「心理的安全性」とは?【知っておきたい教育用語】

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経営学などでも注目されている「心理的安全性」。その意味や仕組み、高めるための方法などについて理解することで、質の高い集団づくりに活かすことができるでしょう。

執筆/鳴門教育大学教職大学院教授・久我直人

「チームの生産性向上の最重要要素」

心理的安全性とは、エドモンドソン(1999)によれば、「チームにおいて、他のメンバーが、自分が発言することを恥じたり、拒絶したり、罰をあたえるようなことをしないという確信を持っている状態であり、チームは対人リスクをとるのに安全な場所であるとの信念がメンバー間で共有された状態」と定義されています。

昨今、経営学の世界でこの概念が注目され、Googleの「プロジェクトアリストテレス」が、実証実験で「チームの生産性向上の最重要要素」と位置づけた概念です。

学級・学校における「心理的安全性」

現在、不登校の増加に歯止めがかからない状態が続いています。その要因の一つに学級等における対人ストレスが挙げられています。

また、子どもたちの資質・能力の向上のために、「主体的・対話的で深い学び」を日々の授業の中に組み込むことが求められています。しかし、筆者の数多くの学校訪問における課題として、「他者の目を気にして自分の思いを十分に語りきれていない子どもの実態」が散見されます。

この課題の原因として、個人が感じる集団への安心感、信頼感の醸成が不十分であることが指摘されます。個々の子どもが、集団からの同調圧力等から解放された「心理的安全性」の高い集団づくりが求められています。

逆に、学級・学校の「心理的安全性」の醸成が、不登校対策と主体的・対話的な学びの具現化を同時に実現する可能性のある教育的営みと言えます。

学級・学校の「心理的安全性」を高める方法

心理的安全性は、自然発生的には醸成されにくく、時間経過と共に一般的には集団内の序列化が進む傾向があります。そのため、意図的な取り組みや仕組みを組み込むことが求められます。

筆者がかかわる学校(小・中・高の校種を問わず)で導入しているのが「相互承認」の仕組みです。教員からの組織的な「勇気づけ教育」に加え、子ども同士がお互いの頑張りや優しさを、事実を踏まえながら交流する仕組みです。週末ホームルーム等での「相互承認」の場の設定や、行事等の振り返りでの「ありがとうメッセージ」の交流等、各学校の実態に合わせた取り組みが展開されています。その取り組みの結果、潤いのある学級・学校文化の醸成が促されています(久我 2019)。

一方、「心理的安全性」の向上を阻害する要因・要素もあります。学校現場で散見されるのが、友だちを傷つける言葉やふるまいです。特に生徒指導困難な学校では、生徒の家庭背景等の影響から、悪気なく人を傷つけるような言葉が飛び交うことが散見されます。このような場合は、「言葉環境の整備」等も「心理的安全性」を向上させるために必要な取り組みと言えます。筆者がかかわる生徒指導上の問題を抱えた中学校では、生徒同士で生活を振り返る場が設定され、「言われて傷ついた言葉やふるまい」をホワイトボード等に出し合い、「NGワード」として学級で共有する営みが展開されています。これも短期間で、生徒の行動変容が確認される効果のある取り組みと言えます。

「心理的安全性」を高めるリーダーシップ行動

エドモンドソン(2012)は、心理的安全性を高めるリーダーシップ行動として、以下の特徴を示しています。不登校を生み出しにくく、活力のある学級づくりを進める教師の指導行動の在り方と重なります(括弧内は教師に置き換えた言葉にしています[久我2020参照])。

●直接話のできる人になる、親しみやすい人になる
●自分の持っている知識の限界を認める
●自分もよく間違うことを積極的に示す
●メンバーを重視し、参加を促す(学級全員で学級文化を創る)
●失敗は学習機会であることを強調する
●具体的で行動可能な言葉を使う(わかりやすい行動目標を明示する)
●許容レベルを明確に示す(人を傷つける言葉等に関しては明確な指導を行う)
●許容範囲を超えたものについては責任を負わせる(集団としての基本ルールを子どもと共有する)

不登校児童・生徒の増加を防ぎ、信頼をベースとした学び合いを促す「心理的安全性」の醸成は、これからの学級・学校づくりに必要であり、有効な教育的な営みと考えます。

▼参考資料
Edmondson.A (1999) Psychological safety and learning behavior in work teams Administrative Science Quaterly 44(2) pp.350-383
久我直人(2019)『 子どもの幸せを生み出す 潤いのある学級・学校づくりの理論と実践  ―確かな学力を育み、いじめ・不登校等を低減する「勇気づけ教育」の組織的展開とその効果―』(ふくろう出版)
Edmondson.A (2012) Teaming: How Organizations Learn, Innovate, and Compete in the Knowledge Economy Jossey-Bass Inc Pub
久我直人(2020)『潤いのある学級をつくる教師の省察力(せいさつりょく)と「勇気づけ教育」 ―子どもとの信頼を築き、不登校を生み出さない教師の特徴―』(ふくろう出版)

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