ICTを活用した小6国語「大造じいさんとガン」~複数ツールで多様で自由な意見を出し合う楽しい授業とは

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「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例
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2020年4月の新学期は、緊急事態宣言下、政府の要請で小学校は休校中でした。新任教員だった東星学園小学校の竹腰友里子先生は、初日から在宅勤務で、子どもたちとの出会いはオンラインホームルーム。思いもよらない形で教員生活をスタートすることになりました。

ただ、このとき“オンライン”を経験したことで、竹腰先生はICT活用の必要性や面白さに気づきます。そして、さまざまなICTツールの活用に挑戦。試行錯誤しながら、「多様性を育むICT教育活動」に取り組んで、成果を上げてきました。

ICTを使うことで、子どもたちがどのように多様性を理解して受け入れていくのか、そのプロセスや考え方について、竹腰先生に伺いました。

竹腰友里子先生

竹腰友里子(たけこし・ゆりこ)●東星学園小学校教諭。コロナ禍の中、社会人1年目として東星学園小学校に着任。2021年度よりICT教育推進委員を担当。授業の内外でICT機器を積極的に活用し、教員生活を奮闘中。

ICTツールは、特徴を生かして組み合わせて使う

2020年度の教科の学習は、6月の分散登校からスタートしました。それまでオンラインでしか顔を合わせたことがなかった5年生のみんなは、初対面だけど知っている子どもたち、という不思議な感覚だったのを覚えています。

新任早々、オンラインプラットフォームを使ったことでICTとの距離が近くなっていた私は、ICTを授業にもっと取り入れたいと考えました。そこで、授業の単元ごとに、schoolTaktやGoogleフォーム、あるいはMicrosoft OfficeやMacのKeynoteなどを次々に使ってみました。

ところが、子どもたちから、「この前はあのアプリを使っていたのに、最近はこのアプリばかり。一つだけでなく、いろんなアプリを同時に使うことはできないの?」という声があがったのです。

確かにアプリにはそれぞれ得意分野があるので、一つに特化するよりいろいろ組み合わせて使うほうが、子どもたちが飽きることもなく、より学習効果が上がるのではと気づきました。

例えば、Googleフォームは、学習した内容の復習や、次の授業へのつなぎになる質問をするのに向いています。また、schoolTaktは、みんなの多様な意見を知って、より深く学ぶのに適しています。

そこで、国語の単元「大造じいさんとガン」に、この2つのアプリを使って取り組んでみました。

GoogleフォームとschoolTaktで、多様性を生み出す環境を作る

文章読解の授業では、語彙力や指示語を理解する力をつけて、内容を正確に読み取れるようになることを目指します。同時に、想像力を豊かに働かせて、登場人物の心情を推察したり、物語を自分に引きつけて考えたりして、自分の意見を言えるようになることもとても大事です。

そこで、GoogleフォームとschoolTaktの特性を生かして、正確な理解と自由な意見発表という両方の学びに活用することを目指しました。

Googleフォームには、言葉の意味や、文章の内容を理解できているか確認する復習問題や、次の授業の導入になるような質問を載せました。例えば、「狩りをすることを仕事にしている人のことは何という?」といった語彙の問題については、次の授業で全員に正答率の円グラフを見せて、正しい答えを確認します。

間違えてしまった子どもたちも、100%の正答率を目指して授業を聞くようになり、授業内容の定着にも効果的でした。

竹腰先生−1

また、次に情景描写を学ぶ予定だったので、事前に「『秋の日が、美しくかがやいていました』の一文は必要だと思いますか?」といった質問を投げかけました。「必要」なのか「いらない」のか、その理由も聞きます。この問いには正解はないので、思ったことを自由に書いてもらいました。

そして授業では、「必要だ」「いらない」がほぼ半数ずつに分かれた結果をグラフで示し、全員の理由を画面に映して確認しました。面白い意見があったら、どうしてそう考えたのか聞いたりして、次の学習にスムーズにつなげることができました。

竹腰先生−2

schoolTaktは、授業中に課題を出して、子どもたちが書いた答えを共有するのに、レイアウト的にもわかりやすく最適です。ことばの意味を聞く問題では、他の人の答えを見て真似をしてもいいことにして、正しい答えを書くようにします。

一方で、「どうして大造じいさんはじゅうを下ろしたのでしょう」といった、意見を求める質問では、自信がなくてもいいので自由に想像して自分の考えを書くように促します。これを全員で共有することで、子どもたちはさまざまな違う意見があることを知ることができます。

竹腰先生−3

自由に考えて表現し、反論したり認め合ったり……それが面白い

私は、子どもたちが自由に読み取り、自由に考え、自由に表現できること、そしてそれが認められ、受け入れられることが「多様性」だと考えます。そして、子どもたちがそれを面白いと思えたら、多様性を理解し、認める力が育まれたといえると思っています。

schoolTaktでみんなの意見を共有してコメントし合うとき、子どもたちは「友だちの意見だから認めなきゃ!」と考えてしまい、コメントがあまり深い内容にならないこともあります。そんなときは、私から反対意見を出してみます。すると、子どもたち同士だと受け入れるだけで終わっていたのが、「いやいやそれはこうだから……」「でも、こうかもしれないよ」といろいろ意見が出てきたりします。

理想は子どもたち同士で反論し合い、最終的に「どれも面白い! でも自分はこう思う」というところに持っていくことです。でも、受け入れることと反論することを同時にやるのはまだ難しいので、今のところ私が反論する役を担っています。

子どもたちの発言にフィードバックするときは、私は「いいね」よりも「面白いね」と言います。「いいね」だと、子どもたちは「それが正解なんだ!」「他は不正解?」「正解を真似したい!」と思いがちです。そうならないように、正解か不正解かわからない、どっちなんだ? 自分はどう考えよう?と思わせるような声掛けをしています。

全員の意見を共有して、子どもたち一人ひとりの居場所を作る

多様性を認め、受け入れて、自由に発信する環境を作るための第一歩は、子どもたち一人ひとりが自分の居場所がここにある、と感じることだと思います。

今まで個人でノートに書いていたことが、schoolTaktの共同閲覧モードを使えば、有無を言わさずクラス全体で共有されます。子どもたちは、自分の答えを見られるのが恥ずかしい、などと思っている暇はありません。そして、全員の答えの中に、自分の答えがあるのを見ると、当たり前かもしれませんが、自分がクラスの一員なんだと実感できます。

代表の子どもたちの意見だけを板書するよりも、視覚的なわかりやすさを維持しながら、全員の意見を共有するほうが、より多様性を感じて理解することができます。ICTツールのこのような機能は、多様性を育む教育にとても有効だと思います。

ICTの活用は、子どもたちと一緒に「とりあえずやってみる」

私は、ICT活用でも何でも「とりあえずやってみる」ことを大事にしています。やってみなければわからないことがいろいろある中、子どもたちに教わることもたくさんあります。それで、自分も一緒に子どもたちとやってみて、みんなで問題を解決していくようにしています。

2020年の新学期がオンラインでスタートしたとき、最初に難しいと感じたのは、自然なおしゃべりがないこと、子どもたちの反応が見えづらいことでした。リラックスしてもらいたいと思って話したジョークも、子どもたちの声が聞こえないと、どう受け取られたのかわからず不安になります。

そこで、ビデオシステムにあるチャット欄を、人が嫌な気持ちにならないことなら自由に書いてもいいよ、と開放してみました。すると、タイプミスはあるものの、さまざまなリアクションが返ってきたのです。教室では「人の話を聞くときは正しい姿勢で静かに聞きましょう」と指導します。でも、その場の雰囲気を子どもたちと一緒に形成するためには、時と場合によってはルールを崩してでも、いろいろやってみることが必要だと気づきました。

今も授業では、引き続きさまざまなICTツールの活用に取り組んでいます。例えば、『枕草子』の「秋は夕暮れ」の部分をKeynoteやPowerPointなどのプレゼンテーションツールを使って表現する実践も行いました。プログラミング教育と関連させて、『枕草子』の風景をそれぞれのソフトのアニメーション機能を生かしながら表現するといった内容です。

竹腰先生-アニメ

使える画像を、ソフトに元々入っているアイコンだけに限定すると、何をカラスに見立てるか、山を何で表すか、夕暮れはどんな色か、どのタイミングでアイコンを動かすのか等、子どもたちによってできるものはさまざまでした。夕暮れを赤くぬりすぎてしまった子が「これじゃ“秋は山火事”だ」と、「秋は○○」の語感を楽しんでいたのも印象的でした。子どもたちの多様な個性が現れた作品ができあがり、とても面白い実践になりました。

これからも、とりあえずやってみて、失敗しても、次は何ができるのか、子どもたちと一緒にワクワクしながら取り組むことを続けていきたいと思っています。

取材・執筆/石田早苗

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