えた後、生徒たちがこの単元を通してどんなことを学んできたのかをふり返るとともに、自分の言葉で学んだことを伝え合い、『こんなことを学んできたから、自分はこういうことをしたい』という思いを英語で表現していくという単元です」

【資料1】単元構想

生徒個々が活動を通して情報を判断・選択し、異なるものをつくり上げていく

さらに、ポイントとなる8/8時の授業について聞くと、朝倉教諭は次のように説明します(資料2参照)。

「前時、7/8時に越前市のことを生徒たちが調べてみると、本市には多様な外国人が住んで働いており、多文化共生都市として、英語だけでなく多様な言語で情報を発信していることに気付きます。それには驚きがありますし、生徒たちがALTに伝える必然性が生じます。もし、そのような取組をしていない自治体であっても、生徒たちが自分で調べて現状を知ることで、自分たちが英語で情報発信していく必然性を感じられるだろうと思います。

この授業は単元の最後のまとめで、前時に調べてまとめたことを踏まえて、『ALTに教えよう』と伝えていくのです。伝えたい内容を調べて整理している過程では、ALTとの対話もはさんでいます。すると、その対話から、『私はこういうことを伝えたいのだけれど、彼女(ALT)はこんなことを言っていたから、ここを強調しよう。もっとこんな情報を入れよう』などと考え、それぞれが情報を選んで修正していく過程でより学びが深くなります。基本の学習活動は全員同じですが、一人一人が活動を通して情報を判断し、選択し、異なるものをつくり上げていく。そういう幅のある学びになるとよいと思います。

この授業では、冒頭でそのように整理したものを実際に伝えた後、ALTと生徒たちが単元の内容をふり返りながらやり取りし、学習したキーワードを書き出していって、クラス全体でまとめます。それをベースに、生徒たちが自分のマインドマップに必要なワードを加えていきます。個々がマインドマップを基にしながら、ペアになり、互いの学びや考えを伝え、話し合っていくのです。さらにペアを替えながら、伝え合い、必要に応じてマインドマップのキーワードも増やしていきます。

そうした対話を通して学習をふり返りながら自分の考えを整理した後、最後に自分はどうしていきたいかをワークシートにまとめていくのです」

【資料2】指導案

「教科書の内容をどう生徒たちにとっての自分事につなげていくか」を考える

最後に、このような単元・授業づくりのポイントについて聞くと、朝倉教諭は次のように話してくれました。

「単元構成でも触れましたが、教科書はうまく構成されていて、中核となる部分がしっかりありますから、それを大事にしながら、どのように扱っていくか(単元デザインしていくか)というのが教員の腕の見せ所になるでしょう。生徒の実態に合わせて、どこに重きを置いて学ばせるのかが大事です。

その単元構成(教材アレンジ)については、『教科書の内容をどのように自分事につなげていくか』ということだけをしっかり考えれば、それほどむずかしくはないと思います。もっと端的に言えば、どのように生徒たちの日常にリンクさせるかということです。この単元の場合は、地元越前市の災害や外国人対応を調べることで、自分事にしたいと考えたのです。

実際に本市の場合は、生徒たちが思う以上に外国人向けの対応や発信がしっかりしていたのですが、それについて事前に調べて私が伝えるのではなく、私自身も生徒と一緒に調べます。前回、教員が生徒たちのモデルになるというお話をしましたが、まさにその通り、私自身も生徒と一緒になって楽しみながら学べばよいと考えています。

学びを自分事にするために、前々回紹介した1年生の場合は、友達のこと、身近な人のことを話しました。それに対しこの場合は、身近な自治体について調べて整理して発信するとともに、学んだことを基にして、自分がどう思ったかという感想を言えるようにしています。このように、自分事とする内容や対象をごく身近なことから次第に広げ、将来や社会について考えたことも自分の言葉で伝えられるようにしたいと考えています。中学校3年間を通して、英語の力を積み上げていき、中学校卒業後、さらに広い世界へと考えを広げ、自分自身を発信できる人になってほしいと思っています」

【全国優秀教師にインタビュー! 中学校編 中1〜中3を見通す! 「高校につながる英・数・国」の授業づくり】次回は3月21日公開予定です。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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