主体的に観察に取り組むための教師の働きかけ 【理科の壺】

連載
理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~

國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓

理科の学習において、「観察や実験」は問題解決の過程の中心であり、科学的に追究することが大切です。特に、観察においては、自然の事物・現象と触れ合う中で、その存在や変化の特徴を捉える必要があります。だからといって、観察の時間だけを確保していればそれでよいわけではありません。子どもの主体性を…」といって、こんな授業をしていませんか? 第3学年のモンシロチョウの幼虫の観察を例にご紹介します。優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?

執筆/埼玉大学教育学部附属小学校教諭・肥田幸則
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.教師が最初から課題を提示してしまっている

1)こんな授業をしていませんか?

このように、教師から一方的に課題を提示するだけでは、「先生に言われたから見る」というように子どもが主体的に観察に取り組む姿は期待できません。何のために観察をするのか、その目的を明確にする必要があります。今回で言えば、子ども自ら「モンシロチョウの幼虫をよく見てみたい」という思いが持てるような、子どもの問題意識を高める教師の働きかけが大切です。

2)主体的な学びになるために、どのように働きかければよいのか?

<働きかけ> 子どもの発言を生かせるように発問を工夫する

主体的に観察を行うためには、問題を見いだす場面において、いかに子どもの問題意識を高めることができるかが重要です。

例えば、モンシロチョウの卵と幼虫を比較し差異点に着目する中で、「モンシロチョウの幼虫は動くから足がある」という子どもの発言に対しては、「脚は何本あるのかな?」と教師が問うことで、子どもは「幼虫の脚の形や数」に着目するようになります。また、「モンシロチョウの幼虫はキャベツの葉を食べるから口がある」という子どもの発言に対しては、「口はどんな形をしているのかな?」と問うことで、子どもは「幼虫の口の形」に着目するようになります。このように、教師が何を見せたいのか、子どもが何を見たいのかを意識しながら、子どもの実態に合わせて発問を変えていくとよいでしょう。

2.教師が曖昧な指示をしてしまっている

1)こんな授業をしていませんか?

他にも、こんな声掛けはしていないでしょうか? この事例のように、「よく見てみましょう」と指示を出すだけでは、子どもは観察する対象を漠然と眺めてしまい、特徴を捉えることができません。単元や内容によらず、観察を行うときには、【①色 ②形 ③大きさ】に着目することや、諸感覚を生かして観察をするなど、観察方法の基本について事前に確認しておきましょう。その上で、どこを見るのか観察の視点をもって観察に取り組めるようにすることが大切です。

2)主体的な学びになるために、どのように働きかければよいのか?

<働きかけ> 子どもが観察の視点を決めるための指示の工夫をする

教師が見せたいものと、子どもが見たいものが必ずしも一致するとは限りません。例えば、モンシロチョウの成虫の体のつくりを観察する場合、教師から「体のつくりはどうなっている?」「羽の枚数は?」など問うことで、子どもは教師から提示された視点で観察をするようになります。しかし、これでは、子どもが自ら見てみようという意欲の高まりにはつながりません。子ども自身に「体のつくりをよく見てみよう」「羽の枚数を調べてみよう」といった観察の視点を決めさせることが大切です。

そのためには、例えば、まず「モンシロチョウの成虫の絵を描きましょう」と問いかけ、観察前に、子どもの生活経験からイメージするチョウの絵を描く活動を行います。次に、子どもたち一人一人が描いた絵を黒板に並べて貼ります。すると、子どもたちの描いたチョウは体のつくりや羽の枚数、脚の数など様々であり、これらを比較し話合いを通して整理していくことで、「実際のチョウはどうなっているのかよく見てみたい!」という調べる必要感が高まり、自分で決めた視点で主体的に観察をするようになります。

このように、これまで何気なく捉えていたものを、もう一度よく見てみようとする働きかけをするとよいでしょう。

生き物以外を観察する場合には、問題の予想場面において、子どもの予想を比較することで、その差異点に着目したり、結果の見通しがもてるようにしたりすることも有効です。

<働きかけ> 観察をしやすくするための工夫をする

観察する対象が小さかったり、動いたりする場合、子どもが実際に観察することが難しいことがあります。そんなときは、子どもが見たいものが見えるような支援をする必要があります。例えば、モンシロチョウの幼虫の脚の形や数を観察する場合は、透明なシートの上に置いてあげるだけで下から覗いて見ることができます。また、方眼用紙の上に置くと、今度は動いていても幼虫の体の大きさを測りやすくなります。

このように、子どもが観察したいものを見やすくするための工夫や道具を用意しておくとよいでしょう。また、現在一人一台端末が配付されていますが、写真や動画を記録して、見たいものを拡大したり、継続的に観察したりするのに使用することも有効です。

イラスト/難波 孝

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〈執筆者プロフィール〉
肥田幸則●ひだ・ゆきのり 埼玉大学教育学部附属小学校教諭/埼玉県理科教育研究会幹事/埼玉県CSTマスター(中核的理科教員)。理科を中心に日々実践研究を行いながら、小学生を対象とした理科実験教室や、大学生を対象とした教員養成セミナーの講師を担当するなど、埼玉県内の理科教育の振興に力を注いでいる。


<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。


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