保護者対応に活かすカウンセリングのスキル(総論)―今、教師に求められる「聴く力」と「支える力」―【ストレスフリーの教室をめざして #51】

私たち教師にとって、保護者対応は避けて通ることのできない大切な仕事です。子どもの学びや育ちを支えるうえで、学校と家庭が連携することは欠かせません。その一方で、多くの教師にとって保護者対応は、大きな緊張や負担を伴うこともあります。電話が鳴るたびにドキッとしてしまう、面談の前日は気が重い、対応した後もしばらく内容が頭から離れない……そのような経験をもつ先生は少なくないのではないでしょうか。そんな保護者対応には、カウンセリングのスキルが役に立ちます。今回を含め、保護者のタイプ別対応をお届けしていきます。今回は、まず「総論」です。
執筆/埼玉県公立小学校教諭・春日智稀
目次
保護者と教師のすれ違い
保護者対応が難しいのは、子どもをめぐるさまざまな立場や思い(期待・不安・怒り・戸惑いなど)が複雑に絡み合っているからです。教師は学校という場から子どもを見ていますが、保護者は家庭という場から子どもを見ています。同じ子どもですが、学校と家庭では見せる姿が違います。だからこそ、保護者対応では「事実ベースで淡々と説明すること」だけでなく、相手がどのような思いで話しているのか、その背景にはどんな心理状態があるのかを理解しようとする姿勢が重要になるのです。
保護者対応が難しくなる場面では、多くの場合、教師と保護者の間に「すれ違い」が起きています。しかもそのすれ違いは、どちらかが悪いから起こるわけではなく、むしろそれぞれが一生懸命であるからこそ起こるものなのです。
たとえばとある保護者が、「最近、うちの子が学校へ行きたがらないんです」と相談してきたとします。このとき教師は、「学校で見ている限りでは問題はなさそうです」、「授業中は普通に過ごしていますよ」と事実を丁寧に伝えようとするかもしれません。もちろん、それは必要な対応です。しかし、保護者が本当に求めているのが「事実」だけだとは限りません。多くの場合、その背後には「わが子に何が起きているのだろう」、「親としてどうすればいいのだろう」という不安があります。教師が事実だけを返すと、保護者は「分かってもらえなかった」と感じてしまい、不信感を抱いてしまう場合があります。
一方で、教師の側にも思いがありますよね。忙しい中でも誠実に対応しようとしているのに、保護者から強い口調で責められると、「そんなふうに言われるのは心外だ」、「ちゃんと対応しているのに」と感じることがあります。すると、つい防御的になり、説明で納得させようとしたり、言い訳のような伝え方になったりしてしまいます。こうして、保護者はますます感情的になり、教師はさらに疲弊して、両者の距離はどんどんと遠くなってしまうのです。
このように、保護者対応ではしばしば、保護者は「気持ちを分かってほしい」と思っており、教師は「事実を説明したい」と思っているというすれ違いが生じます。ここを理解せずにやりとりを始めると、内容そのものよりも「話し方」や「受け止められ方」が問題になりやすいのです。

保護者対応に活かすカウンセリングのスキル
こうしたことを踏まえ、保護者対応にはカウンセリングのスキルを活かすことができます。しかし、「教師がカウンセラーになれ!」と言いたいわけではありません。教師は教師として、教育の立場から子どもと保護者に関わります。ただ、対話の中で相手の思いや感情をどう受け止めるか、どのように整理して返すかという点では、カウンセリングの視点が大いに役立ちます。
カウンセリングというと、特別な技法や専門用語を思い浮かべるかもしれません。しかし、保護者対応に活かすという意味では、もっと基本的なことから始めれば十分です。たとえば、相手の話を途中で遮らずに聴くこと。すぐに反論したり結論を出したりせず、まず「そう感じているのですね」と受け止めること。相手の話の要点を整理して、「今、一番心配されているのはここですね」と返すこと。こうした姿勢や関わり方は、専門家だけのものではなく、教師が保護者と対話するうえで十分に生かせるものです。
筆者の経験では、カウンセリングの視点をもつと、保護者対応は劇的に変わります。教師自身も少し肩の力を抜いて臨めるようになります。相手の感情を受け止めることは、すべての要求を受け入れることとイコールではありません。むしろ、感情を受け止めることで初めて、事実の整理や学校としての方針の共有が可能になります。
基本スキル5選
では、保護者対応の場面で活かせるカウンセリングの基本スキルには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、今後の連載全体の土台となるものを5つ紹介します。
基本スキル①「傾聴」
傾聴とは、相手の話をただ聞くことではなく、「この人は何を伝えたいのか」「どんな気持ちで話しているのか」を意識しながら聴くことです。保護者が話している最中に、教師の頭の中で「どう返そうか」「それは違うのではないか」と考え始めると、本当の意味で話は聴けなくなります。まずは最後まで聴く、という姿勢が出発点です。そして時には、相手が聞いてほしいことを質問します。
基本スキル②「受容」
受容とは、相手の感じ方や考え方に全面的に賛成することではありません。「そう感じておられるのですね」、「それはとても心配だったと思います」と、相手の感情を受け入れることです。ここが抜けると、保護者は「学校は分かってくれない」と感じやすくなります。
基本スキル③「明確化」
これは、相手の立場に立って、その背景にある思いを言葉にして返すことです。たとえば、「お子さんのことが心配で、どうしたらいいのか迷っておられるのですね」と返すことで、保護者は「自分の気持ちを分かろうとしてもらえた」と感じます。保護者の話は、必ずしも順序立てて語られるとは限りません。話しているうちに、心配なこと、怒っていること、要望、経緯などが混ざってくることもあります。そこで教師が、「今お聞きした内容を整理すると、まず○○があり、それについて△△がご心配なのですね」と返すと、落ち着いて対話を進めることができます。
基本スキル④「アサーティブな伝え方」
学校として伝えるべきことを、相手を否定せずに、はっきりと伝える力です。保護者対応では、受け止めることも大切ですが、何でも受け入れることが望ましいわけではありません。必要な説明やお願い、学校としてできることとできないことを、冷静かつ丁寧に伝える姿勢が必要です。
基本スキル⑤「境界線を保つ」
保護者対応に真面目な教師ほど、「何とかしてあげたい」と抱え込みやすいものです。しかし、家庭での課題まで教師一人が背負うことはできません。学校で担う部分、家庭と協力する部分、必要に応じて専門機関につなぐ部分を整理しながら関わることが大切です。
保護者対応で教師が陥りやすい失敗パターン
<プロフィール>
春日智稀(かすが・ともき)
埼玉県公立小学校教諭・ガイダンスカウンセラー・学校心理士
埼玉心理教育研修会代表・日本学校教育相談学会埼玉県支部理事・東京教育カウンセラー協会理事
