「HSC」とは?【知っておきたい教育用語】

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集団にうまく適応できずに、幼稚園や保育園、学校での生活に困難さを感じている子どもがいます。保護者・家族をはじめ、そのような特徴のある子どもの教育に携わる教職員等の大人が理解しておく必要があるものとして「HSC」が注目されています。では、HSCとはどのような子どもの特徴を表しているのか、教育に関わるものとしてどのような配慮が必要なのかを見ていきましょう。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

「HSC」とは

最近、書籍やネット上で「HSP」と言う言葉を目にすることがあります。HSP(Highly Sensitive Person)は、アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン氏が1996年に提唱した言葉で、「とても敏感な人」と訳されています。環境からの影響の受けやすさ、つまり「感受性」は一人ひとり違いますが、HSPとはこの感受性がとても高い人を表しています。感受性が特に高いために、生活や仕事で受ける様々な刺激に敏感で、他人より嫌な気持ちになりやすかったり、「良くも悪くも」他人の感情に強く反応しやすかったりします(飯村周平、2022)。

HSPの子ども版とも言えるものがHSCです。アーロン氏は、HSC(Highly Sensitive Child)という言葉を用いて、「感覚や人の気持ちに敏感で傷つきやすい子ども」と定義しています(エレイン・N・アーロン、2021)。その上で、子どもの教育に関わる大人が、その特徴を理解し、適切な対応をとることが大切だと主張しています。

HSCの特徴を理解する

ではHSCには具体的にどのような特徴があるのでしょうか。アーロン氏の書籍、「ひといちばい敏感な子」では、6つの特徴が挙げられています。

1.細かいことに気づく
2.刺激を受けやすい
3.強い感情に揺さぶられる
4.他人の気持ちにとても敏感
5.石橋をたたき過ぎる
6.よくも悪くも、注目されやすい

さらに、このような特徴を踏まえた「HSCかどうかを知るためのチェックリスト」が紹介されています。例えば次のような内容です。

・すぐにびっくりする
・しつけは、強い罰よりも、優しい注意の方が効果がある
・年齢の割りに難しい言葉を使う
・直感力に優れている
・大きな変化にうまく適応できない
・誰かがつらい思いをしていることに気づく
・痛みに敏感である
・うるさい場所を嫌がる など

リストでは23の項目を挙げ、そのうちの13項目以上が該当するとき、おそらくHSCと考えられるとしています。HSCは、子どもの15〜20パーセント(ほぼ5人に1人)の割合で存在すると言われています。小学校で考えたときに1クラスに30人の子どもがいれば、4〜6人程度がHSCだということになります。

HSCにとって「学校」はどんなところか

このようにその特徴を見ると、HSCにとって学校はとても刺激の多いところと言えます。まず学校は、多様な子どもが何十人、何百人といった集団で活動するところですから、騒がしい場面もあれば、さまざまなトラブルも起きます。教員が強く叱ることも、学校生活の予定が急に大きく変わることもあるため、教室という空間で活動する中で受ける刺激は、HSCに大きなストレスとなることは容易に想像できます。

一方で、感受性が高いということは、良好な環境でもその影響を他者より強く受けやすいということですから、それを強みと見ることでHSCのより良い成長を促すことができます。

子どもは将来、刺激にあふれた社会の中でストレスを受けながら生きていかなければなりません。学校は、HSCの特徴を活かしながら生きる力を身に付ける貴重な場と考えて、教師も家族もその子供に適切な関わりをしていく必要があります。

HSCへの学校での配慮

「人一倍敏感な子に必要なのは、『先生は自分の味方』という安心感」と言われています。学校、そして教師には、HSCである子どもの特徴を理解し、個々の状態に応じた配慮が求められているということです。もしも理解や配慮がなされないとすると、子どもにも教師にも辛い状況が日々繰り返されることになります。学校での配慮として、例えば次のようなことが有効だとされています。

・その子どもの特性やこれまでの関わり方の工夫を家庭から聞く。
・集団活動の中でもできる限りその子供のペースを尊重する。
・否定的な言葉でなく、肯定的な言葉がけを多くしながら指導・支援する。
・他の子どもや集団を叱責する際も、HSCの敏感さに思いを馳せる。
・人前での発表なども強く緊張することを想定して支援する。
・においや味にも敏感であることを踏まえた給食指導等を心がける。など

HSCは、周りの状況を確認しながら慎重に行動する傾向があり、「石橋をたたいて渡る」あるいは安全だと思っても一歩を踏み出せないという面もあります。その状態を理解した上で、その子どもがチャレンジできる言葉がけや環境を整え、挑戦させて達成感を味わわせるような関わりも大切です。

HSCと不登校

環境の変化という視点でもう一度学校の様子を見てみます。学校では、年度ごとにクラスや担任が代わります。運動会や音楽会などの大きな行事の前後は、学校中がざわざわします。集団の規律が乱れると、人の気持ちを傷つけるような言動が増えるなどということもあります。

このような状況の中で、教育活動が行われ、子どもが成長していくところが学校だという言い方もできます。しかし、HSCにとっては、環境の変化が激しい学校に通うこと自体、大きな負担となりえます。結果として不登校になることもあると言われています。不登校は、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある」(文部科学省)と定義されその原因は多様で複雑です。

児童生徒の不登校数は増加を続け、令和2年度は約20万人という調査結果が報告されています(文部科学省、2021)。HSCへの理解を深め、家庭と連携してその子どもの特徴に応じた配慮をする学校の取り組みが、不登校問題解消の一つの方法となるかもしれません。

▼参考資料
エレイン・N・アーロン著/大橋大二訳『ひといちばい敏感な子』青春出版社、2021年
飯村周平『HSPの心理学』金子書房、2022年
飯村周平(ウェブサイト)「お役立ち仕事コラム
文部科学省(ウェブサイト)「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査-用語の解説」令和4年10月27日
文部科学省(PDF)「令和2年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の課題に関する調査結果の概要」令和3年10月13日

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