コミュニケーションに課題がある子を、学級のコミュニケーションから遠ざけるとは?
- 連載
- 大切なあなたへ花束を

特別支援学級の子どもたちは、人と人とのコミュニケーションに困難を持っていることが多いです。そうした子どもたちの困難を解消するためには、コミュニケーションの機会を増やすことが最善手ですが、多くの場合こうした子どもたちは、他の子どもたちから分断され、コミュニケーションの場面から遠ざけられています。特別支援学級の担当になったら、それをどのように考え、対応していけばいいのでしょうか。今回は、そんな悩みに直面した若手の先生のお話です。
【連載】大切なあなたへ花束を #29
執筆/みんなの学校マイスター・宮岡愛子
支援とは分離することなのだろうか
私が仲良くしている若手の教員からある日、連絡が来ました。
「宮岡先生、助けてください。夜電話してもいいですか?」
ただならぬ様子です。
この若手教員は、女性で新任3年目の佐藤(仮)先生。初めて出会ったとき、彼女は大学卒業したての1年目で、当時3年生を担当していました。
“子どもを主語にした学級”をつくりたいと考え、いつも子ども同士の対話を中心にした授業を組み立て、子どもを信じて任せることを大切にしようとしていました。
そのような方針である上に、子どもたちと目線の高さが最も近い20代前半です。クラスはいつも話し声にあふれていました。受け持ちのクラスは、3つ並びの教室の真ん中で、両隣の先生からいろいろ言われることも多く、しんどかったことも多かったのではないかと思います。
両隣の教室では、子どもたちは静かに話を聞いている。黙って手をあげている。手はおひざで背筋がピンになっている。
それに比べて、私のクラスでは・・・と、佐藤先生は悩んでしまうときもあったことでしょう。
自分のクラスもそうあらねばならないと思い込んで、ついつい子どもに指示・命令が増えてしまう、という場面も見てきました。
だから私はつねづね、
「佐藤先生の方向性は間違っていないよ。
『はい授業を始めます。教科書とノートをあけて、先生が読むから、書いていきや』
なんて言う授業はしてないやん。一方的に教えこむこともなく、ルールを押しつけることもなく、いつもクラスの子どもに考えさせてるやん。
『いや、やりたくない』という子どもにも寄り添い、理由や自分のできることは何かを聞いてるやん。それでいいねんで」
と話していました。
佐藤先生は初年の1年間を、最後まで精一杯やり通しました。3学期の最後の教室で、佐藤先生がギターを弾き、子どもたちがリクエストする歌を楽しげに合唱している姿が鮮やかな記憶として残っています。
◇
そんな佐藤先生は、今年度、特別支援学級の担当になったと聞いていました。
近年、佐藤先生のいる学校では、子どもの数がどんどん減り、反比例するかのように支援を必要とする子どもの数が増えていました。
そこで、その学校は特別支援教室だけでなく通級教室も作り、少しでも子どもに課題があると感じたら、すぐに保護者に連絡をして「お試し」ということで体験をさせ、入級につなげていました。
通級教室や特別支援学級に行くと、子どもたちは周りに合わせる必要もなく、自分のやりたいことや、あっていることだけをやるようになります。
当然、子どもはここがいい、ここでやりたいと思ってしまうでしょう。
教師の方も、「特別支援級で落ち着いて学んだ方が子どもにとってよい」と保護者に話していました。
いわゆる「子どものために」ということです。
そうです。その学校では、子どもたちがどんどん分離させられていたのです。
分けられた子どもは、なかなか教室に戻ることができなくなっていきました。
実は初年度の秋ごろ、佐藤先生が受け持っていた学級の子どもの中でも1人、特別支援学級に行くことになった子どもがいたのです。
「なんで、先生のクラスのあの子は特別支援学級に行ったん? 教室で十分行けたと思うよ。佐藤さんのこと、めっちゃ好きやったやん」
と、佐藤先生に聞いたことがあります。すると、
「私もあの子は教室にいるべきやったと思います。でもあまりにも周りに言われてしまって⋯⋯」
と答えたのでした。
いちばん若い先生が、周りのベテラン教員から「子どものために必要や!」と言われたら、反対することもできなかったのでしょう。
そんな状況下、佐藤先生が特別支援学級の担当になったのですから、私はひそかに喜んでいたのです。
熱い思いをもつ佐藤先生だからこそ、この新しい状況で、また一段成長してくれるだろう、と…。
子どもを主語に現状を見直す
その日の夜、佐藤先生と私はオンラインで久し振りの再会を果たしました。
佐藤先生はいま、特別支援学級の2年生と6年生の子どもを受け持っており、
「6年生の子どもはまじめにやろうとしているけれど、コミュニケーションに課題があり、発表も苦手で、通常の学級にはなじめません。2年生の子どもは、1年生のとき、学校に慣れることを目標に通常の学級でやってきたけれど、学習面でついていくことができずに在籍することになりました」
というのが、子どもたちの入級の経緯でした。
そこで、
「人とのコミュニケーションに課題がある子どもなのに、どうして通常の学級でコミュニケーションを学んではだめなのでしょうか? 特別支援学級担当を担当する先生は7人もいますが、受け持つ子どもは学年も学習内容もバラバラの40人で、教師一人ひとりの負担は小さくありません。横のつながりが作れずに、小さなグループがたくさん存在してるような状況です。どのようにしたら、子どもたちをつなげ、コミュニケーションを伸ばしていけるでしょう?」
と、佐藤先生は行き詰まりを感じていました。
私は、
「なあ、初めて支援学級の担当になって、何か良かったことはないん?」
と聞いてみました。
すると佐藤先生は、家庭訪問の話をしてくれました。通常学級の担任と一緒に訪問をしたのですが、通常学級の先生が帰ってからも、母とじっくり話したそうです。受け持ちの子どもが少ないからこそ、できたことです。より深く母の気持ちにふれ、信頼関係を結ぶことができ、使命感も新たにすることができたそうです。
そこで私は佐藤先生に、
「どんどん動いていき。動かな学校は変わらないよ。子どもを主語に現状を見直してみたら? 子どもは子どもの中で育つから」
と話しました。

そして子ども同士をつなげていく
その佐藤先生が、今の状況下でできることを自分なりに考え、踏み出した「一歩」は次のようなものでした。
イラスト/フジコ

宮岡愛子(みやおか・あいこ)
みんなの学校マイスター
令和7年度あかし教育研修センタースーパーバイザー。社会教育士。私立の小学校教員として教職をスタートするが、後に大阪市の教員となり、38年間務める。教員時代に木村泰子氏と出会い、その後、木村氏の「みんなの学校」に学ぶ。大阪市小学校の校長としての9年間は「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに取り組んだ。現在は、「みんなの学校マイスター」として活動している。
