児童主催の学校紹介イベントで「発信したい!」を実現 – 洗足学園小学校のICT活用実践

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iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜
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「先進的な自治体&小学校」の「ICT活用」実例

洗足学園小学校は、2016年にタブレットを導入し、現在は全学年1人1台体制でICT活用を推進しています。導入後、授業や学校生活のさまざまな場面で、ICTを活用した子供たちの自己表現の場が増えました。その面白さを知った子供たちは、もっと多くの人に向けて自分たちのことを発信したいという気持ちを持つようになります。

そこで実現したのが「センゾクノトビラ」です。子供たちが自ら学校を紹介するこのプロジェクトについて、そこに至るまでの活動や、現在の様子なども含めて、同校のICT統括を担当する宮田好展先生に詳しく伺いました。

宮田好展 (みやた・よしのぶ) 洗足学園小学校 ICT統括
早稲田大学教育学部教育学科卒。Apple Distinguished Schoolに認定されている洗足学園小学校へ2002年に着任。現在は進路指導部長、ICT統括を担当。旅行業務取扱管理者(国内/総合)を取得。

授業も休み時間も、iPadは普段使いのツールに

洗足学園小学校では2016年にiPadの利用を開始。2018年には、新3年生が1人1台iPad Proを携帯することになり、ICT活用が本格化しました。2019年には、Apple Distinguished Schoolに認定され、今年度からはすべての学年で1人1台体制でICTを活用しています。

iPad導入当初、ICTに詳しい先生が少なかった当校では、先生達が自主的に、短時間のICT研修の場としてICT_caféを立ち上げました。月に数回、勤務時間内の20~30分で開催する、ICTを体験しましょう、という自由参加の勉強会です。先生同士が面白いアプリを紹介しあって使い方を楽しく学び、ICT活用のスキルアップを図るのが目的でした。

2020年には、児童向けに、昼休みの時間を使ってICT_café for kidsを開催するようになりました。そして、2022年からは、児童と教員が一緒に学ぶICT_café for kids, for teachersがスタート。子供たちと教員が楽しく教え合いながら学んでいます。

今では、毎日いつでもどこかの教室でiPadを使った授業が行われています。そして、休み時間には子供たちがプログラミングをしたり、Yomokka!などのアプリを使って本を読んだりと、iPadはすっかり普段使いのツールになりました。

私も授業でいろいろな形でiPadを活用しています。例えば、3年生の社会科の「理想の商店街をチームで作ろう」という実践では、iPadのアプリ、SchoolworkとKeynoteを組み合わせて、班の子供たちが資料を共同編集し、それを使ってプレゼンテーションをする活動なども行いました。ネットの検索には、フィルタリング機能を設定しているので、iPadは調べ学習などにも使っています。

当校のICT活用については、「洗足学園小学校 ICT」というサイトを立ち上げて、詳しくご紹介しています。先生たちの教育活動に関する情報もここで発信しています。

ICT_café については、こちらの動画でご説明しています。
『学校を変えたICT_café』(前編)|赤尾綾子(洗足学園小学校)|iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜【Vol.351】
『学校を変えたICT_café』(後編)|佐々木美紀(洗足学園小学校)|iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜【Vol.352】

児童主催の校外向け情報発信イベントが実現

子供たちのICTを使った情報発信は、クラス内で同級生に向けたものから始まりました。「選挙ポスター」や、係活動からのお知らせなどを、子供たちは、iPadを使って、写真やイラスト、文字サイズ、文字の色、フォントなど、品質にこだわって作るようになりました。

また、当校では「たてわり班」の活動がさかんで、上級生が下級生に向けて情報発信することもよくあります。各委員会が廊下に掲示するポスターや各教室へのお知らせを作る、朝の時間に下級生の教室に行ってスライドを見せながら発表するといった活動も行っています。発表の際は、ロイロノートのアンケート機能で下級生の声を集めたりすることもありました。こんな形で発信先が少しずつ広がっていき、子供たちはもっといろいろな人たちに向けて情報発信したいという意欲を持つようになったと思います。

Apple Distinguished Schoolの認定を受けている学校は、Apple製品とアプリケーションを活用して教育関係者向けに情報発信するOpen Dayを開催することになっています。2020年には、教員が当校の取り組みをオンラインで紹介しましたが、その際、この発信を子供たちにもやってもらったらどうか、という声が上がりました。

2021年に6年生になるのは、2018年の3年生、当校で初めて1人1台体制が実現した学年です。彼らに「ICTを駆使して、自分たちの学びを外へ発表してみないか」と声をかけると、全員が「やってみたい!」と賛成してくれました。そして、当校初の児童主催の外部向けオンラインイベントが実現したのです。

撮影から編集まですべて児童が行う「センゾクノトビラ」

翌年の2022年度も、新学期が始まってすぐ準備がスタートしました。イベント名は、Open Dayから「センゾクノトビラ」に変更しました。これは、子供たちから名前を募集し、最終的には投票で決定したものです。

開催は6月30日。コロナ禍のため、Zoomを使い、保護者や教育関係者、洗足学園小学校に関心を持っている人たちなど事前申し込みをした人たちに向けて配信するオンラインイベントです。

6年生全員がクラスの枠を超えて12名ずつのチームに分かれ、それぞれが洗足学園小学校を紹介するビデオを作り、それをイベントで発表します。ビデオのテーマを決めるにあたっては、まず教員が「こんなことを紹介できるといいのでは?」というキーワードをいくつか投げて、子供たちが議論、検討し、絞り込んでいきました。

その結果、以下のテーマが決まり、子供たちは自分が入りたいチームを選択。各チームには、教員が1人ずつサポート役として入りました。
・洗足学園小学校とは
・一人一台iPad
・おしゃれな小学校
・たくさんの可能性
・学年を超えた結びつき
・いろいろランキング

自分たちのテーマをどうやって伝えるのか、どんな話題を入れるのかは、各チームで議論して決めていきます。最初はあれもこれもと、どんどんアイディアが広がるので、先生も手伝いながら、ロイロノートのシンキングツールを使ってアイディアを整理していきました。

伝える内容が決まったら、いよいよビデオ制作です。発信形式を決めて、演出、動画撮影、画面デザイン、原稿作成、編集作業まですべて子供たちが行いました。活動は「総合学習」の時間に行い、それだけでは足りない時は、学級活動の時間を使ったり、子供たちが自主的に休み時間に活動したりしたこともあります。スケジュールに間に合うよう、みんなで力を合わせて作業しました。

オリジナリティあふれる学校紹介動画が完成

そしてイベントのライブ配信当日の6月30日。当日の企画、進行、発表はすべて児童が担当し、配信は教職員が行いました。

「センゾクノトビラ」配信当日の収録の様子

「洗足学園小学校とは」のチームは、授業の様子を説明するのに、インスタグラム風の画面デザインを取り入れ、休み時間に空き教室を利用して授業の再現ビデオを撮ってそれを挿入するなどの工夫をしました。

「洗足小学校とは」のビデオの一場面

チーム「一人一台のiPad」は、落ち着いたナレーションやBGM、効果的なカメラワークが印象的な、ニュース番組のようなビデオを作っています。ビデオ内での個人情報保護のための配慮も行き届いていました。

「一人一台のiPad」の一場面

「たくさんの可能性」のチームが作ったのは、突撃インタビューとクイズという構成の番組です。コロナ休校中のオンライン授業でZoomのアンケート機能を使ったことを覚えていた子供たちは、ライブ配信当日これを使って視聴者にクイズを出したいと言ってきました。そして当日は、参加者が実際にクイズに答えてその結果を共有するという、視聴者参加型の発表が実現したのです。

これらのビデオの一部はこちらでご覧いただけます。

視聴者を意識して、どうしたら自分たちのメッセージをわかりやすく、時にユーモアも交えて伝えられるか、チーム内で議論を繰り返してビデオを作り上げることができました。この取り組みは、子供たちの思考力、創造力、チームワーク力、コミュニケーション能力アップにつながったと思います。視聴者のみなさんからも、高い評価を得ることができました。

一人一人が自分の得意分野でビデオ制作活動に貢献

「センゾクノトビラ」は、外部に発信するという明確なゴールがあり、子供たちはそこに向かってICTをしっかり活用することができました。低学年のころから授業やいろいろな活動でICTを使ってきた積み重ねが生かされていたと思います。

ビデオの制作はチーム全員で行いますが、必ずしもみんなが同じようにICTをうまく使いこなせるわけではありません。ビデオを撮ったり編集したりするのは苦手だけれど、カメラの前で話すのは好き、とか、ビデオに出演したくはないがストーリーを作る裏方はやってみたい、など、やりたいことも異なります。各チームにはまとめ役のリーダーもいて、みんなでそれぞれが得意なことを担当して協力できるように工夫しました。

時間をかけて活動をしていく間には、自分の意見を聞いてもらえない、やりたい仕事ができない、などの理由でチームの他のメンバーとの関係がこじれてしまう児童が出てきたりすることもあります。子供たちだけで軌道修正が難しそうな時は、サポーター役の教員がチーム全員に声をかけ、仕事を分担したり、必要な新しい仕事を考えたりしました。その結果生まれた仕事が、ビデオ作成の成功の鍵になったということもありました。

「センゾクノトビラ」は児童の児童による児童のためのイベントで、先生たちは、必要に応じてアドバイスする調整役です。議論が活発でないときは教職員が一人の参加者としてアイディアを出して議論を活性化させたり、逆に議論が白熱して広がりすぎたときには収束を図るよう働きかけたりしました。

でも、問題が起きたら、基本的には子供たちが自分で考えて解決します。教員はいろいろ言いたくなることもありますが、この活動に限らず、ICT活用に関しては特に、教員は「見守り」に徹することが大事だと思います。

教員のつとめは「やってみたい」を実現する場を作ること

「センゾクノトビラ」は、2023年度にも開催しています。今年は子供たちから「参加者と直接触れ合いたい」という強い要望があり、コロナも落ち着いたので、未就学児(年長児)とその保護者を招待して対面形式のイベントを行いました。

プログラムは2部構成で、前半は学校の魅力を伝える動画の紹介と参加型の企画、後半は招待した子供たち向けのワークショップ(プログラミング、図形アプリケーション、Base_C、お話し隊)でした。これらはすべて、6年生の子供たちがやりたいと希望した内容です。当初教員たちが想定していたことは4月の時点ですべて覆され、あとは子供たちが自主的にどんどん企画を進めて実現しました。

私たち教員のつとめは、児童の「やってみたい」という気持ちを尊重して、それを実現できる場を設定することです。子供たちにとって、やる気を発揮し、自分がやりたいことを実現するという経験は、かけがえのない成長の機会になります。

また、ICT活用における先生の役割は、いろいろな表現方法を子供たちに紹介することだと私は思っています。ICTは、子供たちがさまざまな形で自己表現するのを可能にしてくれます。人前で発表したり、文字に書いて作品にしたりするのが苦手という児童も、写真や動画、音楽やスライドなど、自分に合った表現方法を選択すれば、自由に自己表現できるようになります。

今ICTを使って具体的にどんなことをやったらいいのか悩んでいる先生方には、ICT活用先進校を見学してみることをお勧めします。百聞は一見に如かずです。いろいろな活動を見て、まずそれを真似するところから始めてもいいのではないでしょうか。当校でよければいつでもご案内しますので、声をおかけください!

取材・執筆/石田早苗

教育現場でICT活用を実践している先生や学生たちが、その実践事例やノウハウをプレゼンテーション形式で紹介するYouTubeチャンネル「iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜」はこちら → https://www.youtube.com/iteacherstv

『ICT × 新たな挑戦』(後編)|宮田 好展(洗足学園小学校)|iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜【Vol.364】
『ICT × 新たな挑戦』(前編)|宮田 好展(洗足学園小学校)|iTeachers TV 〜教育ICTの実践者たち〜【Vol.363】

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